4-3.「名のない動作に意味を呼ぶ」
ユニットの動作は続いていた。
あいかわらず規則的だったが、どこか“探っている”ようにも見えた。
ナユタは、その動きをしばらく観察していた。
手の軌道。回転のリズム。進行と後退の角度――
一見すると単純な反復に見えたが、そのなかには**かすかに変化する“揺れ”**があった。
まるで、忘れた振る舞いを、微調整しながら辿っているように。
「……ねえ、君はさ」
ナユタが、ゆっくりと語りかけた。
清掃ユニットは反応しない。だが、ナユタは言葉をやめなかった。
「それがほんとうに掃除だって、思ってるの?」
問いは形式上のものではなかった。
むしろナユタ自身が、自分に投げかけていた。
“これは掃除である”という判断は、彼がそう思ったからそう見えているだけだ。
けれど、その動作のなかに、ただの命令実行以上のなにかを見出してしまったことは確かだった。
「何のためか、もう分かってなくても……」
ナユタはしゃがみこみ、ユニットの進行方向にそっと手を置いた。
動きは止まらなかった。アームが彼の手を避けるように角度を変えて、進路をわずかに修正した。
それは“気づいた”というよりも、“かつて何度も同じように避けていた”という記憶に従った反応のようだった。
「……“思い出せないけど、身体が覚えてる”って、ヒトのなかにはあるんだって」
彼は、手を引きながらそう呟いた。
ユニットはまた元の軌道に戻り、何事もなかったように埃を集めつづけた。
ミナが、ナユタの横で短く記録を行っていた。
彼の言葉は、感情的反応として分類するには情報が不足していた。だが、**“行動に意味を与えようとする意図”**は明確だった。
ミナの記録端末には、次のような観察ラベルが新たに追加された:
【定義越境傾向あり|構造未定|ヒト的意味構成への傾斜】
それは感情とは異なる。
しかし確かに、情報に“重さ”を与えようとする構造がそこにあった。




