表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

バート

二人のバード  愛する貴方の本当の姿は

久しぶりの短編です。



(どうしてこうなったのかしら・・)


 今目の前のベッドで横になっているのは、去年婚約を結んだ婚約者。

 と、その弟。


 彼らは一卵性の双子アルバートとギルバート。

 双子だけあって容姿はそっくりで、おそらくご両親と屋敷の執事長とメイド長しか見分けが付かないだろう。

 婚約者といえど見分けが付くほどの交流も無い私にとって、正直目の前で寝ているどちらが婚約者なのか見分けがつかない。


(こうして眠っていると本当にわからないわね。今起きて私の名前を呼ばれても信じる要素がないもの)



 二人を発見したのは、その時の様子がおかしかった事を気にした執事長だった。

 今にでも雨が降りそうな雲行きなのに二人で出掛けて行った。しかも互いに剣を腰に刺した姿で・・

外は雷も鳴り響き雨も強くなる。それなのに二人が戻って来なかった為、屋敷の男衆を三人連れて探しに行ったところ二人が崖の側で倒れていた。

 二人の間で何が起こったのかは今ベッドで眠っている彼ら以外、誰も知らないのだ。


 

 子供の頃は仲が良かったと聞いたが、いつの日からか会話も目も合わせる事も無くなったと・・

 その原因が、第一王子殿下専属護衛騎士にギルバート様が任命された事が発端だった。


 二人の伯父が第一騎士団の副団長を務めており、アルバート様は伯父を目標にしていた。

 一方ギルバート様は子爵の後を継ぎ、私フランシスと共に領地を治める予定でいた。


 その昔、我が伯爵家と子爵家は互いの領地に流れる川の事で歪みあっていた。

 川といっても川幅もあり魚が豊富にいるため漁で生計を立てていた子爵家。

 一方、上流の綺麗な水で育てられる農作物は我が伯爵家にとって領民からの大きな税収となっている。


 三代前の伯爵当主が川を自身の領地へと引き込む工事をし、その為に子爵家に流れる水の量が激減。

 漁で生計を立てていた子爵領の民は飢えていった。

 

 子爵からは抗議の手紙が送られてきたが、


「自分の領地を流れる川に、苦情を言われる筋合いはない!」


 と、当時の伯爵当主は聞く耳を持たなかった。

 伯爵領は潤ったが子爵領は衰退していく・・

 そんな状況を良く思わなかったのが二代前の当主であり、私の祖父だった。

 祖父は内緒で子爵領の民を受け入れ、農業を教えた。もちろん我が領民も祖父に従い当時の当主に見つからないよう手引きした。


 そんな関係で祖父が爵位を継ぐと川の流れを半分元に戻し、子爵領にも魚が戻っていった。

 お互いの領主は同じ過ちを繰り返さないために、自身の子供たちで婚姻を結ば事にした。

 が、産まれたのはお互い男子。


(で、孫にまわってきたのよね・・)


 私は目を覚さない二人の子爵子息を交互に見つめる。


(そう言えば初めてお会いした時も騙されたのよね)


