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【12/1書籍②発売】異世界で、夫の愛は重いけど可愛い子どもをほのぼの楽しく育てたい  作者: サイ
外伝 アルロ・ペンシルニア・ブラントネル

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37.

 扉を越えても、シンシアの出迎えはなかった。

 長い廊下を進み、シンシアが使っている部屋までエイダンが2人を連れていく。

「おかえりなさい」

 シンシアは部屋でにこやかに出迎えた。

「長旅で疲れてない?アルロは行ったり来たりで大変だったわね」

「いえ。前回は、帰ってしまい、その……」

「いいのよ」

 殴られたところはどう?と聞きたかったが、シンシアは言葉を飲み込んだ。

 きっと答えは決まっている。

 それに、どうなんだろう。敗北により負った傷のことに触れられるのは、嫌かもしれない。

 見た目には何ともなっていないから、あえて聞かなくてもいいか。

「元気だった?ブラントネルのみんなも」

「はい。おかげさまで。いつもありがとうございます」

 前回会えなかったから、久しぶりの再会だ。

「マリー。どこに行こうとしてるの?」

 アルロにかけていたのと、声のトーンがガラリと変わる。あまりの変わりようにアルロも目を見開いた。

 部屋を出て行こうとしていたマリーヴェルが止まる。

「ソフィアの、ところ」

「行ってどうするの?」

「ばらすのが——」

 早いわよって文句を言いに——と言おうとして、はたととまる。

 まずい。

 シンシアが、かなり怒っている。

 顔は笑顔だ。その張り付いた笑顔の下に、絶対零度の怒りを感じる。

 流石にマリーヴェルもわかった。度々叱られたことはあるが、これは過去最大級のやつだ。

「ばらすのが、何?」

「……………」

 こういう時は黙っているに限る。

 マリーヴェルは言葉がうまく選べないから、下手なことを言っていつも悪い方に向かう。黙ってやり過ごすのが一番早く終わる。

 そう思って黙るのも、シンシアにはお見通しだ。

 今日は許すつもりはなかった。

「貴方がいなくなったのがわかった時のペンシルニアが、どれほど混乱し、大騒ぎになったか」

 そんなに?マリーヴェルがエイダンを見るが、エイダンも黙って頷いた。

 決して大袈裟ではないようだ。

 ペンシルニア中を震撼させ、地獄のような殺伐とした空気の中、いよいよ全軍出陣しようとしていたのだ。皆が取り乱していたし、両親そろって正気ではなかった。ソフィアが話していなかったらどうなっていたことか。

「ソフィアには、今は会えないわよ」

 シンシアの声は静かなのに、何故だろう。空気がものすごく重い。

「会えないのは、どうしてかって?謹慎中だからよ。謹慎中、ってわかるかしら。してはいけないことをして、反省を示す為に部屋で自分を見つめ直しているの」

 何度もさせられたことのあるマリーヴェルが知らないはずがない。

「へ、へえ……」

()()?」

「あっ、その。ごめんなさい。心配をかけて」

 マリーヴェルも、シンシアには素直に謝った。

 シンシアは殊勝な様子に見えるマリーヴェルに、はあ、と息を吐き腕を組んだ。

「そう。じゃあ、聞かせてちょうだい?親にも言わず、護衛もつれずひとり国境を超えた理由を」

「1人じゃないのよ」

 じろりと見据えられて、マリーヴェルが口をもごもごとさせた。

「だって。お父様が。そんなの……」

 マリーヴェルが何を言いたいのか、何を思っているのか、聞かずとも、シンシアには分かっていた。

 アルロが傷つけられた時、アルロ自身が痛みに鈍感な分、マリーヴェルが必要以上に反応すると言うのは、もう何年もそうだった。

「頭に血が上ると馬鹿なことをするのは、ペンシルニアの血筋なのかしら」

 言葉が足りないのも。

 説明できないから相談できないのだろうか。この直感で動くのをどうにかしたい。

 難しいと思ったとしても、言葉でシンシアを納得させられるくらいでないと。

「——ねえ、マリー。その時、お母様の顔は浮かばなかった?相談しようとは思えなかったのかしら」

「……許してもらえないと思って」

 アルロへの思いと、ライアスへの反抗心から来た家出なのだろう。

 思春期の子供の家出を、シンシアだってそこまで大事にしたくはない。しかし、大事になってしまうのが、ペンシルニアという家だ。

 そしてマリーヴェルはもうすぐ16。今は大切な時だ。

 来年手元を離れるのなら、余計に。ここで手を緩めるわけにはいかない。

「貴族が国境を越える時には事前に申請がいること、知ってるわよね?」

「え?ええ。貴族法……」

「つまり貴方は、ファンドラグの法を犯したの。——騎士団長、違法越境者の処遇は?」

 エイダンが背筋を伸ばした。自分が怒られているわけではないのに、緊張感が漂う。

「禁錮五年、爵位降下、又は罰金刑、です」

 シンシアは頷いた。

「部屋は用意しなくていいわね」

「え」

「今の中でマリーヴェル、貴方が(あがな)えるのは、その身体をもってする禁錮刑しかないようだわ」

「え、母上——」

 まさか。

 シンシアはエイダンに視線をやった。

「何をしているの?王国騎士の職務を果たしなさい」

 冷たく言い放つ、まるで王族のような物言い——いや、かつてはそうだったのだろうが。

 驚くエイダンとマリーヴェルの側から、アルロが一歩前に出る。

「奥様。何とか、お許しいただけないでしょうか」

 部屋を用意しない——つまり、牢獄という事だ。そんなところにまさか、ペンシルニアの公女が入るなんて前代未聞だ。いや、それ以前にマリーヴェルを拘束させるなんて。

「すぐにお知らせしなかった僕に、非があります。ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」

 青ざめたアルロの言葉にもシンシアは動じない。

「それは、ブラントネル国王として言っているの?」

「え……」

 ライアスと同じようなセリフ。

 アルロは混乱した。シンシアの質問の意図が分からなくて。

「アルロ。貴方はこんなところにいていいの?ライアスのせいで、軍団が来て、国民は不安に思っているんじゃないかしら」

 それは帰れと言っているのだろうか。

「マリーヴェルのわがままに付き合ってここまで送り届けてくれたのよね」

 確かにマリーヴェルは、1人では帰ってこなかっただろう。アルロが一緒に帰ろうと言わなければ、もっと泥沼化していたと思われる。

 そして、一緒に帰国して一緒に謝罪をして丸く収まる——アルロもそう考えていた。まるで違う流れに、返答に詰まった。

「貴方達2人とも、それぞれに、考えなくてはいけないことがあるようね」

 シンシアは心底がっかりした、というようにため息交じりにそう言った。

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― 新着の感想 ―
確かに貴族、王族の振舞としては両方とも落第点ですよね。 でもアルロは奴隷→平民→国王ととんでもないホップ・ステップ・ジャンプをぶちかましてるから、国を治める覚悟も自覚も知識のないのは仕方ないわけで。…
貴人として統治者としての心得がみんな甘いとお嘆きのシンシア様、これから子供達にNoblesse Obligeを叩き込んで行くのか⁉︎
やっぱり最後はシンシアですね。16歳とは言え、平和な日本と違って、戦争が身近な異世界だし公的な立場を考えるともっと大人になる必要がある。シンシア頑張って!!
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