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【12/1書籍②発売】異世界で、夫の愛は重いけど可愛い子どもをほのぼの楽しく育てたい  作者: サイ
外伝 アルロ・ペンシルニア・ブラントネル

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13.

 ファネリアへの帰路の途中で、伝令役の革命軍兵士とちょうど落ち合った。

 ——ブラントネル王国、初代国王ヘルムトが建国を宣言。

 ついに、だ。

「——急ぎましょう」

 報せを聞いたアルロは先を急いだ。

 先に片付けたイカルドの軍隊はまだファネリアへ到着していないだろう。アリアド、そしてその周辺の軍隊も進軍にはまだ時間がかかる。

 戦闘を終えた街をある程度整え、支援物資を配布するにも人手が必要だ。これから徐々に革命軍は首都攻略戦に向けてファネリアへ集中するだろう。しかし、それにはまだ時間がかかる。

 だから、せめて自分達がファネリアへ一刻も早く帰還する必要がある。


 アルロの予感は当たった。

 ファネリアは既に攻撃を受けていた。

 首都からの軍隊を川を挟んだ平原で迎え撃ち、そのまま一晩かけた戦闘になっていた。

 もともと平原においては革命軍の方が優勢だ。士気がまるで違う。アルロらが帰還したことにより、あっという間に王国軍は押し返され、退却の後、再び城門は閉ざされた。

 一先ず決着のついた戦闘の様子を見て、アルロはヘルムトの元へ駆けつけた。

「いやあ……なんだか、逞しくなったね」

 いつもの呑気な声で迎えられて、アルロは少しほっとして肩の力を抜く。

 革命軍の総大将として出陣していたヘルムトは、一人で馬に乗っていた。

「ヘルムトさん、調子は……」

「まだ動けるさ」

 そう言ったヘルムトの顔色は、やはり良くはなかった。

「活躍は聞いてるよ。想像以上にあっという間に片付けちゃって驚いたよ。怪我はないかい?」

「はい」

 ヘルムトは隻眼の眼差しをじっとアルロに向けた。

「ありがとう、本当に」

 そのまま聞いていると馬から降りて頭を下げてしまいそうだったので、アルロはわざと自分の馬首をファネリアへ向けた。

「——とりあえず、街に入りませんか。色々話をしましょうって言ってましたよね」

「ああ」

 アルロとヘルムトは並んで街に戻った。


 そうして街に入り本拠地に戻ってから、アルロらは束の間の休息をとった。

 また熱を出すのではないかと思ったが、ヘルムトはとりあえずベッドの上ではあったが過ごすことができている。アルロはヘルムトとゆっくり話をすることができた。

 ブラントネルの歴史、革命軍の仲間、建国宣言までの話。ヘルムトは話すのがうまいから、話しをするのも楽しかった。

 その後も数日おきに小競り合いのような戦闘は何度か仕掛けられたが、革命軍の方が優勢ですべて押し返している。

 ただ、ヘルムトの出撃しない戦闘は、やはり少し苦戦した。

 出陣する軍団の中にヘルムトの姿があるだけで、兵士らの表情がまるで違うのだ。アルロはこれまで十数年に及ぶヘルムトの積み上げてきたものがいかに大きいのかを実感した。

 しかし、小競り合いでじりじりと我慢比べをしている暇はない。ヘルムトの体力も限界に近かった。

 首都に入る城門は、狭い橋からの一本のみ。後は湖と断崖絶壁の山に囲まれている。アルロの力を使おうにも、もう少し内部の情報が分からないと難しい。


 この日も早朝、首都からの軍隊がファネリアへ進軍を開始した。

 この日はアルロが迎撃に出た。最近何度か迎撃をしているうちに、軍団長の役をこなすようになっていた。

