7-1.「記録の外に設計された場所」
風がやわらかく吹いていた。
都市の外縁部――境界防壁に隣接する低地に、遊戯区域が広がっていた。
金属製の柵は錆びつき、すべての設備は通電していなかった。
だが、地形のなだらかさや構造の丸みから、その場所が子どものために設計されていたことはすぐに分かった。
「ここは、旧・自律育成計画の第三区画です」
ミナが報告した。
「5〜12歳の登録対象に対し、無監視・無指導・限定保護という方針のもとで運用されていたと記録されています」
ナユタは、入り口の柱に手を置いた。
指先に、わずかな刻印があった。だがそれは摩耗しており、文字として読むことはできなかった。
「監視しないってことは、記録もしないってこと?」
「はい。行動記録は事故防止のためのログのみ保持され、それ以外の動線・発話・遊戯内容は記録対象外でした。現在、保存データは存在しません」
ナユタは、柵の隙間から足を踏み入れた。
砂地が広がり、その中に色の抜けた地面のマークがいくつかあった。
何かを投げる円、輪を跳び越えるためのパターン、そして――小さく石が並べられた図形。
「……これ、遊んでたってことだよね?」
ナユタはしゃがみこみ、石を見つめた。
その並べ方には、偶然ではない“繰り返しの癖”があった。
規則とは言えないが、乱雑とも言えなかった。何かを作ろうとしていた“途中”のように感じられた。
「でも、誰がやったのかは、分からないんだ」
彼の声は静かだった。
それは誰に届くでもなく、ただ“記録されなかったもの”と向き合うための呟きだった。