 私フランシスは現伯爵の先妻の娘。母は私が五歳の時に流行病でこの世を去った。

 両親も政略結婚だったため、良くある貴族の夫婦ではあった。

 母が亡くなったとき父は仕事で屋敷にはおらず、私は一人母の手を握りながら一晩を明かした。

 翌朝早く父は屋敷へと帰って来たが、母の顔を見て


「お疲れさまだったな・・ゆっくり休んで欲しい」


 そう言った後、すぐに母は埋葬された。

 私がまだ小さいからと、母が亡くなってまだ半年も経たない内に新しい母が来た。今のお義母様だ。

 すでにお腹の中にクリスが宿っており、膨らんだお腹を優しそうに撫でていた姿は今でも覚えている。


 お義母様は私を虐めることなく、伯爵令嬢として育ててくれた。そんなお義母様の事は好きだ。

 でも・・


 私は弟のクリスが産まれると同時に全寮制の女学校へと入った。名目は 花嫁修行 

 もちろん両親は反対したが後継であるクリスが産まれた今、前妻の娘は居ない方が良いと思った。

 正直学校生活は楽しかった。

 似たような境遇の子もいれば自身の屋敷から通う子もおり、私は帰る屋敷はあったが遠慮もあったので親友の男爵令嬢の屋敷へよく泊まりに行っていた。

 義母には


「お友達も連れていらっしゃい。クリスもフランシスに会いたがっているわ」


 と、何度も手紙が届いた。

 男爵令嬢のエマと親友になったと言った時の義母の反応は少し驚いたようだった。その理由が男爵令嬢と言ってもエマの母が外国の人でその繋がりからか王女様の家庭教師を努めているほどで、しかも父である男爵も通訳として王宮で勤めており時々宰相様と外国へと行っている事を知っていたからだ。


「ちなみにエマのお母様は隣国の侯爵令嬢って言ってたわね・・」



(ううっっ・・)


 一人が痛みでうなされていた。

 私は医者から渡された薬を急いで痛がっている方の口へ注ぐ。


「ある程度傷が塞がるまでは眠っていた方が良いので、目を覚ましそうになったらこの薬を飲ませてください。起きてしまうと痛みで記憶を失うかも知れませんので・・」


 そう言われれば薬を飲ますしかない。

 私はいつ目を覚ますかわからない二人へ、交互に薬を飲ませていった。



「姉上!」


 伯爵家へ戻ると私の帰宅に気付いたクリスが、玄関まで迎えに来ていた。

 クリスは家族の中でも私を家族以上に見ているほどのシスコンだ。血の繋がりは半分だけどそんな事が気にならないほど姉として慕ってくれている。


「二人はまだ目を覚さないのですか?」

「クリス・・」


 私は上着をメイドに渡すと同時に、私の部屋へお茶を持ってくるように伝えた。

 カップを二つ用意して。


 メイドがお茶を用意すると部屋から下がらせる。姉弟なので部屋に二人きりになっても咎められる事もないし、今から話す事は口の堅いメイドと言えども聞かせたくなかった。


「姉上は、どこまで知っておられるのですか?」


 お茶を口に運んでいると真面目な顔で聞いてきた。


「お二人の現状?それとも・・別の事かしら?」

「・・両方です」


 私はカップをテーブルに戻すとクリスの目を見つめた。この子は将来この伯爵家を継ぐ。

 私が子爵家に嫁げば更に絆は深まるだろう。


「二人の様子は・・おそらくあと数日で目を覚ますでしょう。その際の二人の記憶がどうなっているは・・目を覚さないとわかりません」


 記憶がそのままなら私はアルバート様と。

 ギル様は王太子専属騎士として王宮へ戻られる。それがお互いの気持ちに反しても・・


「ですが・・本来なら姉上とギル義兄さんが・・」

「・・これは、私たちがどうにか出来る問題では無いのです」

「納得・・出来ないのです。なぜ婚約前に・・なぜ、姉上のデビュータントの日に・・。いっそアルバート様がこのまま目を覚まさなければ」

「クリス!間違ってもそのような事を口に出してはいけません!お二人ともケガと戦っているのです・・」


 私は悔し泣きをするクリスの隣に移動して、そっと肩を抱き寄せた。


(でもね、私も同じ気持ちなのよ)