 平原の戦いは単純なぶつかり合いなので、戦闘中に闇の魔力を使う事はなかった。ただ、ひたすら斬り合って、そのうちに相手が去っていく。その繰り返しだ。

 一軍を率いて平原へ打って出る。

 決着はあっという間につき、まだ日が昇り切っていない薄暗い中で、敵兵が退却していった。

 アルロも帰還の合図を送った。——しかし、それに従わず、駆け出す者が、多数。

「どこへ……!」

「いっつもいっつも……これじゃ、埒があかねえ!」

 叫びながら、数十人の集団が退却する軍団を追いかけて行った。

「あの大将だけでもぶっつぶしてやる!」

 確かに、退却している軍団の最後尾に、身なりのいい鎧を着けた騎兵がいた。こちらを確認してから駆けだしていく。目が合ったように思った。

 その様子にアルロは違和感を覚える。

「危険です!」

 アルロは叫んだ。しかし、それによって止まる者はいない。早期に決着がつきすぎて、彼らの体力がまだ有り余っているのだろう。もしかしたら事前に示し合わせていたのかもしれない。

「余所者は黙ってろ!!これは俺達の戦いだ!!」

 兵士がそう叫んで駆け出した。

 そのあまりの剣幕に、アルロは一瞬怯んだ。しかしすぐに思い直す。

「だめだ、戻れ!!」

 警告に叫ぶが、興奮した兵士達を止めるのは簡単ではない。

 馬を走らせて、兵士らの目の前で馬を急に反転させる。馬は驚いて前足を浮かせた。

 体格のいい軍馬である馬に目の前に来られて、しかも立たれたらかなりの威圧感だ。その上この馬はアルロの意図をしっかりと汲んで激しくいななきながら兵士らの前で足踏みをした。

「なっ……」

「何で止める!」

「この軍の指揮をとっているのは僕です。深追いはせず、帰還してください」

「新参者に……何が分かる!」

「時間がねえんだよ、俺達には!」

「子供は黙ってろ!!」

 口々に責められて、罵声を浴びせられる。

 そのあまりの剣幕に気圧されるというよりは、子供じゃないと言われたり子供と言われたりだな、と頭のどこかで却って冷静になる。

 昔は、大人の怒鳴り声が恐ろしいこともあった。けれど今は、恐ろしくない。

 しかし一向に従う気もなさそうで、兵士らはまたアルロの脇から駆け出していた。

 遠のいていた王国兵にまた少しずつ近づいていく。アルロも急いで追いかけた。川を超えたあたりで、いつの間に現れたのか、一つの集団が見える。黒いローブを着たその数人の人影が、ゆっくりと手を上げた。

 アルロは馬の腹を蹴ら加速しながら、慌てて叫んだ。

「——魔術師だ、逃げて——!!」

 進行方向に魔法陣が現れる。さらにその背後に、ずらりと弓を構えた王国兵達が出現した。深追いしすぎた革命軍の兵士らがその魔法陣を踏み、その異常さにようやく気付いたが……もう、遅い。

 このままでは、全滅する。

 アルロは急いで魔力を練り上げた。

 これだけの人数を操るのは初めてだ。しかも一部は魔術師、何秒持つかわからない。

 足元の魔法陣と無数の弓兵に、暴走した兵士らはやっと恐怖に止まった。死を覚悟したのだろう。

 みんな手をかざしたり体を丸めて、目をつぶっていた。

 アルロの闇魔力で敵兵が動きを止め、奇妙で場違いな静寂に、時間が止まったように見える。

「退却しろ、早く!!」

 アルロの余裕のない声が平原に響き渡った。そう叫ぶのが精いっぱいだったが、すぐにベンが駆けつけて、腰を抜かした兵士らを起こして尻を叩いて行った。

 魔力がいくつか跳ね返される。すぐに魔法陣が展開して、その場に爆発が起きた。一瞬の間に何とか逃れ、すんでの所で巻き込まれるものはいなかった。

「ひっ、ひいっ……!」

 悲鳴を上げながら逃げ出す兵士と並走して、アルロもファネリアへ帰還した。爆炎の合間に、何が起きたのかわからず混乱している王国兵らが覗く。しかし、その様子を十分に見る余裕はなかった。

