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【5/1書籍③発売】異世界で、夫の愛は重いけど可愛い子どもをほのぼの楽しく育てたい  作者: サイ
外伝 アルロ・ペンシルニア・ブラントネル

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50.

 マリーヴェルと手を繋いで前に立ったアルロを、ライアスは黙って見下ろしていた。

「公爵様。この度は、ペンシルニアからの援軍、ありがとうございました」

 アルロは深く頭を下げた。マリーヴェルも同じく頭を下げる。

「犠牲者が出なかったのは何よりだった。よく頑張ったな。ところで、その手を——」

「ブラントネルは、まだ若い国です。けれど、これからの国だと思っています。ブラントネルが本来の力を取り戻し、国民の隅々までに豊かさが広がるために——僕はまだ、今回のように前線に立つこともあるだろうし、死に物狂いで国のために尽くしたいと思います」

 それがライアスの出した問題の答えなのか。ライアスの表情が険しくなる。

「国のためにがむしゃらに働くから、マリーを守る余裕は今はまだない、か?」

「いいえ。ブラントネルには、マリーヴェル様が必要です」

 アルロは手に力を込めた。

「僕にも、姫様が必要です」

 今すぐにでも。

「それは、再戦の申し込みか」

 今度はマリーヴェルが心配そうにアルロの手を握った。しかし、アルロの表情は穏やかなままだった。

「何度でも、挑戦させてください。ただ……公爵様に勝てる日は、きっと来ないと思います」

「は——」

「助けてください」

 諦めとは違う、強い意志のある瞳でアルロはライアスと対峙していた。

「全力を尽くします。それでも今回のような危機に陥った時、持てる全ての力を使います。それは僕の力ではなくて、ペンシルニアやファンドラグの力であるかもしれません」

 もちろん自国の力で最善を尽くす。がむしゃらに突き進むつもりだ。それでも今回のようなことがあれば、今度は支援を請う事を躊躇わない。

 ライアスはしばらくして、そうか、と言った。

「それがお前の出した答えか」

 ライアスの求めていた答えと全く同じというわけではなった。ただ、それも一つの力の付け方のように思えた。何より、アルロの眼は、もう少しも揺らがなかった。

「——お前には、何を置いてもという闘志が足りなかった。死ぬ気で、何が何でも守り抜くという気概が。優しさも慈悲もかなぐり捨てて、どんな手を使ってでも国とマリーを守り切るという——私が、そうであるように」

 今も燃え上がる程の闘気が見えるというわけではないが、それでも、必死さはこの前の比ではないと分かる。

 ライアスがふっと笑った。

「エイダンをこき使ったらしいな」

「あ、その……はい」

「分かった」

 ライアスが姿勢を正した。アルロも背筋を伸ばす。

「——アルロ・ペンシルニア・ブラントネル。ブラントネルは、ペンシルニアの名を冠する国王の治める国だ。ペンシルニアが全力を持って、これからも必要な時は助けに行くと約束する」