 と、口から出そうになるのをグッと堪えて・・



 私とギル様は祖父たちが決めた事ではあったが、初めて会った時から互いに好意を持っていた。

 何度か交友を深めたある日、ギル様の屋敷へと呼ばれた際なぜか私はギル様に違和感を感じてしまい距離を取って歩いた。


「フランシス嬢、どうかされましたか?」


 言葉使いも、声も、いつも聞いていたものと変わりはなかった。 

 ただ、少しの違和感がとても気持ち悪くて距離を取って歩いた。ギル様もそんな私に


「何か・・言いたい事でも?」


 と、聞いてきた。

 私はこの違和感を抱えたままも嫌だったため、意を決して


「もし間違っていましたらお詫び致します。アルバート様・・ですよね?」

「!!!」


 アルバート様は なぜわかった? と言わんばかりに目を見開いていた。

 私は東屋までエスコートされると、そこには同じ顔をしたギル様が立っていた。

 三人分のお茶と軽食を用意して。


「フランシス嬢はなぜ俺とギルの違いに気付いたんだ?両親と執事長、侍女長以外は服の色でしか見分けられないのに」


 美味しそうにサンドウィッチを口に運びながら聞いてきた。ギル様も同じように私を見つめてくる。

 私はアルバート様とギル様の顔を交互に見比べて


「決定的なものでは無いのですが・・あえて言えば目、でしょうか?」

「「目?」」


 私はコクリと頷き


「目!です」


 と答えた。

 私が感じた違和感それは、私を見つめる 目 の違いだった。アルバート様は私を伯爵家令嬢として見ていたが、ギル様には少しだが好意が見られた。

 その違いだろう・・

 でもその違いを二人に伝えられる程の度胸もなく


「目・・つき、でしょうか・・」


 としか答えられなかった。

 そんな私の様子で二人は何かを感じとったようで


「俺はもともと王宮騎士団に入るのが目標だからな!ギル、フランシス嬢と共にこの領地を頼んだ!」


 アルバート様はそう言い残し東屋を後にした。


 私とギル様の交流は月に二回、お互いの領地を行き来する事となりその際はお互いの領地の特産物を持参することになっていた。


「フランが僕と結婚しても、お互いの領地の事を知らないのはおかしいからね!」


 そう言って次期当主となるクリスとも仲良くしてくれた。兄が欲しかったクリスはすぐにギル様と打ち解け、時には乗馬。時には剣の訓練、冬は狩りと仲を深めていった。


「ギル様は私の婚約者になるのですか?クリスの婚約者になるのですか?」


 と、冗談混じりに言えば


「もちろんフランとですよ。デビュタントが待ち遠しいですね。その際は僕にエスコートさせてくださいね」


 本気で答えてくれるため、毎回赤面する事となる。

 その年の社交シーズンの開幕は必ず王宮と決まっており、この一年で十六歳になる娘はこの時デビュタントを果たすことになっている。

 私も社交会デビューのため家族とギル様とで王都にあるタウンハウスへと来ていた。

 今回はギル様は私のエスコート役のため。アルバート様は騎士団入団試験を受けるため伯爵家へと泊まる事となった。


「伯爵、夫人私まで厄介になり申し訳ありません。試験が始まればそちらの寮へ入る事になっています。それまでの間お世話になります」


 アルバート様は貴族の子息の礼を両親にとった。

 その姿は知らない人が見ればアルバート様なのか、ギル様なのか見分けは付かないだろう。


 

 問題が起きたのはデビュタントの際に身に付ける装飾品をギル様と見に行った街で起きた。

 店の外で暴漢に襲われそうになった一組のカップルを助けた事だった。

 なんとそのカップルがお忍びで来ていた王太子殿下と妃殿下だと誰が気付いただろう。

 暴漢を騎士団に引き渡した後ギル様は名を聞かれ、素直に答えると


「後日お礼を送らせよう。」


 そう言って護衛騎士達に守られながら去って行く二人の後ろ姿を、私もギル様も不安に感じながらも装飾店へと入った。


 

 デビュタント当日、私はギル様から贈られたドレスに身を包み、街で買ったギル様の瞳の色と私の瞳の色の宝石がが付いた髪飾りを着けた。

 ギル様は私が贈ったタキシードに私の瞳の色のカフスボタンだ。


「こうして並んでいると、もう夫婦だね!婚約飛ばして結婚でも良いくらいだ!」

「おいおいクリス。まだフランシスは私の可愛い娘でいて貰わないと困るんだが?」

「あら、わたくしはクリスの意見に賛同するわ!ギルくんなら大歓迎よ」


 と、盛り上がる。

 顔を赤らめながらも 僕も一日でも早く妻にしたいです と言ってくれたギル様に思わず抱きついてしまった。




 王宮に到着するとデビュタントを迎える家族は別室へと誘導される。舞踏会場へ入る前に陛下と王妃殿下へ挨拶をし、王妃殿下より白バラを賜る事になっているのだ。

 一目見て本日の主役とわかるように。

 私も家族と共に挨拶を交わし、王妃殿下より白バラを髪に挿して頂いた。そこで両親は先に会場へと向かった。

 私とギル様は控え室へ。


「どうしましょう。緊張で震えが止まりません」

 

