9. イカルド戦
本日、②巻発売です!
皆様いつも、本当にありがとうございます!!
昼過ぎに到着したイカルドの街は既に雪景色に覆われていた。
今はまだ、踏み荒らせば土が露出する程度の積雪だ。もしこれがあと1週間でも遅ければ、雪深くなり手も足も出なかっただろう。凍えるような冷気の風が吹き、地面を踏む度、凍った土がパキッ、と音を鳴らす。
街は高い城壁で囲まれていた。
その街に続く道の少し手前に革命軍は陣を張っている。アルロとペンシルニアの騎士らもそこに並んで、城壁を見上げた。
スタンレーが部下から変わりないという報告を聞いてから、説明をしてくれた。
「俺達が取り囲んで道を占拠し、あっちが籠城を始めたのが、三月前。街の中の敵の数はそこまで多くない。五百ってところだ。ただ……見えるか?城壁の——」
城壁にずらりと並ぶ弩砲の先が、一斉にこちらに向かっている。
「あの道を一歩でも超えると、矢の雨が降ってくる」
「成る程……」
弩砲の矢は手で引く弓矢の屋と違って、鉄や石の矢だ。てこの原理を使って弦を引き、機械の力でそれらを飛ばすから、破壊力がすさまじい。しかも一度に複数の矢を飛ばすことが可能だ。
「雪道に矢の雨。ここは天然の要塞だな」
街道の要所でもあるから、街とはいえ城壁はかなり堅固な造りをしている。
ベンが城壁の高さを見積もりながらそう言う。身体強化その他の魔力を使っても飛び越えられないぎりぎりの高さだという。
「厄介なのは、あの弩砲だけですか?」
アルロは弩砲を見るのも初めてだった。攻城兵器自体、馴染みがない。
「ああ。イカルドは戦力を全てあの弩砲につぎ込んだからな。——あんたは、戦争の経験は——」
スタンレーの問いかけにベンが首を振った。
「攻城戦の経験はない。シャーン国との大戦時は18の若造で、俺は後方支援だった」
9人いる残りの騎士も、同じく、と頷く。
とはいえ、実戦の経験がないわけではない。その後も小競り合いは絶えなかったし、後方支援といっても戦闘が無いわけではなかったが。
シャーンとファンドラグの大戦で、ペンシルニアの多くの騎士は戦死した。そのほとんどが年配の上級騎士ばかりだった。前途有望な若者達を庇ったからだと言われていたし、その意を継いだ今の世代の上級騎士らはペンシルニアへの忠誠心が一層深く揺るぎない。
「そうか……俺もあの時から徴兵されて、駆り出されたんだ。15だったけどな」
どこかで会ってたかもな、とスタンレーは言う。
アルロはじっと聳え立つ城壁を見上げた。城壁の上に立っている兵士の顔まで見えるような気がする。シャーン国の兵士は黄色いマントをつけている。
今日は曇り空で、今にも雪が降りそうだった。
「もう籠城してから三カ月。そろそろ燃料も尽きて来ると思うんだがな」
籠城戦となり、じりじりと根比べになっている。水路を断てれば更にいいが、この雪の地域では難しい。食料も、秋だから蓄えが十分にある。
後は燃料だ。この地域は火がなければ凍死する。
「煙の数は明らかに減ってる」
ただそれも、いざとなれば民家を燃やしてでも燃料に替えるはずだ。
「——ベン卿、どうですか」
「あの弩砲の数は、確かに厄介だな。魔力がこもっていないのなら、俺達でも1日あればつぶせるだろうが」
「魔力持ちは3人はいるはずだ」
「それだと、話が変わってくる」
ベンは弩砲の数を慎重に数えた。味方を振り返りながら、ペンシルニアの騎士らであれこれと相談している。経験のないアルロはじっと聞き役に徹していた。
「——やはり、難しいな、この数では」
ベンは仲間の意見を聞きながら、そう判断した。
そもそも攻城戦というものは本来、攻める側に10倍の兵力が必要とされる。
「アルロ、この距離だとどうだ?」
「少し遠いので、多分短時間しか。5分……とか」
「5分……」
「あちらの精神力や魔力にもよりますが、確実に、となると」
やってみたら1時間でもできるかもしれない。ただ、人数を考えると絶対とは言えない。
「安全を考えるのなら、勿体ないが弩砲はつぶしてしまおう。あれを避けながらじゃ、やはり厳しい」
「弩砲がなければ……?」
「城門が開けば、俺達だけで十分だ」
十分、とベンは言った。無理なく、本当に簡単だというような言い方だった。
