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【12/1書籍②発売】異世界で、夫の愛は重いけど可愛い子どもをほのぼの楽しく育てたい  作者: サイ
外伝 アルロ・ペンシルニア・ブラントネル

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10. イカルド決着

 イカルドの城門を突破するとすぐ、そこは広大な広場になっていた。

 既ににシャーン国の兵士が武器を抜いて結集している。

 城門から入るなり取り囲まれ、広場はたちまち乱戦場になった。

 激しく金属のぶつかり合う音をさせながら、怒号が飛び交う。

 シャーン国の兵士らはペンシルニア騎士の敵ではなかった。次々に薙ぎ倒されていき、次々に動けなくなった兵士が積みあがって行った。ただ、数の上での圧倒的な差はどうしようもなく、きりがないほどに次から次へとシャーン国兵は出てくる。

 アルロも敵兵と剣を交えながら、視線を巡らせた。振り下ろされた剣を受け止めて、払いのける。

 アルロには身体強化もないから、ただひたすらに会得した剣術を忠実に守るしかない。

 幸いなことに、普段一緒に訓練をしていたエイダンの動きに比べたら、止まって見えるほどに敵兵の動きは緩慢だった。

 ペンシルニア騎士の中では小柄に見えるアルロは標的になりやすかった。取り囲まれて前後から切り付けられる。それをすらりとかわして蹴り飛ばした。自分より大きい人間を蹴り飛ばすためには、どう体を使い、どこを蹴ればいいのか、教わった通りに。

 人を斬るのは、正直少し抵抗があった。それでも、向かって来る敵を一人、また一人と必死で戦っているうちに、いつの間にか剣も動きも、どんどん体に馴染んでくる。

「——こりゃ、たまげた」

 スタンレーも身体強化を使いながら兵士を薙ぎ倒した。

 アルロの事を、頭のいい少年なのだと思っていた。ヘルムトが熱烈に誘う程頭のいい——。だが、この戦いぶりを見れば、その動きは紛れもない訓練を積んだ兵士のもので、文官のものではなかった。細いと思っていたが、無駄のない動きは、鍛え上げられた体躯によるものだと分かる。

「ペンシルニアってのは、みんなそうなのか!」

「どう、いう……ことですか」

「そんなにみんな、強えのかって、聞いてんだ!」

 アルロは左右からの剣を屈んでかわし、そのまま足払いをして目の前の兵士に剣を突き立てた。

「——強いですよ、みんな」

 僕なんかより——そう言いたいが、早くも息が上がって来た。まだ余裕のあるスタンレーに比べると、やっぱりまだまだだなと思う。

 このままではきりがない。ペンシルニアの騎士等も、アルロをある程度気にしながら戦っているから思うようには動けないだろうし。

「スタンレーさん、領主とか、魔術師と、軍の長はどこに……」

「あそこだ!あいつが領主だ」

 スタンレーが指した方向にそれらしい人物が見える。兵の集団を越えた、一番後方だ。

「降伏しろ!」

 一番接近していたベンが、叫んだ。領主との距離も、大声を上げれば聞こえる距離だ。既に3割程度の兵士は失われている。対してペンシルニア側は無傷。街の外には革命軍が陣を張っている。ここまでくれば賢明な指導者であれば、敗戦を悟るだろう。

「既に城門は破られた!投降したものは殺さない!!」

「ならん!死ぬまで戦え!!」

 領主は金切り声に近い声で叫んだ。既に士気は下がるところまで下がっているというのに。

 残念ながら賢明ではない方の領主だったようだ。

「シャーン国領主は馬鹿しかいねえのか」

 ペンシルニアの誰かが吐き捨てるように呟くのが聞こえた。

「退く者は、業火に焼かれるだろう!——見よ!」

 領主の掛け声を合図に、領主のすぐ脇に火柱が上がった。

「うおっ……」

 火柱にスタンレーがぎょっとして身構える。

 シャーン国の兵士らの顔は恐怖にひきつった。逃げ道を塞がれ、果敢に前進する以外は許されない。魔術師の魔法圏内にいる限り、投降しようとした時点で焼かれるのだろう。

 敵にではなく味方を焼くために魔術師がいるようだ。何とも理解し難い戦術である。

 それに対して、ベンはよし、と声を上げた。

「魔術師の場所が分かったな」

「何だ?あの火柱は。つららみてえな火柱だな」

 ペンシルニアの騎士が笑った。

 ソフィアの巨大な火柱を見たことがあると、子どものお遊びのようにも見える火力だ。

「アルロ、どうだ!」

 ベンに呼ばれる前から、アルロは既に魔力を放っていた。アルロを守るように、いつの間にかペンシルニアの騎士が囲んでいる。黒い瞳がきらりと光ったように、スタンレーには見えた。

