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ロブスター号航海記  作者: 旗尾 鉄
第十七章 最後の難関
67/72

17-7

 ぽっかりと口を開けた暗いトンネルへと、船長はまっすぐに突っ込んでいく。

 ベイツさんが短く呪文を唱えるとロブスター号の舳先が明るく輝き、光源ができた。


 突入した瞬間、僕の頭上で何かを引っ掻くような嫌な音がして、木くずがバラバラと落ちてきた。マストの先端がトンネルの天井に擦れているのに違いない。


「強制ダウンまであと二十分」


 伝声管の向こうから、デバルトさんの緊迫した声が届く。僕も、シルビア船長も、わずかなミスも許されないのだ。


 トンネルの中は、むっとするような湿った空気に満たされている。クリムデール砲のエネルギー反応のせいで熱が籠っているのかもしれない。

 額に滲んだ汗を、ジーナが服の袖で拭いてくれた。


 ふいに後方から、咆哮が聞こえてきた。ついにやってきたのだ。鎖で戒められていた海竜は、猛り狂っているに違いない。

 咆哮に続いて、ドーンと強い振動が起こった。ロブスター号は揺れ、左舷に残っていたバリスタがトンネルの横壁にぶつかって粉々に砕けてしまう。


「海竜のやつ、まだ追いかけてくるゾ」


 クァラさんの言う通りだろう。海竜はロブスター号よりも二回りも大きいのだ。このトンネルはロブスター号がやっと通れる広さ。そこを無理やりに通ってこようとしている。そんなことをしたら、いつ穴が崩れてもおかしくない。


「強制ダウンまで、あと十分」

「あと十分で向こう側へ出ます」


 デバルトさんとエインさんの声が重なった。エインさんはトンネルに入ってからずっと、一定のリズムを保って爪先でトントンと甲板を踏んでいた。見る余裕はなかったけど、足音には気づいていた。距離を測っていたのだ。二人の出した時間は同値、ということは、トンネルを抜けられるかどうかギリギリってことだ。


 ズズズン、と腹の底に響くような衝撃が伝わってきた。トンネル全体が揺れる。そして海竜の咆哮もだ。今度の鳴き声には、僕たちへの怒りのほかに苦痛や焦りみたいな感情が混じっているような気がした。


「今の揺れは……良くないですね。おそらく、トンネルの一部が崩落したと思われます」


 エインさんが眉をひそめた。

 海竜のせいでトンネルが崩れたのだとしたら、たぶん、一か所だけでは済まないだろう。天井の重さを支えきれなくなったトンネル内で連鎖的に崩落が続くことは、素人の僕にも想像がつく。いよいよ、時間との勝負だ。


「あと五分じゃ」


 デバルトさんのカウントダウンが進む。

 まだ先は見えない。永遠に続いているんじゃないかと感じる岩盤を正面に見据えて、僕はその岩肌にひたすらクリムデール砲を浴びせ続けた。

 トンネルの振動はしだいに大きくなっていく。ピシリピシリと硬いものがひび割れる音がして、そのたびに細かい岩の破片が頭上から落ちてくる。ドンッ、と再び衝撃が来た。思ったとおりだ。海竜がその身には狭すぎるトンネルに無理やり体を捻じ込むから、トンネル全体が不安定になって崩落の連鎖が始まっている。

 海竜の吠え声もまた、じょじょに大きく聞こえるようになっていた。


「あと一分」


 デバルトさんがそう叫んだときだった。

 前方から、ロブスター号の舳先の魔法光とは別の、一条の光が差し込んだ。

 ほんのわずかの細い光だけど、間違いない自然の光だ。


「焦るな。ユート、詰めを欠いてはいけない!」


 シルビア船長の声で、僕は慌ててクリムデール砲のレバーを握り直した。

 光を見た瞬間、無意識に気が緩んでいたのだ。


 細い光の筋が、みるみるうちに大きく、頼もしい出口へと広がっていく。


「五、四、三、二、一。……魔動機、強制ダウン」


 デバルトさんがそう告げたのと、ロブスター号がトンネルの外の日の当たる世界へ飛び出したのとはほぼ同時だった。






 午後の光が眩しい。

 たった三十分足らずのトンネルだったのに、見上げる青空がとても懐かしく思える。

 ロブスター号はトンネルを抜け切り、出口から十数メートルのところで魔動機がダウンした。慣性で、ゆっくりとトンネルから離れつつある。

 だが僕たちには、陽光に目を慣らす時間すら充分には与えられなかった。


 激しい地鳴りがした。

 トンネル内で聞こえた崩落の音が立て続けに聞こえてくる。それに交じって、海竜の怒りの咆哮だ。

 地震のように、あたり一面が揺れた。僕たちの目の前で、ついさっき通り抜けたばかりのトンネルが奥から順に崩れはじめた。不変と思えた大地が、あっけなく変形していく。自然のなせる業を目の当たりにして、僕たちはみな、その恐ろしくも荘厳さを感じる光景に見とれていた。


「エイムズ、ビイロフ、ぼうっとしてんじゃねえ! 帆を張れ! 巻き込まれるぞ!」


 ギャゼックさんの叱責で、僕たち全員、我に返った。二人がロープに取りつく。

 けれど、もう間に合わない。


 轟音と揺れが最高潮に達した。

 トンネル崩落の衝撃を受けて、ものすごい気圧波がロブスター号に襲いかかってきた。

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