それまで黙って聞いていたスタンレーがぎょっとする。
「——俺達ってのは、まさかペンシルニアの方々って意味じゃねえよな。そう聞こえたんだが」
「その通りだ。いい勘をしている」
ベンがそう言いながら装備を整える。剣のベルト、馬具の締まり、鎧の留め具。流れるような、開戦直前の作業だ。他の騎士らも、慣れた仕草で続いた。
「魔力持ちの騎士ってのは……そんなに強いのか」
スタンレーは呆気に取られた。
平民出身者の多い革命軍には、魔力持ちが少ない。自身は土魔力持ちだから、基本的にはいつも一人で突っ走っている。自分がどれくらいの敵を倒せるかが戦略の要で、後は、純粋な白兵戦になる。魔力持ちは軍団長くらい、革命軍の各軍はどこもそんな感じだ。
「弩砲は破壊して構わないか?」
「——あ、ああ、もちろんだ。だが……攻撃を始めたら魔術で防御結界が張られるぞ」
いちいち言わなくても分かってはいるだろうが。
戦闘になれば、結界が作られる。そうなると単純な攻撃はもう届かなくなる。
自分が10人いれば同じことができるかと言われると、とんでもない。とんでもないことをやろうとしているのだ。
「アルロ、どうだ」
ベンの問いかけにアルロも涼しい顔で頷く。
「一度にやれば、大丈夫です」
「さっきから、アルロって……」
騎士でもない非戦闘員のアルロに何を聞いているのか——まさか、いやまさか、と思う。有り得なさ過ぎて、その考えに辿り着く前に打ち消す。
アルロはじっと城壁を見上げていた。
ゆっくりと馬の歩を進め、凝視し続けている。
それ以上行くと危ない、とは誰も止めなかった。ベンが剣を抜いて構え、他の騎士も同様に剣を抜いた。
アルロの行く手は阻まない。ただ、矢が飛んできたら必ず守るとでもいうようにアルロを囲んだ。
「何だ、何で——」
スタンレーが言った、その時だった。
矢は飛んでこなかった。城壁の上から、次々に弩砲が落下する。
巨大な機械が城壁の上から、まるでごみのようにポイポイと落とされていく。高い城壁から落とされた弩砲はものすごい音を立てて次々に地面に当たり大破していった。
スタンレーも、ブラントネル革命軍の兵士達も、突然の敵の奇行に開いた口がふさがらなかった。
自ら、命綱ともいえる武器を手放している。
「——よし、いいな。スムーズだ」
ベンがアルロに、よくやった、と声を掛ける。アルロは真顔のまま頷いた。
弩砲の下には車輪が付いていて、固定を外し、ころころと押せば1分もかからなかった。
「なっ……、な、どう、どうやって」
「説明は後だ。——城門を開けたら一気にいくぞ」
城門を開ける兵器はないから、力業になる。敵が動揺しているうちに攻め、短時間で決着を狙う。
「スタンレー、俺達は行って来るが、貴殿はどうする」
「いっ、行く!」
「よし、行くぞお前ら!」
ベンが掛け声をあげる。
「一人最低25人だ、頭を狙え、いいな!」
——おう——!!
野太い掛け声と共に、一団は一気に駆け抜けた。
泥がはね、地面が揺れる。
一直線に城門へ向かう騎士を、止めるような抵抗は一切なかった。味方の突然の奇行により武器を奪われ、街の中は混乱の中にあるのだろう。
「どうだ、アルロ!」
一応聞いてみるが、アルロは首を振った。
「すみません、どう動けばいいのか、わからないと……」
操作する対象は、見えなくとも気配でなんとか定めることはできる。しかし、城門の開け方がわかっていないと、肝心のどう動かしたら良いのかが分からない。
「構わん、突破する!」
ベンが武器に魔力を込める。
速度を上げて先を駆けたかと思ったら、魔力の込めた剣を大きく振り上げ、そのまま力任せに振り下ろした。
バキッ、バキバキ——————!!
ものすごい音を立てて、城門は破壊された。馬と人が通れるくらいの大穴が開く。その穴からペンシルニアの騎士等は次々に入っていった。アルロもスタンレーもそれに続いた。
アルロ最強説
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皆様のご支援、応援のお蔭様にて、本日無事2巻発売となりました。
子供がたくさん活躍する巻となっておりますので、親戚の皆様にはおゆうぎ会を鑑賞するノリでお楽しみいただけたら嬉しいなと思っております。




