第8話 2人ともやめて!
「ふわあー…あー、よく寝た」
ベッド隣の床では、布団から伸びて気持ちよさそうにするスタインがいた。
花蓮は少し前に目を覚ましていたため、スタインが起きるまでベッドの上で大人しくスマホをいじっていたが、スマホをベッドに置き起き上がり、スタインの方を向く。
「おはよ〜スタイン。体、大丈夫?痛くなかった?」
「ぜ〜んぜん。大丈夫」
息を吐きながら、布団の上で笑って頭の後ろで手を組むスタイン。
昨夜は2人で夕食を食べお風呂も終えた後、どこでどう寝るか話し合った。隣の部屋に来客用の部屋があるからそこのベッドで寝てはと進めたのだが、
「夜中に、俺の調子が悪くなるかも分からないだろ?同じ部屋で」
と圧多めで言うスタインに、仕方なく花蓮は同じ部屋で寝ることにしたのだ。
「今日は花蓮、休みなの?」
片手で頭を支え、布団の中からこっちを見つめるスタイン。
「うん、そうお休みだよ」
花蓮はベッドから足を下ろすと、窓の側へ行きカーテンを思いっきり開ける。
そして、寝転ぶスタインの上に立つと、じっとスタインの顔を見下ろす。
「な…なんだよ」
「ん〜?顔色どうかなって」
花蓮は目を細めながらスタインに近づいていき、マジマジと顔を見つめる。
すると、近づいてくる花蓮に恥ずかしそうな顔をしたスタインは、起き上がって花蓮に背中を向ける。
「そんな、短時間で体調は悪くなったりしないって」
「本当?じゃあ、念のために、もう一回顔見せて」
花蓮がスタインの顔の前に移動し顔を近付けると、スタインは動揺した様子で口を開け、また顔を背ける。
「大丈夫だって、本当、平気だって」
「ふぅん…分かった。でも、そんなに顔背けなくったっていいじゃない」
「——ボタン…」
「へ?」
「パジャマの上…2つボタン外れてる」
花蓮はハッとして胸元を見ると、またボタンが外れていた。
「…う…ありがと…ごめん…」
「いや…ていうか、サイズあってなくね?」
「え?そう?」
ピンポーン
家のインターフォンが鳴る音がし、花蓮とスタインは顔を見合わせる。
「こんな朝早くから誰だろ…?」
花蓮は2階の玄関のモニター確認場所へ行くと、そこにうつっていたのは涼太だった。
「なんだ、またあいつかよ。約束してたのか?」
花蓮が振り返ると、いつの間にかスタインが背後に立ち、モニターを覗き込んでいた。
「ううん、約束してない。どうしたんだろう?急用かなぁ…ちょっと出てみる」
「おい、パジャマのままでか!?」
階段を下りようとする花蓮の腕を、スタインは慌てて掴む。
「え、うん。ダメかな…?涼太は子供の頃から知ってるし、私のパジャマだって、もう何回も見たことあるよ、たぶん」
「いやいや…今までそうだったとしても、もう子供じゃないんだから、着替えた方がいいって」
苦い顔つきをしたスタインは、こめかみ辺りに指を当てながら息を吐く。
花蓮は、はぁ〜いと渋々従い、さっさと自室に戻り着替える。
着替えた花蓮は、廊下で待っているスタインにもう部屋に入っていいよ、と声をかけ、その後に階段を急いで下りて、玄関の鍵をゆっくりと開ける。
すると、玄関から少し離れた所で背中を向けてスマホをいじっていた涼太が、驚いた顔で勢いよく振り返った。
「花蓮!!」
玄関のドアを掴んでいる花蓮のもとに慌てて駆け寄ってくる涼太は、今まで見たことがないほど焦った表情だった。
「どうした?大丈夫か?インターフォンを鳴らしても出てこないし、スマホで電話しても出ないし、心配したんだぞ。今、急いでメッセージ送ったところだ」
「あ、ごめん。ただ着替えてただけだよ。それに…ねぇ、ちょっと涼太心配し過ぎだよ?私、もう学生とかじゃないし、ちゃんと働いてる社会人なんだから」
「社会人とか関係ない。急にこの広い家で女性1人暮らすんだ、普通心配するだろ。一応聞くが、昨日は寝る前に、家中の戸締りは確認したか?」
「え…あー戸締り…確認してない…。。けど!きっと、お父さんとお母さんが出発前に確認したでしょ…」
首を傾げて苦笑いする花蓮に、涼太は眉間にシワを寄せ、はぁーーっ、と長い溜息をつく。
「そういうところだ、俺が心配してるのは。花蓮は少しお嬢様な所があるからな」