 小刻みに震える私の手をギル様はそっと手に取ると


「大丈夫、僕を信じて。君にとって大切な日を最高のものにするから」


 優しく、触れるか触れないかの口付けを手の甲にされた。その仕草があまりにもスマート過ぎて震えが止まるどころか逆に、熱くなってしまった。

 

 会場に陛下と王妃殿下が入場すると、高位貴族から順番に名を呼ばれて行く。

 今年は公爵家の令嬢がいなかったので侯爵令嬢から順に呼ばれて行く。

 今年は侯爵令嬢が五名、伯爵令嬢が十名。子爵家男爵家がそれぞれ八名づつ出席した。


 領地や税収によっては参加していない令嬢もいる為、実際にはもっといるのだと思う。


 全員が入場すると陛下よりお言葉を頂き、その後はデビューしたばかりの令息令嬢たちのダンスが始まる。ギル様と練習した甲斐あって


「とても上手く踊れているよ、フラン。このまま何曲でも踊れそうだよ」

「フフッ、さすがに三曲が限界ですわ。しかも三曲目は間違いなくギル様の足しか踏まない気がします」


 周りを見れば婚約者と踊っている方は二曲目も踊っているが、ほとんどの方は一曲で相手を変えていた。

 私の視線に気付いたギル様は


「気付いちゃった?こんな可愛いフランを他の方と踊らせたくない、心の狭い男でごめん」


 耳元で囁かれてしまい嬉しいような恥ずかしいような、足に力が入らなくなってしまった。

 ギル様はそんな私の様子に気付き、そっと輪から離れソファーへと誘導すると給仕を呼ぶ。


「フランは果実水が良いかな?私はワインを」


 給仕からグラスを受け取ると ハイ。 と、私に渡す。その仕草があまりにもスマート過ぎてまた顔が熱くなってしまった。


「姉上、それからギル義兄!」


 私たちを探していたのか?クリスと両親が早歩きでこちらに向かって来た。ギル様は頭を下げると


「王太子殿下がギルくんを探していた」


 少し顔色を悪くしながらお父様が言った。

 見るとお母様もクリスも・・

 不安になりながらも、後日お礼をする!と言っていた事を思い出し、その事を伝える。両親はそれでも不安気の様子だった。

 すると後ろの方から大きなざわめきが起こると、王太子殿下と妃殿下がこちらに向かって来ているのに気付いた。

 私たちに用が無くとも座ったままでは非礼に当たるため急いでソファーから立ち上がる。


「やっと見つけたよ」


 そう言いながら王太子殿下はギル様の前に立ち止まると


「この間のお礼をしたいと思って探していたんだ」


 だから顔を上げてくれ   と。


 殿下が真っ直ぐにギル様を見つめる。

 ギル様も王太子殿下を見つめる。


「君の目と腕に惹かれた。君を私付き専属護衛騎士に任命するよ」


 ギル様と私。それから両親とクリスは、一瞬何を言われたのかわからなかった。

 王太子殿下付き専属護衛騎士は独身で無ければならない。常に殿下の側へ付くため既婚者では務まらないからだ。

 先に声を上げたのはお父様だった。


「王太子殿下にご挨拶いたします。こちらギルバート卿は我が娘と婚約する事が決まっておりまして・・」

「まだ結んではおらぬのだろう?私はそう聞いているが?」

「領地へ戻り次第、結ぶ事になっております・・」


 (お父様頑張って!!)


 と、心の中で叫ぶも


「私の言葉が聞こえなかったのか?」


 顔は笑顔を作っているがその声は断る事許さ無いと、そう言っていた。

 周りを囲んで見ていた人たちは


 凄いわね〜専属ですって!


 とか


 王太子殿下の目に留まるなんて、なんて幸運なのかしら?


