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【12/1書籍②発売】異世界で、夫の愛は重いけど可愛い子どもをほのぼの楽しく育てたい  作者: サイ
外伝 アルロ・ペンシルニア・ブラントネル

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47.英雄の助け

 赤いマント、そして真っ赤な髪。

 アルロとヒュドラーの間に立ちはだかる、赤。

 この鮮やかな色を見るだけで安心してしまう。

 出発前にあんなに嫌な態度を取ったというのに——どうして。

 エイダンはたった一太刀で、2本まとめてヒュドラーの首を切り捨てた。まるで柔らかいものを切るかのように流れる動きで、息を切らすこともない。

 水飛沫をあげて巨大な首が落ちて行く。斬られたヒュドラーは悲鳴を上げながらのたうち回り、そのうちまた、あっという間に切られたところから首を増やした。

 さらに襲いかかろうとするのを、エイダンが土魔力でその体を埋めて、足止めする。

「あれ……?——おい、7引く2は?」

「5です、エイダン様」

 アルロのすぐ後ろから声がする。見れば、タンが同じく剣を抜いて構えていた。その背後にはペンシルニアの騎士が複数いる。

 その姿を見るだけで、一気に肩の力が抜けそうになって、アルロは泣きそうになった。

「1,2,3——首が9本に見えるんだけど。この瘴気のせいかな」

「いえ、エイダン様が切った所が増えましたね」

「ええっ!ぼくのせい!?」

 いつもの、エイダンだ。

 来てくれた。

 アルロが呆気に取られているのと、エイダンとはたと目が合った。

 ほらみろ、アルロ。僕が来て助かったでしょう?

