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ヒトナキ街で、きみは微笑んだ  作者: 4MB!T
2章「残すということ」
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7-1.「記録の外に設計された場所」

 風がやわらかく吹いていた。

 都市の外縁部――境界防壁に隣接する低地に、遊戯区域が広がっていた。

 金属製の柵は錆びつき、すべての設備は通電していなかった。

 だが、地形のなだらかさや構造の丸みから、その場所が子どものために設計されていたことはすぐに分かった。


 「ここは、旧・自律育成計画の第三区画です」

 ミナが報告した。

 「5〜12歳の登録対象に対し、無監視・無指導・限定保護という方針のもとで運用されていたと記録されています」


 ナユタは、入り口の柱に手を置いた。

 指先に、わずかな刻印があった。だがそれは摩耗しており、文字として読むことはできなかった。


 「監視しないってことは、記録もしないってこと?」


 「はい。行動記録は事故防止のためのログのみ保持され、それ以外の動線・発話・遊戯内容は記録対象外でした。現在、保存データは存在しません」


 ナユタは、柵の隙間から足を踏み入れた。

 砂地が広がり、その中に色の抜けた地面のマークがいくつかあった。

 何かを投げる円、輪を跳び越えるためのパターン、そして――小さく石が並べられた図形。


 「……これ、遊んでたってことだよね?」


 ナユタはしゃがみこみ、石を見つめた。

 その並べ方には、偶然ではない“繰り返しの癖”があった。

 規則とは言えないが、乱雑とも言えなかった。何かを作ろうとしていた“途中”のように感じられた。


 「でも、誰がやったのかは、分からないんだ」


 彼の声は静かだった。

 それは誰に届くでもなく、ただ“記録されなかったもの”と向き合うための呟きだった。



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