表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒトナキ街で、きみは微笑んだ  作者: 4MB!T
2章「残すということ」
21/72

6-1.「無記録帯の入り口」

 都市構造第0列区。

 公式には、存在しない区画だった。


 廃線となったモノレールのガイドレール沿いを進むと、途切れた橋の向こうにそれは現れた。

 建物の形は、他の居住区と変わらなかった。高さも、構造も、配置も。

 けれど、どの建物にも番号がなかった。


 案内表示も、住居識別も、センサー反応もなかった。

 ただそこに、構造物だけが残されていた。


「この区画には、住民記録が存在しません」

 ミナが言った。

「数値上は“未開発地”として分類されていますが、航空写真記録との照合では、建築群の存在が確認されています」


 ナユタは、目の前の建物を見上げた。

 鉄骨が錆び、外壁の塗装は剥がれ、窓ガラスの多くは割れていた。

 それでも、廃墟とは違う印象があった。


「……誰かが、住んでた感じがする」


 それは感情ではなかった。

 空間の“使われた痕跡”が、建物の外側にかすかに残っていた。

 通路の中央がわずかに擦り減り、出入り口の前には足跡にも似た形状の凹みがあった。


「居住痕は認識可能です」

 ミナは記録装置を起動しながら答えた。

「ただし、ID・通信・記名ログのいずれも一致項目は検出されていません」


「記録されなかったってこと?」

 ナユタは振り返る。

「それとも、消されたの?」


 ミナはすぐには答えなかった。

 沈黙が数秒流れ、やがてひとこと。


「判断不可能です」


 その言い回しには、否定も肯定もなかった。


 ナユタは、表示板のないポストの前で立ち止まった。

 その傍に、紙のようなものが風に揺れていた。

 破れかけていたが、何かが“書かれていた”ことだけは読み取れた。


 彼はそっと、それに手を伸ばした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