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ヒトナキ街で、きみは微笑んだ  作者: 4MB!T
最終章「記録なき時間のなかで」
62/72

16-2.「意味を与えない、というやさしさ」

 ひとつの塊があった。

 金属のかけらと、樹脂のような繊維、内部で焦げた配線。

 ナユタはそれを見たが、名前を探さなかった。

 “なんだろう”とも思わなかった。


 


 ただ、それがそこにあるという事実だけを、胸の内で受け止めて、通り過ぎた。


 


 「見つけても、名前をつけなくていいんだな」

 ナユタがつぶやいた。

 「むかしのぼくだったら、なんて呼ぼうとか、どこから来たんだろうとか、調べたがってた」


 


 「でも今は、“ここに在った”ってことだけで、じゅうぶんだって思える」


 


 ミナは返事をしなかった。

 けれど、足取りをナユタと同じ速度に合わせた。


 


 ふたりは、何かの機構だったであろう残骸の横を通り、

 誰にも拾われなかった陶片のそばをすり抜けた。

 見上げれば、標識のようなものが傾いていたが、読もうとすらしなかった。


 


 「ここに何があったかなんて、たぶんもう誰も知らない」

 「はい」

 「でも、“だれかがいた”ってことだけは、知ってる気がする。

 ぼくらみたいに、歩いて、通って、きっと――何かを見てた」


 


 名もない空間。

 意味の剥がれた物体たち。

 痕跡とさえ呼べない空白。


 


 それらが、“観測されなかったことで守られていた記憶”のように思えた。


 


 ミナは言った。


 「観測は、意味を与える行為です。

 けれど、意味のないままに残ることで、“壊れないまま在る”ものもあります」


 


 ナユタは頷いた。


 「きっと、そういう時間のことを“忘れられた”って呼ぶんじゃなくて、

 “見守られてる”って呼んでもいいんじゃないかな」


 


 風が流れる。

 ひとつの名前も、定義も落とさずに。



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