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【12/1書籍②発売】異世界で、夫の愛は重いけど可愛い子どもをほのぼの楽しく育てたい  作者: サイ
外伝 アルロ・ペンシルニア・ブラントネル

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28.

「とりあえず、夜も遅いしもう寝ましょう」

 マリーヴェルは当然のようにベッドへ向かった。

「——あ、そうですね。おやすみなさい」

「何言ってるの?アルロも寝るのよ」

「え」 

「だってここはアルロの部屋じゃない」

「僕は、ここで大丈夫です」

 アルロはソファから動かなかった。

 他に部屋がないわけではないが、このままマリーヴェルを置いて出て行くのは心配だ。だから今日はソファで。

 アルロは当然の如く、寝ずの番でもしてしまいそうな勢いだった。マリーヴェルは力ずくでアルロの手を引いてベッドまで連れて来た。

「はい、寝て」

「と——」

 ぽすん、とマリーヴェルはベッドに腰掛けた。驚いたまま固まっていたアルロだったが、手を引かれてもさすがにベッドまでは動かなかった。

「とんでもない!」

「私は構わないわ」

「かっ……」

 アルロは顔が真っ赤になってうつむいた。口をぱくぱくと動かして、何か言おうとするも言葉にならない。

 やがて、消えそうな声を絞り出した。

「いけません、姫様」

「そんな顔をされると……私がいじめているみたいじゃない」

 マリーヴェルは両手でそっとアルロの手を握った。

「手を繋ぐだけ。——だめ?」

 真剣な目でじっと見上げられる。

 アルロは、この顔に弱い。

 いや、マリーヴェルの頼みを断れたことなど今まで一度もない。

「手を、繋ぐ、だけ」

 これは、自分に言い聞かせるように言っている。

 幸いベッドはとても大きくて、離れて寝ても落ちないくらいだ。

 マリーヴェルがごろんと横になったそこから人一人分の距離を開けて、アルロは恐る恐るベッドに入った。ひやりとしたシーツが、いつもと違うように思うのはマリーヴェルの香りが移っているからだろうか。

 既にマリーヴェルは満足そうな顔で目を閉じている。

 それを見てアルロはごくりと唾を呑み込んだ。

 これは——拷問だ。

 アルロとマリーヴェルは手を繋いで、抱きしめ合ったことはあるが。口付けは頬にだってしたことがない。恐れ多くて、手に口付けた時ですら震えていたんじゃないかと思う程だ。