「——魔術師2名、領主、それから兵に指示を出している魔力持ちの軍団長、全て捉えました」

「とらえ……って」

 いつの間にか、アルロの周りを騎士が守るように囲んでいる。

「しばらく行けそうか?」

「魔術師が……やっぱりちょっと魔力量が多いですね」

 抵抗を感じる。

「よし、そっちは任せろ」

「では、道を開けます」

 言うや否や、魔術師までの道は波が引くように兵士が左右に分かれる。

 その道を2名の騎士が駆け抜けていき、あっという間に魔術師を倒した。

 ——信じられないものを見ている気分だった。

 豪胆で最強と言われるのも分かるペンシルニア騎士の戦いぶりもそうだが。

 なにより、これは。

 見たこともない、おかしなことが起きている。

 スタンレーの勘が、これは危険だと告げていた。とてつもなく、人の枠を超えたような——おそろしいものが味方に付いている。

 そしてそれはきっと、この黒持ちの少年なのだ。

 まさか。——ありえないと思っていたことを、口にせずにはいられなかった。

「アルロ……お前、まさか、魔力が……」

 スタンレーの絞り出したような声に、アルロは振り返って苦笑のようなものを浮かべた。

「闇属性です。——あ、領主を捕らえましたね」

 気が付けば、あっという間にベンが領主を捕縛していた。

「兵士がゼロになるまで戦うように言いそうなので。降伏を宣言させます」

 アルロが言う通り、領主はぼそぼそと何かを呟いていた。領主の側から、兵士が次々に武器を手放していく。

 人をも操るという闇の魔力を、スタンレーは初めて目にした。今まで見てきた闇の魔法は、ヘルムトの使う、獣を操る程度の可愛いものだった。

 機密文書を運ばせたり、鍵を開けさせたり、それでも使い方によっては相当な力だった。とはいえやはり、ただの獣である。

 人を操るというのは……。

 スタンレーはごくりと唾を飲み込んだ。

 これか、ヘルムトの懸念は。

 今、アルロは一体何人の人間を同時に操ったのだろうか。

 その力を前に、まずは圧倒的な戦略に戦慄する。そして味方で良かったと安堵し、次に、もしこれが自分に向けられたらと——。

 慎重に、まずはアルロ自身を見てくれと言った意味がわかったような気がした。

 シャーン国の兵士らが皆、膝をついて恭順の意を示す。

 戦いの終了を告げる笛を鳴らし、全ての城門は完全に開け放たれた。

 (とき)の声も上がらない不思議な雰囲気の中、イカルドの街は降伏した。




 街を攻めるために駐屯していた革命軍は、そのまま合図を受け、イカルド入りを果たした。

 戦いではなく、事後処理のための進軍だ。

 それとほとんど入れ違いに、アルロはシエラリードとアリアドへ向かった。

「ちょっとくらい、体を休めたらどうだ?」

 イカルドの街には、結局ほとんど滞在していない。

 スタンレーの進言にアルロが首を振った。

「皆さん、無傷ですから」

 血を払う程度ですぐに出発できる。食事も移動しながらで十分摂れる。

 それというのも、この革命軍に必要以上にペンシルニアの存在を印象づけたくないからだ。

 このまま数日滞在したら、ペンシルニアの騎士がイカルドを下した——そんな構図が定着してしまう。

「休みなく走り続けるのは、公爵様直伝かー?」

 騎士らはそんな軽口を叩いて快く出発してくれた。疲れ知らずで移動をしてくれるのだから、本当に頼もしい。

 そのまま休憩を挟みながら走り続け、アリアドとシエラリードには夕暮れ前に到着することができた。

 城門もほとんど破壊されて無くなっているイカルドの街と、封鎖された街道を挟んで、大軍がアリアドの街に向かって布陣している。

「これは、なかなか厄介な……」

 ベンが隣でそうこぼした。

 あと一歩で下せるところまでシエラリードは占拠されていた。しかし、そちらに兵を向けた途端、兵力の勝るアリアドから背後を突かれる。

 アリアドはそれほど城壁も堅牢ではないが、小高い丘の上にある街だった。周囲の傾斜が多くて、大軍は動かしづらい。

「アルロ、まさかここでも……」

 スタンレーが問いかける。

 アルロは少し考えた。流石に全敵兵を相手にすることはできないし、二つの街の距離も遠い。

「ここにいる全軍があれば、シエラリードは制圧できますか?」

「そ、そりゃもちろん」

 これだけの軍があれば、かなり被害を抑えられるだろう。

「アリアドの事を、教えてください」

 だったらアリアドは、任せてもらっても大丈夫だ。

 アルロがそう言うのなら、そうなのだろう。スタンレーは複雑な気持ちをとりあえず無視して、今は素直にアルロの助けに乗っかることにした。

 いつもそうだった。スタンレーは流れに身を任せてここまで来た。深く考えるのは性に合わない。この上ない味方を得たのだ。そう思って、頼ることにしよう。

 アルロが何者で、その力が恐ろしいほど桁違いでも。それも含めて、こちらに気運が流れている。ここはこの流れに乗るしかない。何より、この終始穏やかな青年が、何か悪い者のようにはとても思えなかったのだ。

「じゃあ、今夜は1泊して。ゆっくり作戦会議といこうか」

 スタンレーは幕舎の一つに皆を案内した。既に連絡が来ていたのか、宿泊の手筈が整えられている。

 それぞれ馬を預けて鎧を脱いで、ようやく焚き火を囲んで一行は一息ついた。

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