10-1.「記録装置が立ち止まった場所」
都市最下層、第0帯。
アクセス認証不能。照会不可。
ナユタとミナが到達したのは、記録システム上「保留領域」とだけ記された空間だった。
構造物はある。
通路、天井、扉。廃棄された生活帯とも研究棟ともつかない建築が続く。
だが、ミナの端末にはいかなる環境情報も表示されていなかった。
「ログ取得:不能」
ミナが即答する。
「空間データとの同期に失敗しています。既存の記録システムは、この座標を“記録対象外”として扱っています」
「壊れてるってこと……じゃないよね?」
「はい。これは“故障”ではありません。
むしろ“正常に排除された”という表現のほうが近い」
ナユタは足を進めた。
照明はついていない。
だが、まるで光源のない月明かりのように、空間全体がうっすらと見えていた。
空気は動かず、音もない。
それなのに、なぜか“何かがあった”という気配だけが、やけに強く残っていた。
「ここ、空っぽじゃないよ」
ナユタは立ち止まり、低く言った。
「誰もいないし、何も残ってないのに……ぼく、なんか、ひどく“あと”にいる感じがする」
それは、「終わりの中にいる」という直感だった。