 抱きしめ合うのだって、ほとんどマリーヴェルから。

 そんなアルロにとって、これは刺激が強すぎる。

 もっと触れたい。けれど、身動き一つしてはいけない気がする。色々と、まずい。

 アルロは何度も深呼吸して、唾を飲み込んで。

 目を閉じて無防備になっているマリーヴェルの横顔を見つめた。

 銀色の長い睫毛がよくわかる。寝息に合わせて微かに揺れている。シーツの上に広がる髪の毛一本一本まで、ただ尊くて愛おしかった。

 見つめながらも、この場所にマリーヴェルがいることがまだ信じられない

 いつもの殺風景な部屋に、マリーヴェルだけが異彩を放っていた。ここだけに色彩が輝いているようだ。

 この部屋はマリーヴェルにはふさわしくない。そんなことを考えていた。

 こんなことなら、侍女頭の言うことにしたがって、もっと飾りつけていればよかった。装飾品は残らず売ってしまうか、掃除が大変かと思い宝物庫にしまっている。

 すやすやと眠るマリーヴェルの寝顔は、無垢で、真珠のような肌も、ふっくりと形の良い唇も……天使のようだ。

 このまま徹夜して見ていたい。

「ん……」

 しまった。見すぎただろうか。自分だって、人の視線はすぐに察知する。こんなに至近距離で見つめられたら、流石のマリーヴェルも気づくだろう。

 マリーヴェルは薄目を開けて微笑んだ。銀の睫毛に覆われて、アルロが見えているんだろうかと、至近距離だとそんなことを考えてしまう。

「だめよ、アルロ。目を閉じて」

 そう言ってするりと繋いでいない方の手が伸びて、アルロの目に被さった。マリーヴェルの温かくて柔らかい手だ。

 そのまま、すう、と寝息が聞こえる。

 繋いだ手の感触が柔らかい。

 マリーヴェルの甘い香りがする。

「ーーーーっっ」

 目を閉じたら五感がより研ぎ澄まされて、更に心臓が跳ね上がるようだった。

 理性を総動員させて、ちょっとくらい触れても——などと考える自分を頭の中で押さえつける。

 微動だにしてはいけない。指一本、髪の毛一本すら動かしてはいけないという緊張感。

 ——でも、幸せだ。

 マリーヴェルの手の温かさに力が抜けていく。

 この存在を感じて、満たされて。

 昔から今まで、ずっとそうだった。きっとこれからも一生そうだと思う。

 マリーヴェルに触れるだけで、世界は美しく色彩を帯びてゆく。




 ノックの音に目が覚める。アルロははっと目を開けた。

 朝だ。

 いつのまにか寝てしまったらしい。外はかなり明るくて、いつも起きる時間よりも遅いことが分かる。

 手はつないだままだった。シーツの上に、マリーヴェルの顔は分からない。銀の髪が揺らめいていて、きっとそれをかき分ければ顔が見えるのだろうけれど。手を伸ばすのもためらわれて、アルロはそっと繋いでいた手を離す。

「——陛下、お目覚めですか」

「あ、待って」

 マリーヴェルを起こさないようにゆっくりとベッドから離れて、アルロはドアへ駆け寄った。

 時計を見ると、朝の9時半。いつもならとうに起きている時間だ。今日は休日だからゆっくり寝かせてくれていたのだろう。

 そっとドアを開くと、ヒューケが立っていた。

「あれ?一体……」

 昨日と同じ服だ。あの後城に泊まったのだろう。

「フォード伯爵の娘が、と聞きました。ご無事ですか」

「あ——」

 そうだ、昨日の事をすっかり忘れていた。地下牢に入れたんだった。

 ああいう事があるといつもならしばらくモヤモヤとするのが、マリーヴェルといたら吹き飛んでしまっていた。

「それで来てくれたんですね」

「帰ろうとしたら、報告を受けましたので」

「休日なのに、すみません」

「それは陛下もでしょう……。私の方で処理しておいてよろしいでしょうか」

 やってくれると言うなら任せよう、と思った。

 マリーヴェルがいる以上、今日はこの部屋から出ることも難しいかもしれない。

 家に黙って出てきて大事に——なっているだろう。間違いなく。どうするのか考えないといけない。正直、伯爵令嬢に構っている暇はない。

「お願いします」

「——陛下?」

 いつもなら部屋に招き入れて話をするのに。いつまでも半開きで、アルロもドアから出ようとしない。

 ヒューケもさすがにおかしいと思い、視線が室内に移動した。それを隠すようにアルロが少し動く。

「……………」

 ヒューケは更に怪しい、と言う顔になってしまった。

「陛下、お召し物が昨日と同じですが」

「宰相も。お疲れ様です。あ……そうだ、令嬢に口止めをしないと……」

「口止め?」

「その……」

 ちら、とドアのところにいる近衛二人を見る。

「我々は、何も見ていません」

 言ってないよ、と言いたいんだろうけれど。それでは何かあると言っているようなものだ。

「陛下?一体どうしたのですか」

「あの……驚かないでほしいんですけど」

 説明するつもりでは、いる。下手をすると国家間の大問題だ。

 ただ……何と言っていいのか。

 それに、マリーヴェルはまだ寝ている。寝起きを他の人間に見せるわけにはいかない。——いや、自分も見ていいのだろうか。

 そう思っていたら、もぞもぞとベッドのシーツが動いた。

「アルロ?おはよう……ふわぁあ」

 マリーヴェルの声は良く通る。

 ヒューケはぎょっとして固まった。

「良く寝た。あんなに休憩なしでずっとって、初めてだったから。体が痛くって。こんなに寝過ごしちゃったわ」

 そりゃあ、慣れない移動で疲れただろう。疲れたのだろうが、その言い方では誤解を招く。

 ヒューケとこの近衛らであれば、余計なことは言わないだろうが……。

「あー、その……」

「陛下……?空耳でしょうか、私の耳に……」

「ちょっと待って。説明するから。ちょっと……」

 アルロは10秒程度、必死で頭を回転させた。

 しばらくの沈黙の後、寝起きの頭で考えて、ヒューケにお願いするしかない、と思い至った。

「——口の堅い侍女を一人、寄こしていただけますか」

 それだけでヒューケには分かったのだろう。顔を真っ青にして同じく数秒、その場に固まった。

新たな試練だアルロ(笑)

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この試練は、耐えごたえがあるよーーー!アルロ!がんばれ(笑)
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