 ——そう言われるかと思ったら、エイダンはくしゃりと顔を歪めたように笑った。

「なんて顔してんの」

「あ……そ、の……」

 大口を叩いておいて、食われるところだった。そうなったらブラントネルどころか、この世界が闇に包まれたかもしれない。

 とにかくまずは謝罪を、それからお礼を——そう思った瞬間。

 エイダンの方がその場のアルロの目の前で、膝をついた。すぐさまペンシルニアの騎士等もそれに従う。

 左手で剣の鞘を抑え、右手は心臓に当てる。敬意を表する跪拝は本来、主君に対して行うものだ。

「——え……」

 辺りにエイダンの凛とした声が響く。

「我らペンシルニア騎士10名、援軍として到着いたしました。ブラントネル国王陛下に御指揮願います」

 残ったブラントネル軍精鋭らの間に、どよめきが巻き起こった。

 先日は脅威を与えたペンシルニアの騎士等は、今度は援軍として馳せ参じ——さらには国王の前で膝を折っている。

「え、エイダン様……」

 慌てるアルロに構わず、今度はエイダンは立ち上がった勢いのまま、がばりとアルロを抱き締めた。

 力強い抱擁で、ぎゅうう、と締められる。

「う……」

 さすがに苦しくてうめき声が出る。

「無事で、良かった」

 心底安心した、というような声が耳元でする。

「エイダン様……」

 それ以上喋ると泣いてしまいそうで、アルロは唇を引き結んだ。

 情けない。

 拒んだくせに、助けてもらって。その上、責められもせず無事を喜んでもらって、ただただ安心している自分が……。

 ばらばらと土の崩れる音がして、ヒュドラーがまた襲いかかってきた。エイダンが離れて叫んだ。

「作戦会議するから、足止めしといて!」

「は!」

 ペンシルニア騎士の皆がアルロの横を駆け抜けていった。スタンレーもそれに続く。

 氷の魔力持ちの騎士が湖ごと凍らせ、他の騎士らが9本の首をそれぞれ斬らないように相手をする。

「ふう……すごい瘴気だな」

 珍しく、エイダンが汗をかいている。ファンドラグからここまで急いで駆け付けてくれたのだろう。それに加えて、この瘴気に包まれた空気が、圧迫感を与えている。

「——この魔道具を使ってください」

 アルロは自分の魔道具を外してエイダンに渡した。首に巻いて、カチ、と作動させる。

「——うわあ。すごい楽」

「エイダン様……」

 何と言っていいかわからなくて、それしか言えない。

 エイダンはいつも通りだった。——確かに、今はそれどころじゃない。

「これ、アルロが付けてなくて大丈夫ななの?」

「はい。僕は同属性なので、それほどでもないです」

「まあでも、早くけりをつける方がいいよな。あれは、切れば切る程増えるの?」

「初めは5本でした。僕と将軍が1本ずつ切り落とし、エイダン様が2本落としたので——」

「今現在9本、か」

 うーん、とエイダンが考え込む。

「感触としては、2騎士で1本なら難なく切れそうだけど……どう思う?」

「本当にどこまでも増え続けるのか、斬り続けてみるとか」

 聞かれたタンがとんでもない作戦を提案した。エイダンが顔を顰める。

「湖の上にうごめく蛇の山なんて、見たくないよ」

「おそらく無限に増え続けるぞ」

 そう言ったのは、ぺトゥールだった。いつの間にか近くまでやってきている。

「どうも。ゲノム魔術王国のぺトゥールだ」

「ゲノム……」

「彼が魔道具を作ってくれたんです。一緒に洞窟にも潜ってくれて」

「へえ……」

「ヒュドラーの魔力耐性はかなり高い。物理攻撃の方がいいだろうな」

 そう言いながら、ぺトゥールは戦っているペンシルニアの騎士等をちらりと見た。

「魔力持ち属性をここまでそろえて来るなんて、流石ペンシルニアだな」

「分かるのか」

 見ただけで属性が分かる者はかなり稀少だ。それも一目で。

「魔力量も分かるから、これがどんだけ化け物な集団か分かるぞ」

「ぺトゥール王子」

 失礼なことを言わないでほしい、とアルロがぺトゥールの袖を引く。

 そんな二人が仲良くずぶ濡れなことに気づいたエイダンが、すっと目を細めた。

「——随分仲がいいんだね、そこの二人」

「おう!俺ら、えらく気が合ってな」

 ぺトゥールがアルロの肩を組んだ。

「ふうん……」

「——魔力耐性は強いが、効かないわけじゃない。特にアルロの作り出す瘴気——いや、あれはなんだったんだ?この上なく純度の高い闇の魔力」

「あれは——ただ消滅させるだけの闇です。極限まで凝縮した闇の魔力で——本来は、跡形もなく、触れたものを消え去るのみ」

「へえ……。あれには目の色変えて追いかけてきただろ。あれを囮にして、一気に首を斬り落とそうぜ」

「それだと、9本が18本になるだけじゃないのか」

 エイダンが怪訝そうに言う。

「斬り口を直ちに焼ききるか、凍らせるか。光を纏うのもいいかもしれない。とにかく、再生を阻害する魔力攻撃をするんだ。おそらく、外殻を取り除けば、内部の魔力耐性は低い」

「それは、どこまで信じられるんだ」

 初対面の、それも自分より年下に見えるぺトゥールを信じて、騎士の命を預けてもいいのかどうか。エイダンには判断がつかなかった。

「俺の魔道具を使ってんだから、俺がどんだけ天才か分からないか?」

「……………」

 エイダンがアルロに視線を移す。

「僕は、やってみたいと思います」

 古代の魔物を相手にするのは、未知の事ばかりだ。アルロにとっても、間違いなくこれまでで一番強い魔物だった。でも、今三国が力を合わせれば。

「エイダン様。力を貸していただけますか」

「——わかった」

 アルロは胸に手を当てて頷いた。

「元より、指揮を願ったのはこちらだもんね。陛下の命令に従うよ」

 それが冗談なのか本気なのかは分からなったが、エイダンはそう言って騎士に作戦を伝えに行った。




 アルロが練り上げた闇魔力に、ヒュドラーはまた目の色を変えた。

 抗いがたい魅力的な餌を前にして、欲望をむき出しにする。とにかく獰猛な目を更に剥き出し、一直線に襲いかかってきた。

 パキイイィィィ——湖が凍った。ぺトゥールの魔道具が湖全体を凍らせる。本来凍らない湖だから、必要な魔力量も多い。もって5分、と言われている。

 ぺトゥールに頼んだのは、騎士の魔力を温存するためだ。

 動きが少し鈍くなったところに、スタンレーを筆頭としたブラントネルの精鋭、ペンシルニアの騎士が一気に斬りかかる。それぞれの担当した首に斬りかかり、すぐさま魔力の攻撃で畳みかける。

