第5話
その男の面影を見つけたのは、
母親が高校生のときの卒業アルバムだった。
母親の隣のクラスの集合写真の、
男子の個人写真の中。
高校生だからかなり若い印象だけど、
肌の色の黒さや大きな目、
そしてクセのある髪の毛は男とそっくりだった。
念のため、大学や仕事場でのアルバムも
一通り見たけれど、これほどそっくりな人は居なかった。
「ねえ、お母さん。
この卒アルの写真の人、誰?」
ちょうど帰宅した母親に
アルバムを持って聞きにいくと、
母親は一瞬ビックリしたような顔をした。
「・・・それは、あんたの親父だよ」
私は手からアルバムを落とし、
言葉を見失ってしまった。
なんと言っていいのか分からない。
本当は、母親に今日のことを話すつもりだった。
でも、私に言う勇気はなかった。
10年以上会っていない父親に
襲われそうになったなんて、私には言えない。
その男のせいで、車の音を怖がったり、
家から出ることさえも脅えるようになってしまった。
それほどまで怖い思いをさせたのが父親だなんて、
母親には口がさけても言えなかった。
数日で車の音や外出自体への恐怖はなくなったけれど、
私はそれから男性恐怖症になってしまった。
幸い、学校のクラスメイトなどの
知っている男子は平気だったから
みんなには隠し通すことが出来たけれど。
外出し、男性とすれ違うたびに抱く恐怖感。
鮮明に思い出してくるあの時の記憶。
私は、父親に襲われそうになった恐怖と記憶を、
一生1人で背負っていくことに決めた。