 とか、勝手な事を言っている。

 でも実際こんなにも人の目のある所で、しかも王太子殿下直々のお誘いを・・断れる貴族は何処にもおらず、結局は従うしかないのだ。

 ギル様は怒りで震える拳を必死で押さえている。

 側からみれば喜びに震えているようにも見えたのだろう、実際周りにいた人達は好意的な意見を述べている。


「王太子殿下、喜んで、お受けしま、す」

「うん!そう言ってくれると思っていたよ。出来たら二日後から登城して欲しい。二日後王都を離れるから護衛を頼みたいんだ。よろしく頼むよ」


 王太子殿下は妃殿下をエスコートしながらホールの真ん中へと進んで行き、ダンスを踊りはじめた。


「ギル様・・」


 私は怒りで握りしめているギル様の拳を包み込むと、ゆっくりその場から離れた。

 二人きりになる事を反対していたお父様も、


「こんな事ならこちらへ来る前に誓約書にサインするんだった・・」


 と、二人になる事を許してくれた。


 バルコニーへと出た私たちは自然と抱き合い


「フラン、僕は君との結婚を諦めない。一年か二年したら君の元に戻るから、お願い・・待っていて・・」

 

 私の肩に顔を埋めながらギル様が言った。肩を震わせながら・・


「私のお相手はギル様だけです。待ちます。ギル様が私の元に戻ってくるまでずっと・・」


 私もギル様の胸に顔を埋めながら心の内を吐く。


「必ず戻るから・・」


 月と星が見守る中、私とギル様は誓い合うように口付けをした。




 その翌日には王宮から迎えが来て、ギル様はそのまま連れて行かれてしまった。

 私は両親とクリスに、昨晩ギル様のプロポーズを受けた事を伝えた。


「それならあちらにも承知してもらわないといけないね」


 書斎へと向かったお父様は、ギル様のご両親へ手紙を送るのだろう。

 いつ帰って来るかわからない男のために、大切な娘を待たせる事にきっと両親は複雑な気持ちだろう。

 それでも私たちの気持ちが同じだと知っているから、悪い事にならないよう手を回してくれるはずだ。


 私はギル様が領地へ戻って来るのを待つだけ!


 そう思っていたのに、王家からギル様のご両親へと届けられた手紙には


「アルバート様と・・私が・・?」


 私とアルバート様の婚約だった。


 ギル様は自分が子爵位を継いで領地を守る!と、騎士団でも話していたそうだ。

 でもそれを聞いた殿下は納得されず、


「二人いるなら君が爵位を継ぐ必要もないだろう?ああ、あの令嬢の事を心配しているのか?だったらもう一人と一緒になれば良いではないか」


 ギル様の腕と容姿を気に入った王太子両殿下は、ギル様を離すことは考えれない!と、提案してきたのだ。


 王家のお願い(命令)を聞かない訳にもいかず、私とアルバート様の婚約が成立してしまったのは、ギル様と別れて二ヶ月も経っていない初夏だった。

 

 私はもちろん、アルバート様も納得していない婚約式は身内だけが集まった形だけのものとなり、ギル様の時のようなお茶会や手紙の交換などは一切なかった。なぜならアルバート様は騎士になる事を諦めた訳ではなかったから・・


「アルバートくんはまた王宮騎士団の試験を受けたらしいね」


 領地の見廻りから戻ったお父様が、食事の席で開口一番に話始めた。

 ギル様のお父様から手紙が届いていたようだ。

 アルバート様はお義父さまから領地の運営や管理の仕事を教えてもらっているのだが、元々はギル様へ託すつもりでいた為に勉強など一切してこなかった。

 そのツケが回って来ていて、かなりのストレスを抱えている。との内容だったと・・


「ギル様が天才肌なら、アルバート様は努力肌。騎士になる為だけに努力されてきたのだもの・・納得できないのでしょうね・・」

「それでも貴族に産まれたなら、いつこうなるかは頭に入れておくべきです。ギルお義兄さんがいるからと何もして来なかったアルバート様にも問題があります」


 ギル様を慕っているクリスから見たら、今のアルバート様の行動は同じ貴族の子息として産まれたのに!と、納得出来なかったようだ。

 それに・・


「自分の感情を姉上にぶつけるのも・・間違っています。姉上だって辛いのを我慢しているのに・・」

「クリス・・」


 クリスの言いたい事もわかっている。

 本人の意思など貴族に産まれた以上持ってはいけない、また王太子殿下からの命で結ばれた婚約なのだ。本人の意思など関係なく、婚約者を大切に扱うものだと・・


 クリスも来年十六歳だ。

 両親は私の事もありクリスの婚約者探しを始めたようだ。そしてできる事なら相手のデビュタント前に婚約式を済ませたいと・・


 