 息も切れ切れになんとか駆け込んだ兵士らを入れて、城門は閉ざされた。王国兵は追いかけては来ない。

「い、一体……」

「今のは……あんたが……」

 不自然に敵兵が固まったのを見て、アルロの黒い目を見て。イカルドの噂は本当だったのかと言うものや、まさか本当に存在したのかと、兵士らはひそひそと話した。

「——無事、ですか……」

「………………」

 アルロが息を乱しながらそう言った。爆発の余波で軽い火傷をしたものはいるが、命に別状はなさそうだ。

 兵士らはすっかり勢いをなくして、その場に両手をついた。

「——も、もうしわけ……ねえ」

 命令違反をしたのに、命まで助けてもらって。立つ瀬がない。先ほどの勢いが嘘のようにみんなしょぼくれていた。

「でも、俺達、このままじゃ……」

「おい……」

「しっ」

 男たちが小突き合って、それ以上は口を開かなかった。

 命令違反は厳重に処罰される。アルロが自分たちの命を握っていることを分かっているのだ。

「——見逃すのは、この一度きりです」

 ようやく息が整って、アルロが静かに言った。

「は……は、い」

「ありがとうございます」

 兵士らは口々にお礼を言って、ちらちらと振り返りながら兵舎へと去っていく。

 その後ろ姿を見送って、アルロは思ったよりは、恐れられてはいないようだと感じた。

 ただ驚いている、という様子だ。

 アルロは馬から降りた。歩き出そうとして、街の入り口まで来ていたヒューケの出迎えに会う。

「——アルロ、けがは」

「ないです。どうかしましたか?」

「いえ、一部……離反したものを見かけたので」

 街から見えていたのだろう。軍律に厳しいヒューケからすると、アルロの判断は規律を乱すと思われるだろうか。

「反省しているようなので……いけませんでしたか」

「軍団長としての判断に、私から何かを言う事はありません。しかし……いいのですか。何を言われたのかはわかりませんが」

 聞こえてはこなかったが、兵士らが従わず、どんな事を言ったのは容易に想像がつく。育ちのいい者達ではないし、アルロはまだここへ来て日が浅い。

 ヒューケはスタンレーからアルロの能力のことを聞いているが、末端の兵士はそんな事も知らない。

 青二才がと、反抗心を抱く者も中にはいるだろう。

「——何を言われたんですか」

「何をと言うよりは……不安の表れというか」

「は……」

 自分に向けられた言葉を、アルロは本当に気にしていないようだ。

「慈悲深いな。心配になる程に」

 アルロは苦笑した。

「慈悲——なんかじゃないです」

 アルロも最近気づいたことだった。

 怒りの裏側には、多くは不安があるのだという事に。そう思うと、自らに向けられた怒りを、別の見方で受け止めることができるようになった。

 ヘルムトの体調は少しずつ悪くなっている。いつ何があっても、明日どうなってもおかしくない状況だ。それなのに戦況は思ったより進んでいない。

 ヘルムトがもし死ねば番狂せだってあり得る。早く決着をつけたい。ヘルムトがいるうちに。

 それが焦りになって、不安を煽っている。そしてその不安が伝播していく。

 あまりよくない雰囲気だ。アルロはそれを俯瞰してみているようだった。

 ヒューケはアルロの印象を改めた。言い返せないのではなく、受け流しているようだった。

「——そろそろ、出て行かなくてはいけませんね」

「はい」

 まだ十分準備が整ったとはいえないが。万全の状態だといえるようになるのは先になる。それを待つことはできない。どこかで踏ん切りをつけなければいけない。

 



 数日後、首都に向けてブラントネル軍は大軍を整え、進軍を開始した。

 首都に集まった貴族らは主戦力を展開しそれを迎え撃つ。平原における大決戦となり、結果革命軍は大勝利を収めた。

 その後も激戦が続いたものの、じりじりと革命軍は首都の街の中まで軍を進めた。

 王城を目の前に、街のほとんどを制圧したのは、アルロの能力によるところが大きい。

 陣頭指揮を執るヘルムトと、その傍らで闇の魔力を駆使するアルロの姿はすっかり定着した。

 アルロの闇の能力が知れ渡り、ブラントネル軍がさらに勢いを得て、さらなる貴族の寝返りも増えた。王城にはわずかな王侯貴族のみが立てこもっている。

 難攻不落と言われた王城陥落までもうあと少しという時。

 ヘルムトの病はついに起き上がれないほど進行した。

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