第5話 運命感じる?
「あっ…えっ…と…、お、お腹すきませんかっ!?」
ずっと見つめられていると心臓がもたないと思った花蓮は、スタインから離れて勢いよく話しかける。
花蓮の勢いに驚いたのか、スタインは目を見開いたあと、プッと吹き出し笑い出す。
「そうだね。何か食べようか」
お腹を抱えてははっと笑うスタインに、そんなに自分の言い方が可笑しかった?と、花蓮は恥ずかしくなる。
「そんなに、笑わなくてもいいじゃない…」
「ごめん、ごめん。本当、花蓮は分かりやすいなって思ってさ。昔から変わらないよね」
スタインが、花蓮を見てニコッと笑う。笑うと形のいいアーモンド型の目が、少し垂れ目っぽくなるところがまたイケメンさを増す。
(えっ…昔…?)
花蓮はスタインの言葉に違和感を覚えたが、なぜかその場ですぐに聞き返せなかった。
「花蓮は、朝いつも何を食べてるの?」
「えっ、朝?う〜ん、大抵ご飯に何かかけたり、あとは目玉焼き食べたりかな?お母さんが用意してくれてるから、いつもそれを食べるだけなんだけど」
「ふ〜ん、いいね。美味しそうじゃん」
花蓮、スタインの順に階段を下り、リビングへ入ると、長テーブルには花蓮の分の朝食、目玉焼きにヨーグルト、鮭、そしてりんごが小皿に置いてあった。
「あ…そうか、私1人分しかない…」
「いいよ。そしたら、キッチン使ってもいい?」
「いいけど…えっ、何かつくるの?」
「凝ったものはできないけどねー。じゃ、使わせていただきまっす」
スタインはキッチンに入ると、温まったフライパンに卵を落とし、目玉焼きを焼いていく。
更にグリルを開け鮭を焼き、その間にりんごも剥き出し手際よく朝食を準備していく。
スタインの隣に立つ花蓮は、スタインの手元にじっと釘付けになる。
「すごい…慣れてるね…!スタインのいる、なんだっけ、あ、そうそう、楽器の国でも料理してたの?」
「あぁ、してたよ」
「えぇ〜なんで?王子様って、お料理専任のシェフみたいな方がいるから、自分で作る必要ないんじゃないの?」
「あー…まぁ、そうだね。でも、俺が作ってる姿も、なかなか良くない?」
スタインはうさぎの形に切ったりんごを親指と人差し指で掴み、花蓮の目の前に近付ける。
「あーっ!すごい!えぇ〜すごい器用だぁ〜!うさぎりんご、可愛い〜!」
「あげる」
「えっ、いいの?ありがとう〜」
うさぎのりんごを貰い嬉しくなった花蓮は、ニコッとスタインに笑いかけると、スタインは少し照れたような顔をし、またりんごをむき始める。
「これだけで、そんな喜んでくれんの」
「え?何?」
早速にりんごをかじっていた花蓮は、スタインが話した声が小さく、よく聞き取れず聞き返す。
「いや、別になんでもない。俺も朝食準備できたから、テーブルで一緒に食べよう」
「うん!」
花蓮とスタインは、それぞれ朝食を目の前にしテーブルに座る。花蓮が、いただきます!と言うと、間髪入れずにスタインも口にし、それから食べ始めた。
「…ねぇ、スタインの楽器の国でも、いただきますって言うの?すごい、言い慣れてたけど」
目玉焼きを食べて飲み込んだ後、花蓮は横に座るスタインを見上げる。
「いただきますではないけど、まぁ似たような言葉は使うかな」
「ふ〜ん…」
(いただきます、が食べる前の言葉って、私のを聞いてなんとなく分かったのかな…?)