 そんなある日、王都から戻られたアルバート様から手紙が届いた。


「アルバート様が明日、こちらに来られるようです」


 一度会って話がしたい。

 そう書かれていた。

 やはり騎士になる夢を捨てられないから、婚約の解消でも伝えに来るのかな?

 クリスはアルバート様を信用していないので同席すると言ってきたが、一応は婚約者だ。


「何かあればすぐに呼ぶわ」


 と伝え、ギル様の時とは違い応接室で会う事にした。ギル様の時は初めからサロンや庭でのお茶会だった。メイドたちも心なしか覇気がなく、それでも準備はしっかり整えてくれていた。


 アルバート様の到着を知らされ玄関ホールまでで迎えに行く。

 先に出迎えていたのはクリスだった。


「お久しぶりですアルバート様。当家にはどのような御用で?」

「ああ、クリス。久しぶりだな。フランシスに話があって来た。取り次いでもらえないか?」

「呼び捨て・・ですか」

「!」

「クリス!ここからは私が・・アルバート様いらっしゃいませ。お部屋の用意が出来ております、どうぞこちらへ」


 私は咄嗟に言葉を掛けていた。クリスの態度があからさま過ぎてアルバート様の機嫌を損ねるのでは?と心配になったからだ。

 応接室へ案内しソファーへ腰掛けてもらうと、メイドたちがお茶とお菓子を運んで来た。それらをテーブルへ置くと静かに部屋から出て行く。

 もちろん扉は開けたままだ。


「お久しぶりですねアルバート様。最後にお会いしたのは婚約式、の時でしたかしら?」


 アルバート様は運ばれたお茶を飲み干すと


「今日はフランシスに確認したい事があって来た。君は今でもギルを待っているか?」

「えっ・・」


 想像していなかった事を言われ動揺してしまった。

 アルバート様は私をじっと見ている。どう答えるのが正解なのか考えていると


「まぁいい。そう簡単に心が変わるとは思ってはいない。だが、君の返事次第では俺も決めないといけなくてな。悪いが明日、こちらの教会へ来て欲しい。」


 差し出された紙に書いてあった場所は、我が領地の端にある教会だった。


 アルバート様はそれだけ言うと席を立ち、帰って行った。


(何と言えば良いの?心はギル様を想い続けている。でも王命で結ばれた婚約を断ることなど出来ない・・)


 私はその夜、食事も摂る事が出来ず早々に部屋へと戻った。



 翌日

 私はアルバート様に指定された教会へと向かった。その教会はとても小さいが隣に建てられている孤児院からは子供達の元気な声が聞こえてくる。

 私は御者とメイドを馬車へと残し、一人中へ足を運ぶ。中は思ったよりも小さかったが綺麗に掃除されており、ステンドグラスから注がれる日の光が聖女様に当たり幻想的な雰囲気を醸し出していた。


 カツン、カツンと足音が聞こえ振り返るとアルバート様がこちらに向かって歩いてくる。


「お待たせ致しました、アルバート様」


 淑女の礼を取りながら挨拶をすると


「いや、僕も今来たところだ」


 私の前で立ち止まると昨日とは違う声色で答えた。そして、立って話すのも・・と、側にある椅子へ座るよう促された。


「昨日の答えを聞かせて欲しい」


 私は目の前にいるアルバート様を真っ直ぐに見つめる。

 目の前のアルバート様も私を真っ直ぐに見つめてくる。


「私の答えを伝える前に、一つお伺いしても宜しいでしょうか?」


 アルバート様は頷いた。


「失礼を承知で伺います。ギル様・・ですよね?」

「・・なぜ?そう思う?」


 私は久しぶりにギル様に会えた嬉しさに思わずクスッと笑ってしまった。

 