 アルロは息を呑んでから、すぐに深く頭を下げた。

「ありがとうございます」

 シンシアがつん、とライアスをつついた。離していた手を再びシンシアの腰に回すと、「そうじゃない、あれ」とささやかれる。

 ライアスはやや固まったが、シンシアが呆れて離れて行こうとするのを察して、慌てて宥めるようにわかったから、と言っている。

 いったいどうしたのだと皆が顔を見合わせた。

「アルロ。その……悪かった」

「え?」

「あそこまで、やるつもりはなかった。やりすぎた。その、頬の傷……ついかっとなって、力が入りすぎた」

「あ、いえ、そんな……あれは訓練のようなものですから」

「お父様……」

 マリーヴェルがアルロの横から、一歩踏み出した。

「お父様、私、来年にはブラントネルへ来たい」

「は——」

「まだまだ未熟で、勉強不足なこともたくさんある。でも――復興を続けるこの街を見て、やりたい事が見つかったの。お願いします」

 マリーヴェルは頭を下げた。ずっと言うと決めていたようだった。

「それでも、助けてって、私もお願いすると思うんだけど……」

「マリー」

 ライアスはマリーヴェルの肩を持って、頭を上げさせた。

「助けるに決まってる。どこにいても、私はお前の味方だ」

「お父様!!」

 マリーヴェルはライアスに抱きついた。その体をライアスは軽々と持ち上げる。

「たくさん我儘を言ってごめんなさい。本当に、本当に大好きなのよ。お父様……!」

「ああ、知ってる」

 マリーヴェルは力いっぱい抱きついてから、そっと離れた。

「マリーヴェル様」

 アルロの側に戻ると、アルロがゆっくりと膝をついた。マリーヴェルの手を取り、もう片方の手を心臓に当てる。

 懐かしい、10歳の誕生日を迎えた夜の、あの誓いを思い出す。

「——あの時の誓いを、これからも一生お側で守らせてください」

 あの時は嬉しいのに苦しくて、喜びたいのに悲しかった。

 今は——感情が溢れかえって、どうしていいかわからなかった。マリーヴェルはただ何度も頷いた。

 その白い手に、アルロはそっと額を寄せる。

「謙虚であり、誠実であり、礼儀を守り、あなたを守る盾となり、忠節を尽くす——そして、必ず貴方を幸せにすると誓います。——マリーヴェル様、愛しています」

 その言葉に、心臓を撃ち抜かれたようだった。

 言葉の余韻だけで静寂に包まれている。皆に見守られているのがわかるのに、マリーヴェルは自分のうるさい胸の鼓動ばかり聞こえて、反応できずにいた。

「ふっ……う、ううぅ」

 返事をしたいのに。涙で前がかすむ。何度も何度も瞬きをして、ぽろぽろと涙が零れ落ちた。

 嗚咽が漏れて、喋れない。アルロはその姿勢のまま、ゆっくりと待ってくれた。

「僕の妃として、生涯を共に歩んで下さい」

 妃——その言葉に、不思議にも、ぴたりと涙が止まった。

「はい……はい!」

 マリーヴェルははっきりと返事をした。顔を上げたアルロと目が合う。にこりと微笑まれて、もう、興奮が抑えきれなかった。

 思い切り飛び込んで抱きついたが、アルロはしっかりと抱きとめてくれた。

「アルロ!!私、この日を一生忘れないわ!私は世界一の幸せ者よ!」

「姫様……」

「愛してるわアルロ。一緒——ずっと一緒よ!私、もっと、もっと頑張るから」

「はい」

 アルロは腕の中にいるマリーヴェルの感触を確かめた。

 かつて自分の心をその小さな体で癒してくれた、優しく強く、美しい人。触れるのもためらう程に清らかで尊い人。

 今は愛おしくて愛おしくてたまらない人。

 マリーヴェルの為なら、何でもできる。してみせる。




 こうして、ペンシルニア公女のブラントネル輿入れが翌年に決定した。

 エイダンは寂しく思ってつい拳を握ったけれど、その拳をアイラがギュッと握ってくれた。妹が幸せになると確信できる。ソフィアも歓声を上げながら、マリーヴェルと抱き合って喜んだ。

 ライアスは暗がりで肩を震わせていた。隣にいるシンシア以外、誰にも気づかれないくらい僅かに。

「ライアス」

 喜び合う子供達を眺めながら、シンシアがそっとライアスの肩に頭を預けた。

「私、本当に貴方と結婚して良かった」

 鍛え抜かれた体に手を回して、ぎゅっと抱きしめたら、すぐに温かい手がそっと支えてくれる。

「私を愛し続けてくれて、本当にありがとう」

 感謝の気持ちを伝えたかったのに、もうやめてくれと言わんばかりに口を押さえ、ライアスは更に泣いてしまった。その様子がおかしいと思うのに、今日ばかりはシンシアももらい泣きして、二人で抱き合って涙を流した。

ここまでお読みくださった皆様、本当にありがとうございました。

これにて完結とさせていただきます!

長い間、読者の皆様に支えていただき、本当に感謝しかありません。

アルロとマリ―ヴェルが結ばれるところまで描けて、感無量です。

ソフィア視点も書いてみたいですが、そうなるともうタイトルから離れすぎるので、そちらはまた、その内機会がありましたら・・・ということで。


さて、書籍3巻が本日発売されております!

やっとアルロが出てきた所で、そこまで出せてほっとしております。本当にありがとうございました。

書籍小説の方は3巻までとなっております。売れ行きが…ごにょごにょ。力及ばず、申し訳ありません。

コミカライズは続いておりますので、そちらでお楽しみいただけますと幸いです。


皆様に幸多からんことを

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― 新着の感想 ―
アルロとマリーヴェルの答えはこれで良いと思います。 ライアスとシンシアは頼ると言っているとはいえ完全に信用はしないでしょう。 優しい2人はそれでも無理をすると判断していると思います、ですがこれ以上の答…
お疲れ様でした ソフィア視点、ぜひ読みたいです 楽しみに待ってます
完結、おめでとうございます。 アルロ推しなので、アルロが幸せになってくれて、本当に嬉しいです。 マリーも素敵な女性になられましたね!(もちろん、前のマリーも好き❤️) そして、私は親世代なので、ライア…
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