「なっ…ちょっと、なんかそれ私のことバカにしてない…!?」
「バカになんてしてない。ただ、少し天然というか、…なんていうか、放っておけない…だけだ」
「天然じゃないから。…あ、それを言いたくて、こんな朝早くに訪ねてきたの?」
「そうだ。昨日は急に打ち合わせが入ったから無理だったが、本当なら昨日の夜、夕飯を一緒に食べようと誘うつもりだった」
真剣な顔をした涼太は、話しながらドアを開けたまま立っている花蓮にゆっくり近付く。
花蓮の数ミリ先、目の前に立つと、片手をあげてドアを掴み、花蓮をじっと見つめる。
「な…なに…?近いよ…?」
たじろぐ花蓮が身を引くと、涼太はその分、身を乗り出す。
「さっき着替えたなら、朝ごはん、まだだろ?俺が何か作るから、一緒に食べるぞ。家に入ってもいいか?」
ドアをグイッと開け入ってこようとする涼太に、花蓮は慌ててドアがこれ以上開かないように抑える。
「あー…!朝ごはんはっ、適当に食べるから、大丈夫っ!心配しないでっ!」
苦笑いをして花蓮は、ドアをグイグイと引き閉めようとする。
「おい、花蓮どうした?いつもなら、俺が作るとラッキーとか言って嬉しがるだろ」
花蓮の言動に不審に思ったのか、涼太も掴んでいるドアを話さず強く手前に引き、ドアを閉めようとする花蓮に抵抗する。
「別に!今は1人暮らしをゆっくり味わってるだけだからっ!気にしな…わ、きゃっ!」
花蓮と涼太はお互いの力のバランスが崩れ、2人共、玄関中へと倒れ込む。
「い…て…すまない、花蓮、大丈夫か!?」
玄関で、自分の上に重なる花蓮に触れる涼太。
すると、突然、家の中からジューという音が響く。
涼太は体をピタッと止め耳をすまし、その後に花蓮をじっと見つめる。
「——なんの音だ?誰かいるのか?」
「え…?ええっと…音?えぇと…そう?何か聞こえる?」
誤魔化そうとする花蓮だったが、涼太は靴を脱ぎ勝手に家の中に上がる。
「あっ!涼太、待って!」
慌てた花蓮は、涼太がリビングのドアを開けて中に入っていくのを追いかけ、涼太の上の服を引っ張る。
ジュージュージューッ
リビングの奥にあるキッチンで、フライパンを片手に何かを焼いているスタインが立っていた。
「こんにちは。あ、まだおはようございますか?よかったら何か食べていきますー?」
腰を屈めて花蓮と涼太を見るスタインは、エプロン姿で白く整った歯を見せて爽やかに笑う。
目の前の光景にフリーズしていた涼太だったが、すぐに横にいる花蓮を振り返った。
「おい、あいつ知ってるやつか?」
その声は静かだったが、表情からは怒りが感じられる涼太。怒った涼太を初めて見た花蓮は、ビクッと萎縮してしまい、すぐには答えられなかった。
「あ…えっと…」
花蓮は、掴んでいた涼太の服を離すと、なんて説明しようか頭を巡らせる。すると、待ちきれなくなったのか、涼太はキッチンの方を鋭い目つきで見る。
花蓮も涼太と同じ方を見ると、スタインがエプロンを外しながらゆっくりと2人の方へ歩いてきた。
スタインは、エプロンを長テーブルの椅子にかけると、涼太の目の前に立つ。
やはり、スタインも涼太と同じくらい長身、いや涼太より数センチは背が高い。
涼太はそんかスタインを前に睨むと、冷静に話しかける。
「あんた、誰だ?花蓮の家で何してる?」
「涼太さんですよね。初めまして、花蓮から聞いてます」
スタインの花蓮呼びに、涼太の眉がぴくっと動く。
「ずいぶん親しいようだが、花蓮とはどういう関係だ?」
「…わざわざ、あなたに言う必要ありますかね?」
営業スマイルのような笑顔のスタイン。
そのスタインの笑顔に余計イラついたのか、涼太の口元がピクッと動く。
「こっちが聞いてるんだ、答えるのが筋だろ」
「答えたくないですね」
「…あぁ、分かった。話が通じないなら、警察を呼ぶ」
互いから目を晒さない2人の様子は一触即発で、花蓮はもう耐えられず口を開く。
「2人とも、やめて!!」
スタインと涼太は互いに顔を突き合わせながらも、ゆっくりと横にいる花蓮を見る。
「もうーいい!私がハッキリ言う!スタインはピアノの王子様!涼太は幼馴染!以上!それだけ!」
そういうと、花蓮は2人の手を取る。
「はい!2人とも席に座って!ご飯食べるよ!」