 息がぴったりで、揃って切り落とし、それぞれの首は炎に焼かれ、凍り付き、稲妻が打つ。

 最後に残った胴体に、エイダンが剣を突き立てた。そのまま大量の光を注ぎ込む。

 辺り一面が眩しく白く光り、それがやわらぎ視界が開く頃には、魔物は跡形もなく消え去っていた。

 何事もなかったかのような静かな湖畔が、ただあるだけ。死体も何も残っていなかった。

 瘴気も徐々に薄まって行った。紛い物の瘴気だからか、浄化をしなくとも自然と薄れていくようだった。

「やった……」

「勝った……!」

「化け物を、倒したぞ!」

「うおおおお!」

 歓声が上がる。辺りは興奮に包まれ、あっという間に街の外までその喝采は広がっていった。

 力が抜けてその場に座り込みそうになる。がっと腕を掴まれて、アルロははっと見上げた。

 一番の功労者であるエイダンが、一番余裕の顔でアルロを見下ろしていた。

「エイダン様——」

 謝らないと。そう思ったアルロの気持ちを察したのだろう。エイダンがぐっとその手に力を込めた。

「水を差すなよ、アルロ。今はただ、喜ぼうよ」

「はい……」

「僕達が力を合わせたら、無敵だね」

 そう言ってもらえて、どれほど心が軽くなるか。

「エイダン様……ありがとうございます。本当に、何て言っていいか……」

「頭なんて下げないでよ。皆見てるんだからさ」

 エイダンがアルロと腕を組んだまま、集まって来た人々に手を振っている。

 こういう華々しい舞台が本当に似合う。エイダンは、やっぱり勇者なんだと思う。

 人々の心から安堵した顔を見て、それだけで胸がいっぱいになる。

 ——何とか、守れた。

 これまでも何度も危機はあった。今回も乗り切れた。犠牲も出さずに。

 良かった。

 その人々の顔を見て、アルロは決意した。

「エイダン様」

 正面から向き合って、じっとエイダンを見つめた。エイダンも手を降ろし、アルロに向き直った。

「どうしたの。駄目だよ、陛下らしくしてないと」

「エイダン様にお願いしたいことがあります」

「ん?」

「この先の救護所に、瀕死の者が数名いるのです。厚かましいお願いをいたします。そのお力を、お貸しいただけないでしょうか」

 アルロが頭を下げた。

 エイダンは少し驚いたような顔をした。傍らのタンも珍しく目を見開いている。

 エイダンは今まで、ほとんど治癒の力を使ったことがなかった。あえて使わないようにしているし、そこにエイダンなりに色々と考えがあるのも分かっている。

 ブラントネルでわざわざ光の力を使えば、それが公に噂なるのも避けられない。

 とにかくペンシルニアらしい地の騎士という立場を大切にして、こだわってきた。そんなエイダンの気持ちを分かっているアルロが、こうして頼みごとをするなんて、今まででは考えられない事だった。

 僅かに緊張した空気の中、ふっ、とエイダンが笑ったように息を吐いた。

「アルロの頼みとあっては、断れないなあ」

 アルロが見上げると、エイダンはいつもの屈託のない笑みを浮かべていた。

 そして、任せとけとでもいうように、トン、とアルロの肩を軽く小突いた。

タンはやっとエイダンの坊ちゃん呼びを卒業しました


お気づきでしょうか…はい

エンディングに向かっております。

もう少しだけおつきあいくださませ。

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― 新着の感想 ―
エイダンはやっぱり勇者(ヒーロー)なんだなぁ……! 読んでて思わず胸が熱くなりました。 エンディング……凄く寂しいですが、大団円をお待ちしております!!
更新ありがとうございます。 「僕達が力を合わせたら、無敵だね」に涙が出そうです。 この2人が殺し合う未来じゃなくて良かった。
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