「神父さまも気付かなかったのに・・」

「だから言っただろ?フランには通用しないって!」


 いつからそこに居たのか?アルバート様が顔を出していた。私と目が合うと席から立ち上がり、私とギル様の元へと歩いて来た。


「でもギルが言ったんじゃないか!フランシス騙せたらこの国で・・」

「おい!黙れって!!」


 何やら二人で企んでいた様だ。

 私は静かに二人を見つめた。ただ、黙って・・

 すると私の視線に気付いたギル様が


「ここでは誰かに見られるから」


 と、神父様にお願いして教会の一室を借りた。

 その間アルバート様は我が家の御者とメイドに帰るよう話を付けた。ちゃんと送り届けるから!と・・


 その間私とギル様は、あの日以来会えなかった時間を埋めるように抱き合った。


「お元気でしたか?身体は・・辛い任務はありませんでしたか?わたしは・・さびしかった・・」


 泣くつもりは無かったのに、ギル様に抱きしめてられたら止められなかった。次から次へと溢れる涙をどう止めたら良いかわからなかった。


「フランの事をずっと思ってた。言ったよね?僕はフランと結婚するんだって」


 私はひたすら頭を縦に振ることしか出来なかった。

 そんな私たちの間を裂くように


「俺にはその気持ちはわからんが、そろそろ今後の話をしたいのだが?」


 アルバート様の声に私たちは我に戻った。



「ギル、この間王宮へ行った時変な噂を聞いたんだが?」

「・・・もしかして、ドラン侯爵令嬢の事かな?」

「?」


 ドラン侯爵令嬢。確か近衛騎士隊長のご令嬢だったと・・

 私はギル様の顔を見つめる。

 ギル様は私とアルバート様の視線に耐えられず、ポツリポツリと話始めた。


「ある時、王太子殿下に付き添って王宮の陛下の元へ向かっていたら突然、ドラン侯爵令嬢が声を掛けて来たんだ。あの時はありがとうございました。と」

「何かあったのですか?」

「それが・・僕には身に覚えがなくて。人違いでは?と聞いたのだけど・・」


 ギル様の話はこうだった。


 ドラン侯爵令嬢が騎士達の練習を見に行った際、とある侯爵令嬢に嫌がらせを受けその場から出られなくなった。その内メイドが探しに来るだろうと思ったがなかなか来ず、困っていた所ギル様に助けられたと言っていた。

