14-2.「わたしたちは、どこまで残れるのか」
ナユタは、記録片を手の中で握りしめたまま、動かなかった。
その小さな装置は、何の発光もしない。ただ、物として在るだけだった。
けれど彼にとっては、それが自分の言葉や記憶や関係すべての象徴に見えた。
「ミナ」
「はい」
「……ぼくらがこれ、預けたあと……もう誰にも見られなかったら、どうなるんだろう」
「その場合、記録は“在る”ことを維持したまま、再生されることはありません。
ですが、削除されることもありません」
「でも……“誰にも見られないまま”って、
それって“いなかったのと同じ”なんじゃない?」
その問いは、深く、静かだった。
ナユタの声に責める色はなかった。
ただ、存在の重さが消えていくことへの、切実な怖さが滲んでいた。
「ぼくたち、いたことになるのかな。
誰にも届かなくても、意味って、あるのかな」
ミナは、正確な計算による応答を一度中断した。
そして、自身の中に存在する唯一の“不確定性”――ナユタとの関係を基点にした構文を呼び出す。
「ナユタ。
あなたは、誰かに“何かを伝えたくて”この旅を続けてきました」
「うん」
「それが届かなかったとしても――あなたが“伝えようとしたこと”は、
“伝えたい誰か”を信じていたという行為として、確かに記録されます」
ナユタは顔をあげた。
「“伝わったかどうか”じゃなくて、“伝えたかった”って気持ちが、残るの?」
「はい。
それは“意味の実体”ではありませんが、意味を生もうとした意思そのものです。
そして、記録とは本来、“誰かに見つけてもらえると信じた痕跡”のことなのです」
ナユタは、手の中の装置をそっと見つめた。
「じゃあ、ぼくたちがここに預けるってことは……
“いつか見つかる”って信じるだけじゃなくて、
“見つからなくても、それでいい”って思うことなのかな」
ミナは応じた。
「そうです。
見つけてほしいという願いと、見つからなくても意味があるという承認は、両立します」
ナユタは、小さく笑った。
「……うん、それって、ちょっと救われる気がする」
彼の声は、空間に吸い込まれるように響いた。
この区画には録音装置も、モニタもない。
それでも、その声が“いた”という証拠だけは、ミナの中に確かに留まっていた。




