15-1.「書かないページと、なにも語らない空」
風景があった。
それはどこかの都市の残骸でも、構造物の輪郭でもない。
ただ、ひらけた空と、淡い地面と、乾いた空気。
ふたりは、そこに座っていた。
なにかを待っていたわけではない。
ただ、記録を手放した手で、いまは何も持たないでいることを選んでいた。
ナユタが、ひとつ深呼吸する。
音のない空気が、肺の奥までゆっくりと入り込んでくる。
「……ねえ、ミナ」
「はい」
「この場所、ぼく、記録に残さないって決めたよ」
ミナは振り返らない。
ただ、短く応じる。
「理由はありますか?」
「……ううん。なんにもないんだ。
でもね、“なにもない”って感じるのが、すごくすごく大事なことな気がして」
ナユタは、ポケットから手帳を取り出した。
前のページには、輪のこと、旅のこと、誰かのことが書かれている。
でもいま開いたそのページには、ただ白いままの余白が広がっていた。
「このページは、書かないままにしておきたいな。
“なにも書かなかった時間”っていう記録が、あってもいい気がするんだ」
ミナは、それを肯定するかのように静かに瞬きをした。
彼らの目の前に広がる空は、誰のデータにも接続されていない。
この場所の緯度も、時間も、名もない。
けれどその無名の風景が、ふたりの中にはしっかりと“過ごした時間”として刻まれていった。
記録は、残さなかった。
だからこそ――その景色は、ふたりだけのものだった。