スタインの戸惑うことなく言った、いただきます、が妙にモヤッとする花蓮だったが、またしてもそれを追及できず、モヤモヤにしたままにしてしまった。
「あの、スタインに聞きたいことがあるんだけど」
「ん?」
花蓮はご飯を、もぐもぐと口に含みながら、スタインの顔を見る。
「なんで、昨日スタインは私の前に現れたの?」
「あぁ、そういえば、まだ言ってなかったっけ」
花蓮は口に手を当てて頷きながら、スタインをじっと見つめる。
スタインは箸を持った手を顎に当て、花蓮を横目でじっと見つめる。
「説明は難しいんだよなぁ…」
花蓮は口に入っていたご飯を飲み込むと、スタインの腕を掴む。
「本当に気になってる!昨日は親が来たりして、なんかバタバタしちゃってたから、今は2人だけだし話して欲しい。なんで、スタインは私の前に現れたの?」
花蓮の勢いに驚いた顔をしたスタインは、隣に座っている花蓮に体を向けると、花蓮の手の上に手を重ねた。
「そうだな…簡単に話すと、花蓮の世界とは別次元に、楽器の国っていうのがあって、俺はその中でピアノの王子として君臨している。楽器の国では、こっちの世界でピアノを弾いてくれる人間、全員を把握しているんだ」
「全員?!この世界中の人間を!?えっ、全員!?…どうやって…?」
「そうだな、分かりやすく言うと、手のひらサイズのシャボン玉のようなものの中にピアノを弾いている人がうつっている、って言えばイメージわきやすいかな?」
「うん、なんとなく分かる。でも、すっごい量じゃない?部屋中、シャボン玉だらけになっちゃわない?ピアノなんて、特にたくさんの人が弾くから」
「ははっ、あぁ、すごい量だよ。でも、ピアノがたくさんの人に愛されている、って実感できて嬉しいよ。愛されていると、俺も満たされるしね。花蓮もそのうちの1人だね、ありがとう」
ニコッと花蓮に笑いかけるスタイン。突然向けられるイケメンの笑顔の威力は凄まじく、花蓮はまたも顔が勝手にニヤける。
ニヤけが止まらない花蓮は、慌ててテーブルから水を取って飲むと、小さく深呼吸する。
「ふぅ…。それで、楽器の国からどうしてこっちの世界に来たの?」
「それも少し複雑なんだけど、自由に来れるってわけじゃないんだ。なんていうか、ピアノを弾かれ続けるとゲージみたいなものが溜まって、こっちの世界に来れるっていう感じかな」
「来れるって…こっちの世界では、ピアノは何万?ううん、きっと何千万とたくさんの人に使われていると思う。それなのに、なんで私のところに来たの…?」
「でしょ?運命感じる?」
スタインは優しい笑みで、花蓮の髪の毛に触れる。
「えっ…な…だって、演奏が上手いプロの演奏家はたくさんいるし、プロじゃなくても私より弾く時間が長い人もたくさんいるしっ、私よりピアノを大切にしている人もいるし、私なんて、ピアノを磨いたことすらないのに…」
「丁寧に扱っているから、ピアノがうまいから、の理由で俺が呼び出されるわけでもないんだよ」
「そうなの…?じゃあ、私はすごい運が良かったってことなの…?」
「それって、俺に会えて嬉しいってこと?」
「えっ、なっ…!そ、そうじゃなくって、ていうか、違くないんだけど…えぇっと…、えっと…早くご飯食べ終えちゃおっ!」
ニヤニヤ笑って見つめてくるスタインから顔を背けると、花蓮はご飯を一口、口に入れる。
「はいはい」
スタインもテーブルに向き直り、お箸で器用につまんでいく。
花蓮はお箸をテーブルに置くと、目の前のご飯を見つめる。
「…いつまでいるの…?」
「ん?」
「…いつか楽器の国に帰るのかな、って、ちょっと気になって」
「花蓮がいて欲しい間は、ずっといるよ——」
「えっ!ほんと…」
「——て言いたいけど、実は制約がある。花蓮の願いを2回叶えたら、俺は楽器の国に戻らなきゃいけない」
「…えっ…そうなんだ…」
ズキン
スタインの言葉が、思いの外、花蓮の胃に鉛を入れたかのように重くのしかかると共に、胸の奥が痛む。
(…ズキン…?なんだろ…?)
花蓮は自分の胸に手を置き困惑するが、一瞬の痛みだったため、すぐにまたお箸を持ち食べ進めた。




