第4話
小学生のとき、さんざん習ったことがある。
へんな人に声をかけられたらすぐに逃げましょう。
大声を上げて、助けを求めること。
近くの大人にすぐに言いましょう・・・。
そんなこと、言われなくても分かっていると思っていた。
怖いときに悲鳴を上げることくらい、
人間の本能で出来るんだと思っていた。
でも、人間、本気でこの上ない恐怖を感じるとき、
声も出なければ足も動かないものなんですね。
よく色んな漫画やドラマで、
悲鳴をあげて逃げるシーンがあるけど、あれは間違い。
本当に怖いときは、「キャー助けてー」なんて
言ってる余裕すらないんだね。
一秒もしないうちに私はふと我にかえり、
数メートルにまで迫った自宅に逃げ帰った。
この時、家に誰も居ないのを分かっていて
チャイムを押したのは、自分でも賢明な判断だったと
しばらく後で思った。
男から見れば、必死でとりあえず
近くの家に飛び込んだように見えただろう。
玄関に入ってすぐ脇にある鏡を見ると、
私の顔はかなり白かった。
今だかつて、生きている人間の
こんなに白い顔など見たことがないくらい。
いつも帰宅直後は紅潮している頬も、
色素が濃い唇でさえも真っ白になっていた。
そして、少し落ち着いて思った事は、
誰かに似ていたような気がする、だった。
ほんの少しの間の出来事で、
じっくり印象に残るほど顔は見ていないけど、
どこかで見たことがあるような顔だった。
その日の夜、アルバムというアルバムを引っ張り出して、
母親の学生時代のアルバムから順に調べていった。