第12話 ヴァイオリン王子とピアノ王子のパワーバランス
「いや、ダメだ」
スタインがキッパリと断る。
「花蓮、まだ俺に演奏してくれてないだろ?ちょっと俺、疲れてきてるんだよね。それにバリウス、お前も早めに演奏してもらって充電しておいた方がいいぞ。こっちの世界に来ると、思いのほか体力の消耗が激しいからな」
スタインはバリウスにそう言い残した後、花蓮を引っ張り玄関を上がる。
花蓮は強引にスタインに引っ張られる中、慌ててバリウスと涼太を見る。
「ちょっ…と、スタインっ、いいの?せっかく同じ国の方が会いに来てくれたのに…」
花蓮は、玄関から上がると自分の体を掴むスタインの手をほどき、バリウスをじっと見つめる。
「…ねぇ、スタイン。楽器の国の王子って、みんなこんなにイケメンなの?」
花蓮はぼーっと、うっとりした顔でバリウスを見ていると、バリウスは爽やかにニコッと笑いかけてくれ、不意打ちをくらった花蓮は両手で頬を抑え顔を赤らめる。
スタインはそんな花蓮を見て顔を歪めると、後ろからそっと腕を伸ばし花蓮を優しく抱きしめる。
「早く2階に行こうよ。俺、もう我慢できない」
そう優しく言った後、スタインはバリウスを真っ直ぐに見つめる。
玄関わきの壁に寄りかかっていた涼太は、無言で2人の様子を見ていたが、スタインを見るとゆっくりと口を開く。
「おい、演奏する時間ならさっきあっただろ。俺が帰ったのも演奏するからっていう理由だったが、まだしてないのか?今まで何をしてたんだ?」
涼太の問いかけに、しまったといった顔をする花蓮は、気まずそうにスタインの顔を見上げ、その後に涼太に視線を戻す。
「あ…えと…演奏しようとはしてたんだけど…その…」
顔を赤くして言い淀む花蓮に、スタインはニヤッと笑みを浮かべ涼太を見る。
「どうせなら近くで聞こうと思ってね、花蓮と一緒にピアノの椅子に座ろうとしたんだけど、花蓮が恥ずかしがるから」
「だっ…だって、当たり前でしょっ!一緒に座る必要なんてないんだしっ…!」
花蓮は自分の体に絡みつくスタインの腕を振り解くと、スタインは悪戯っぽく笑う。
そんな2人の仲良さげな雰囲気に、涼太は斜め上を見つめ溜め息をつく。
「そんなことやってたから、さっきはインターフォン鳴らしてもすぐに出てこなかったってわけか…」
「あ…それは…ごめんなさい…」
しょげる花蓮に、涼太はスタインを険しい目つきで見つめる。
「2人共、分かってるよな。さっきなんの願いを叶えたのか」
涼太が確認すると、バリウスが涼太の方を振り向く。
「願い…って、今言いました?」
「あぁ、言った」
バリウスは、今度はスタインの顔を見ると低い声で問う。
「——スタイン。…何を叶えたんだ?」
「なんだっていいだろう。バリウス、お前には関係ない話だ」
「いや、関係ある。スタイン、お前は昔にかの——!」
「バリウス!!」
スタインが声を荒げると、バリウスはピタッと止まる。
「バリウス、今日は帰れ。顔色が悪いぞ。主であるそいつに何か弾いてもらえ」
スタインが涼太を指さすと、涼太はバリウスの肩に手を置く。
「バリウス、一旦帰ろう。また明日、合わせでこの花蓮の家に来ることになっている。そのときに、またスタインともゆっくり話せばいい」
「はい…」
涼太の声かけで落ち着いたバリウスは、ゆっくりと頷く。
涼太はバリウスの背中を片手で押しながら、花蓮とスタインを振り返る。
「明日合わせでまた」
涼太が玄関のドアを閉めると、家の中では心配した顔で立ち尽くす花蓮が横に立つスタインを見上げる。
「ねぇ…楽器の国でバリウスと喧嘩でもしてたの…?なんか、あんまり仲良い感じじゃなかったけど…」
「いや。あいつとはただ、性格が真逆なだけで喧嘩はしてないよ。あいつはクソ真面目過ぎなんだよ」
そう言うとスタインは、心配そうに見つめる花蓮を両手で軽々と持ち上げ、驚いて恥ずかしがる花蓮にニコッと笑顔を向ける。
「早くピアノ部屋へ戻ろう」
◇◇◇
涼太はバリウスと自宅へ戻ると、暗い表情のバリウスに瓶に入った水を差し出す。
「飲めよ。あれだけ声をあげれば喉乾いただろ」
「…ありがとうございます」
「練習室へ行くか」
涼太は飲み物を持ったままバリウスを連れて練習室に向かうと、部屋の中の椅子に座るようバリウスに促す。
涼太は立ったまま水を飲みバリウスを見るが、椅子に座ったバリウスはまだ表情は暗く冴えなかった。
「…なぁ。お前とスタインの間に何があったか知らないし、話せと言うわけでもないが。さっきの様子を見る限り、スタインの方が立場が強いか?」
「…鋭いですね。僕達、楽器の国では人間の世界で演奏してくれる人が多いほど、立場は強く権力もあり、王子本人も健康でいられます。逆に、弾いてくれる人が少ない楽器の王子は病気がちで他の王子に従うしかありません」
「それなら、ヴァイオリンも人数でいえば、ピアノに負けないくらいいるだろう?それに、ピアノよりヴァイオリンの方が歴史が長い。バリウスも、スタインと同等のパワーがあってもいいと思うが」
「確かにそうなのですが、現世ではピアノの方がメジャーなこともあり、私よりスタインの方が発言力などが有効であるのが実態です」
「なるほどな…」
涼太は水の入った瓶を近くの丸テーブルに置くと、ケースに入ったヴァイオリンの側へ行きしゃがむ。
「さて、俺の演奏でその辛気くさい顔を変えるか」
ポカンとした顔で涼太を見上げるバリウスに、ヴァイオリンを手に取った涼太はニッと笑う。
「演奏を聞いて気が変わったら、お互いのことでも話すか」
涼太はスッと演奏モードに切り替え、ヴァイオリンを弾いていく。




