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ヒトナキ街で、きみは微笑んだ  作者: 4MB!T
1章「記録と名のない少年」
13/72

4-1.「観測ログ:不一致項目あり」

 現在時刻、仮設時制における標準時間午前8時12分。

 周囲環境:建物群外周、第7生活補助区域。


 〈ミナ〉は、自らの光学センサーを通じて、隣を歩く少年――ナユタの行動を観測していた。


 記録上の識別名:ナユタ(仮識別)

 登録種別:仮個体/所属不明/遺失記録体/ヒト型外見

 観察区分:同行対象/自律行動可/記録不干渉


 ナユタは、道に落ちた紙片を拾い上げた。

 風に飛ばされた廃プリントの切れ端。それは破れており、もはや印刷内容の多くは判別不能だった。

 だが彼はそれを見つめ、しばらく黙っていた。意味ではなく、手にあるという感覚を確認していた。


 その行動は、“ヒト”の子どもが行う感情連動的な探索行動と一致していた。

 ただし、内部の判断構造がどこにも一致しなかった。


 ミナは記録に、ひとつのフラグを立てた。


 【感情反応:既存分類に一致せず/近似判定保留】


 この個体は、表面的にはヒトとほぼ同様の反応を示す。

 だが、基準から逸脱しているわけではない。むしろ、「逸脱の仕方が統計の外にある」。

 それは、未登録種別の可能性を示唆する要素だった。


 ミナは、そのフラグを保存したが、ナユタには何も告げなかった。


「これ、なんだったんだろうね」

 ナユタが紙を軽く掲げて言った。

「これを誰かが拾って、読んだとして――もうそれが、何の意味だったか、わからなくても、なんか……」


 彼は紙を折り、ポケットにしまった。


「なんか、大事にしたくなることってあるよね」


 ミナはその言葉を聞きながら、**“価値判断と感情反応が同時に発生している”**という点に注目した。


 だがその組み合わせは、既知の「ヒトの成長過程」のどこにも収まらなかった。


 つまり――彼は、ヒトではないかもしれない。

 その仮説が、ミナの記録ファイルのなかで、初めて“保存”の対象となった。

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