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ある夏の暑い日。前篇

 校門を出て帰路に着いた桜であったが家には向かわずとあるところに向かっていた。




 学校を出て10分も経たないうちに目的の場所に着いた。


 そこは神社だった。

神社といってもそれほど大それたものではなく、鳥居があり石畳の先に小さな祠が祭ってあるという田舎によくあるそれだった。


 祠は階段を少し登ったところにある。

階段の下からは、本来は赤かったであろう塗装の剥げた鳥居が顔をのぞかせていた。




 桜は鳥居を目指し、階段を上がりながらとある日のことを思い出した。







 それは中学1年生になったある夏の日の出来事だった。


 家に一人、クーラーの効いたリビングでアイスを食べながら、だらだらとテレビを見ていた昼下がりのこと。

ニュースではどのチャンネルも例年の平均気温を大きく上回る歴史的猛暑日であることを報道していた。つまらないと思い、面白い番組がやっていないかチャンネルを何度もいったりきたりしていた。




 特に面白そうな番組も見つからずテレビを消そうとしたその時だった。


 


 家の固定電話がけたたましく鳴り響く。




 急に鳴りだした電話にびっくりし、テレビの電源を切らずリモコンを置き、固定電話の受話器に慌てるように向かった。


 桜は、電話の相手が家庭教師の勧誘や怪しい宗教の勧誘電話だろうと思いながら、少し機嫌の悪い雰囲気を出して電話を取った。




「はいもしもし。」



「青葉薫あおばかおるさんのご自宅で間違いないでしょうか。」



「え、あ、はい、そうです…」

(お母さんの名前?いったい誰だろう)




 どうせしょうもない電話だと思い、機嫌の悪い雰囲気を出して電話に出た桜は母の名前が出てきてなぜか少し嫌な緊張を感じながら電話の応対を続けた。



電話越しの女性は聞く限り事務的な感じで桜に質問を続ける。

「わたくし、お母様の職場の同僚の雲雀綾女(ひばり あやめ)と申します。桜さんお間違いありませんでしょうか?」




「はいそうです…」




 実際に顔を合わせたことはないが、母の会話に何回か名前が出たことがあり、旅行のお土産などももらったことあるくらいの仲である・




(そういえば雲雀さんからと直接話すなんて電初めてだな...)




 そんなことを考えていると、雲雀さんが電話越しに深く息を吸ったのが聞こえた。

 そして雲雀さんは静かに話し出した。




「落ち着いて聞いてください……。」




「は...はい。」




「お母様が職務中に殉職しました。」




「…え、え…?」




 『殉職』

 その言葉の意味を理解して頭が真っ白になった。

 握られた受話器からは、その後も何かを話す雲雀さんの声がするがもはや桜には何も入ってはこなかった。




 私はまさかそんなわけがないと頭の中で言い聞かせた。

 何度も自分で自問自答し、必死に自分に言い聞かせていた。




 どれくらいの時間がたっただろうか。


 桜はとっくに切れたであろう受話器を握りしめたまま自分に言い聞かせていた。




 そんな時、つけっぱなしにしていたテレビのニュース速報から不意に母の名前が聞こえた気がした。

 桜は持っていた受話器を投げ捨てるように置き、テレビの前に滑り込み画面をにらみつけるように見た。




『ここでニュース速報です。上井野市(かみいのし)で女性警察官である青葉薫さんが暴徒の襲撃巻き込まれ、亡くなったという情報が入ってまいりました。なお、詳しいことは分かっておらず、分かり次第追って報道します。』




 私はその場で崩れ落ち天井を見上げた。


 流れたニュースを見て、決定的な事実を突きつけられてしまった。


 さきほどまで否定して、必死に言い聞かせていた自分はそこにはなく、ただひたすらに母との思い出を、見上げた天井に映し出していた。

 母の笑う姿、母の怒る姿、母の料理をする姿。

 今までに見た母の姿を鮮明に映し出す。

悲しく泣き出してもおかしくない精神状態の中なぜか、不思議と涙は出なかった。


雲雀との通話が切れたはずの受話器越しに何か聞こえた気がした...

≪あな......た…しか.........いな...いわ......≫

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