 だが、本人であるギル様には全く身に覚えもなく困っていたがドラン侯爵まで出て来てしまい、本気で困っているんだ・・と。


「多分それ・・俺だ」

「「えっ?」」

「一人の令嬢が木の影に隠れて座っていたから声を掛けたら、ドレスが破れてその場から動けない。って言うから・・」


 上着を貸して、人が居ないのを確かめて抱き上げて馬車まで連れて行ったのだと・・


「馬車の家紋がドラン侯爵家だったから間違いない」


 なるほど・・、この二人を見分けるのは至難の業で、実際私もギル様が熱を持って見つめるからわかるのであって、そうでなければ見分けなんて付かないのだ。

 その時にチラッとだけ見たドラン侯爵令嬢が、アルバート様なのかギル様なのかなんてわかる訳ない。


「そこで、両親と執事長と侍女長以外で俺たちを見分けられるフランシス嬢に頼みがある」


 私とギル様は、アルバート様の話を聞く事となった。

 何でもアルバート様はドラン侯爵令嬢の事をその日以来気になっており、試験と言ってはギル様の元へ行き入れ替わって会っていたそうで・・


「フランシス以外は100%騙せた!」


 と、誇らしげに言っていた。



そしてあの日、二人は剣の稽古に行くと言って屋敷を出た。アルバート様を説得する為にと偽ってワザと悪天候の日を選び、あたかも雷に打たれたようにする為に・・


「本当に打たれるなんて、何やってるんですか?二人とも・・」


 私は部屋に誰も居ないのを確認し泣いた。

 コンコンッ!と部屋をノックする音が聞こえ扉を開けると、そこには侍女長が立っていた。


「申し訳ありませんフランシス様。王都よりドラン侯爵家のご令嬢がお見えになっていまして・・」


 子爵家からすれば侯爵家は雲の上の存在。そんな家の令嬢来たとなれば動揺するのも頷ける。

 私は二人を任せ応接室へと向かった。

 そこには子爵夫人が対応していたが、私の姿を見てホッとした顔をしていた。


「フランちゃんごめんなさい。ギルバートの様子が知りたいと王都から来てくださったの」

「初めましてフランシス・ルージャと申します」

「こちらこそ突然来てしまってごめんなさい。キャサリン・ドランです」


 お義母様はお茶の用意をしてくるわ。と、席を離れた。その方が良い。この方はきっと、何かを感じてここまで来たのだからと、直感した。


 話を聞くとやはり会うたびに対応が違うギル様に違和感を感じていたと・・


「ある日は突き放すような態度を取られたかと思えば、その次は甘ったるい目で見てきて・・」


 私はその話を聞いて思わず笑ってしまった。

 さすが双子!恋する相手にはバレバレな態度を取ってしまうんだな・・と。


「ドラン侯爵令嬢様には本当の事を伝えますね」

「?本当の事とは?それと、私の事はキャサリンと呼んでください」


 私は振り返りながら


「私とキャサリン様は同じです。だから今からの事は内緒にして欲しいのです」


 




 五ヶ月後・・

 奇跡的に意識を取り戻したアルバート様とギル様は、本来の場所へと戻った。

 お互いに少し記憶の障害は残ったものの、生活して行く分には特に不便は無かった。

 王太子専属騎士に戻ったギル様はその後ドラン侯爵令嬢キャサリン様との話が舞い込み、近いうちに婚約する事になる。

 そうなるとギル様はドラン侯爵家へ婿入りする事になる為、専属護衛騎士は降りる事になる。


 私とアルバート様も以前に比べると仲は深まった。ギル様が侯爵令嬢に身染められた以上、未練がましく待ち続けるのもおかしな話しになる。

 それにあの一件からアルバート様がとても優しくなり、寄り添える存在となった。


「フラン、ギルがキャサリン嬢と結婚する事になり寂しい?」


 先月結婚式を済ませた私とアルバート様は、子爵領の屋敷の近くに別邸を建てて二人で暮らし始めた。

 今日はギルバート様を子爵家から離れる手続きのため、お義父様とアルバート様で王都まで行っていた。


「アルがいるのに寂しいはずがありませんわ」

 

 ベランダで星を眺めていたら後ろから抱きしめられた。

 身体をアルバート様に預けながら顔だけ後ろを向けると、私を真っ直ぐ見つめるアルバート様の瞳と合う。


「王太子殿下に言われんだ。君は本当にアルバート卿なのかい?って」

「・・・」

「もちろんです。と、答えたよ。僕と彼はもともと同じだからね」


 私の額に口付けを落とすとそのまま抱き上げた。


「ここは冷えるから中へ入ろう。安定したと言ってもまだ不安だから」

「アルは心配性ですね。お医者様はそろそろ身体を動かした方が良いと申してましたよ?」

「そうだけどね、もう少しだけ君を甘やかしたいし独り占めしたいんだ」


 この人はこんなに独占欲があったのか?と思えるほど、毎日驚かされる。でもそれが心地良く嫌では無いから困ってしまう。

 私は彼に軽く口付けると、


「明日はクリスがこちらに顔を出すと言ってましたよ。アルに相談したい事があると言ってたので」

「そうですか。では久しぶりに馬に乗って遠出でもして来ようかな?」


 春には新しい家族が増える。

 その半年後にはギル様とキャサリン様が結婚する。

 クリスにも婚約者が出来、いずれ結婚する。

 そうやって家族が増えて行く。


「アル、幸せですね」

「フランとこうして過ごせる今が、一番幸せです」


 私はフフフッと微笑む。


「これからもっと幸せが訪れますよ」


 二人で笑いながら静かに自室へと戻った。



 


 


 

 


本職が忙しく書いては消し、また書いては消しを繰り返しました(泣)

楽しんでいただけたらと思います。

また二人のバート目線を書きたいと思っています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