第22話 キス!!してない!
「えっ、このままタクシーで向かうの!?」
「あぁ。とは言っても、海生島行きの電車に乗れる最寄り駅までだけどな」
タクシーの助手席に座る涼太は、スマホで何やら確認しながら花蓮に答える。
「ええっ、でもっ、その最寄駅だってここからけっこう遠いよね…私、そんなにお金持ってないよ…」
どんどん上がっていくタクシーのメーターを確認して、花蓮は目眩を感じる。
「それなら問題ない。とりあえずは俺が払う。まぁ、一番いいのは経費で落とすことなんだが、ま、無理だろうな」
「そしたら、私も半分…」
「いや、いい。別に経費で落ちなくても、俺は問題ないから気にすんな」
こちらの後部座席を振り返っていた涼太だったが、前になおるとタクシー運転手と何やら話し始めた。
タクシーの窓から見える暗い景色の中で、道路の小さく光る街灯が瞬間的に光っては、すぐに後方に過ぎ去っていく。
「…2人が人形から戻るときの光も、このくらいだったら周りにバレなくて済むのにね」
花蓮は窓から自分の隣に視線をうつし、スタインとバリウスに向かって微笑む。
すると、スタインが口角をあげ、イタズラっぽい目付きでこちらを見つめる。
「そうか?眩くほどにバッ!と光って登場って、カッコよくない?」
「ん〜、確かに華やかではあるかも!王子様が助けに来てくれた!って感じは、女性には堪らないから〜…。ほら、バリウスも、エレベーター内で助けてくれたとき、カッコ良かったよ!人形から元の姿に戻って、私を助けてくれたときに〜……」
「うん、ときに〜…で?どうした?花蓮?」
スタインが腕を伸ばし、花蓮の頭を撫でる。
「……してないじゃん…」
「え?何を?」
「キス!!してない!」
「え?何、花蓮、今俺とキスしたいの?」
「ちがーうっ!!」
ニヤニヤして顔を近付けるスタインの肩を両手で押すと、花蓮はムッとした顔をする。
「バリウスが私を助けてくれたとき、バリウスは涼太がいなくても出てきてた!だよね!?バリウス!?」
花蓮が大きな瞳を細めてバリウスをじっと見つめると、バリウスはたじろぎ、自分の頬を人差し指でかく。
「あ…っと、そうですね…スタインからどう聞いていたかは知りませんが、基本的には、人形から元に戻るときは本人の意思ででき、特段何かをする必要はありませんね…」
「やっぱりーーーー!」
花蓮が頰を膨らませてスタインを見ると、スタインはニヤッと笑う。
「騙したのねーっ!もぉ〜!」
「違うよ、俺たちのルールを決めただけだから」
「スタイン〜〜っ!」
花蓮がスタインの頬を掴もうと手を伸ばすと、スタインが笑って花蓮の手首を掴む。
(あ………弱い…)
手首を掴んだスタインの力は弱々しく、よく見れば座っている姿もタクシーの背もたれに、もたれかかっていて、体調が良くないのは明らかだった。
花蓮はスタインの手を優しく振り解き、今度は逆にスタインの手を強く握りしめる。
「スタイン……ごめん、やっぱり家に帰って演奏して、チャージするべきだった…」
「その話は、タクシーに乗ってすぐに皆んなで話し合ってもう決めただろ。俺は大丈夫だから島へ行こうって」
「そうだけど…」
「気にすんな。平気だから」
笑って花蓮の手を握り返すスタイン。
笑うスタインの顔を窓から入る外のオレンジ色の光が時々照らし、その様子がまた儚く見えて花蓮は不安を募らせるのだった。




