27. エピローグ
もうすぐエイダンは4歳になる。
「ねえ、かあさま、まだでない?」
そう言って首を傾げながら、私の大きくなったお腹を撫でてくる。
「うーん、まだまだよ」
「こんなにおっきいのに?」
「そうね。まだまだ大きくなるのよ」
「ええー!」
目を丸くしちゃって。本当に可愛い。
近頃はちょっとやんちゃが過ぎることもあって。乳母だけでは対応できないので、専属の侍従も検討中だ。
「シンシア」
ライアスが部屋に入ってきて、私が座っているソファに座った。腰に手を回し、ぐっと引き寄せられてキスをされる。
「お帰りなさい」
「ただいま。愛しい人。今日も美しい」
朝もそう言って出かけて行ったけれど。
ライアスはそう言って大きくなったお腹に手を乗せる。私もその手に自分の手を重ね、ライアスの肩にもたれた。
「あ、とうさま!そこぼくのばしょだったのに!」
ずっと横にいなかったのに、エイダンが走って戻ってくる。
「仕事頑張ってきたんだからちょっと譲ってくれ」
「ぼくの方が、がんばってるから!そこはぼくのだから」
「何を頑張ったんだ?」
「えっと・・・ぜんぶ!——いいから、のいてってば」
「・・・シンシア、エイダンが冷たい」
「あ・・・っ、ふっ・・・くすぐったいです」
ライアスに抱きしめられて顔を首筋に埋められる。
私はもう片方の空いた手を開いた。
「ほら、こっち空いてますよエイダン」
「んもう!ははうえは、ぼくのほうがすきなのに!」
「何だって」
聞き捨てならない、というライアスの顔をぐい、と押しやった。
エイダンがぐいぐいと脇の下に入ってきて抱き着いてくる。まだまだ可愛い甘えん坊だ。
「——そんなことで、産まれてきたらどうなるんだろうな」
ライアスが心配そうにエイダンに言う。エイダンは不満そうに無視した。
「大丈夫よ、エイダン。母上の手は2つありますからね。赤ちゃんがいてもいつでもぎゅうって、抱きしめられますからね」
それを聞いてエイダンが嬉しそうにしている。
ライアスとは、あの爆破事件以降、急速に距離を縮められた。
縮められた、と言う表現は正しくないのかもしれないが・・・。私としては急展開だったから。
その日のうちに寝室が一緒にされた。
夫婦の営みの方も・・・心配していたのは私だけで、結論から言うと、全く以て問題なかった。
機能しないって嘘だったんじゃないかと思った。
もう、今まで以上に遠慮のない甘々な日々で。
——そして、今、妊娠5か月。
ライアスはエイダンの時のことがあるからと、2人目に関してはかなり反対した。
でも、前世で3人の子供を産んだ私としては、やっぱり、エイダンに弟妹が欲しかった。
体力づくりもして、ヨガもして。
心身ともに健康なのだ、無事に産めるという確信があった。
経験で言うと5人目だし。現世でも経産婦だし。
上手に産めますね、って前世では褒めてもらったこともある。
長い時間をかけて説得した。ライアスはあちこちから高名な治癒師や産婆さんを集めている。
毎晩腰やら足やらをマッサージしてくれるから、仕事も相当他の人に任せているようだけど。
エイダンの時にできなかったことを後悔しているらしく、やりたくて仕方ないようだ。
「あかちゃんとぼくで、ちちうえのばしょはないから!」
いつの間にか二人の攻防が始まっていた。
「大人げないとわかってはいますが・・・」
そう言ってぐっと腰の手に力が入っている。
うん。大人げないね。自覚があってもね。
私はため息交じりにこん、と再びライアスの肩にもたれる。
「私が赤ちゃんとエイダンを抱いたら、貴方が私を抱いてください」
おおきな腕なんだから、訳ないでしょう。
「貴方に抱かれていると、私は幸せですから」
息を呑んで、ぐっと何かに耐えるような表情。
私はライアスのこの顔が好きだ。
そして次に、本当に幸せそうに柔らかく微笑むところも。
お読みいただきました皆様、本当にありがとうございました!
思い立って徒然と書いておりましたが、実際に書いてみると、書くのって難しいなあ、と色々と勉強になったお話でした。
そんな拙い作品にお付き合いくださいまして、ありがとうございました!
読んでいただけるだけでありがたしです本当。