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【12/1書籍②発売】異世界で、夫の愛は重いけど可愛い子どもをほのぼの楽しく育てたい  作者: サイ
第5章

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26.晩餐会

 晩餐会の会場は豪華絢爛な広間だった。ファンドラグとヴェリントの国旗を掲げ、それぞれのカラーを基調にした装飾がされていた。細部までの気遣いが会場に行き届いている。

 シャンデリアに照らされてカトラリーがキラキラと光って眩しかった。

 給仕の者達が、隙のない動きで次々に料理や飲み物を運んでくる。

 それほど大人数ではないので、誰の声でも聞こえる距離だ。

 子供たちが入場したとき、大人たちはすでに会場に座って談笑していた。

 アレックスとソフィアが手をつないで入り、そのまま隣に座った。

 晩餐会が始まる少し前、ソフィアはアレックスを訪ねた。お兄ちゃん代わりになって一緒に晩餐会に参加すると言った。アレックスはソフィアの短くなった髪を見て、何とも言えない顔をしていた。

 顔のこわばりが取れないアレックスにソフィアが首を傾げた。

「似合ってない?」

 アレックスは黙って首を振った。

「——わたし、アレクといっしょにごはんで嬉しい。おとなりだよ?アレクは?」

 にっこりと笑うソフィアに、アレクは随分経ってから、絞り出したような声を出した。

「・・・・・・うれしい」

 その言葉が聞けたから、こうして安心できたかと思ってエイダンらの待つ控室に向かった。アレックスを訪ねていたから知ることのできた今回の計略だった。

 今は、ソフィアは、アルロ大変、と言っていたとは思えないほど普通に座っている。ソフィアはいつもそうだった。大変大変、と言ってエイダンやアルロに委ねたら、あとは結果を見なくても安心して去っていくような。エイダンとアルロに任せれば何とかなると信じて疑っていないようだった。

 一方、ヴェリントの王族らは、短髪のソフィアを見ても特に何も言わなかった。驚く様子もない。

 ——それどころではないのだろうか。別の事に気を取られているから、ソフィアが男の子の格好でも気にならない・・・?

 エイダンはヴェリント王の顔色を窺ったが、ナマズのような顔からは特に何も分からなかった。

 席順は直前で変更した。子供の席をエイダン、アルロ、マリーヴェルの順で座った。

 ライアスが深刻な顔で、エイダンの方に視線をやる。

 予定にない変更に、何事かあったのかと察したようだ。さっと視線を巡らせて会場の警備を確認しているようだった。

 ——違うんです、父上。問題は王本人なんです。

 そう言いたかったが、下手に動いて気取られるわけにはいかなかった。席が遠いのが恨めしい。会場の騎士等に伝言を頼もうかとも思ったが、どこに耳目があるか分からない。

 自ら危険を冒して毒を口に仕込むような国王だ。失敗した際の向こうの動きが分からない以上、一番いい方法はやはりどうしてもあの方法しかないように思えた。

 飲み物が行き渡って、各々がグラスを手に持つ。

「ヴェリント王、この度はわざわざのご来訪、感謝申し上げる」

 オルティメティがまず一番に声を上げた。

 ヴェリント国はファンドラグに比べると小さいし歴史も浅い。ただ、その鉄の産出量は各国随一で、それによって強固な国力を保ってきた国だ。シャーン国との戦争の時も、国としては無視を決め込んだが、ちゃっかり流通の面では鉄は売ってきた国でもある。

 大柄で年配な国王だった。オルティメティの父親と言ってもいいほど年上だ。

「こちらこそ、あたたかい歓待の数々、ありがとうございます。今日はこうしてお子様たちにもお会いできてうれしく思います」

 表向きは友好的。じろりと見られて、子供達は何となく気持ちの悪さを覚えた。

 ヴェリント王に続いて王妃もグラスを掲げる。

「本当に。素晴らしいおもてなしですわ」

 王妃は知っているのか。優雅に微笑む様子からは何も分からない。

 夫が毒を飲もうとしているのに平然としているのだとしたら、それも恐ろしい話だ。

「——めっちゃ見てくるなあの子」

 エイダンがぼそりとアルロにだけ聞こえるような小声でつぶやく。

 ヴェリントの姫はエイダンの二つ下と言っていたから、今十二くらいだろうか。両親譲りの暗い茶色の髪をしっかりと巻き、厚めの化粧をして、顔は白いし唇は赤い。グラスにべったりと口紅がつきそうだ。

 ヴェリントは子供のうちから化粧をするのだろうか。

「そういえば縁談が来ていたと言われていましたね」

「勝手にね。家臣がね。速攻断ってるからそれ」

 仲の良い者同士、談笑しているように軽口を言い合う、ように見えているはずだ。エイダンは笑顔のまま聞いた。

「——そんな事より、アルロ、大丈夫そう?」

「はい。使う分には。後は相手次第ですね」

 作戦は単純だ。アルロがヴェリントの王を操って、この晩餐会を何事もなく終わらせる。

 相手の魔力量が少ないことを願うしかない。

 エイダンは咳をするようなしぐさで、口元を押さえた。

「失敗しても、父上と僕でどうとでもするから」

 いざとなったら——どうするかは考えてない。考えていないが、治癒の力でどうにかしてあとは、まあライアスがうまい事やるだろうと思う。

 アルロは苦笑した。

「心強いです」

「あ、その言い方、思ってないでしょ」

「——では、乾杯を」

 オルティメティが発した言葉を合図とするように、アルロの黒い瞳がきらりと光った。

 す、と唐突に、ヴェリント王が手を挙げた。コトリとグラスを置く。王妃も同じくグラスを置いた。

 どうしたのかとオルティメティが止まる。

 ヴェリント王の目は虚ろに空を見つめていた。しかし人形のように首を回し、王妃の方を向く。

「——王妃すまない歯に何か挟まったようだ。取ってくれるか」

「はい陛下」

 二人のセリフはやや棒読みだった。覇気がない。

 オルティメティとイエナ、ライアスとシンシアがそれぞれ顔を見合わせた。それぞれ、もしかしたらもう察しているかもしれない。

 ヴェリント王が王妃の前で大きな口を開けた。王妃が虚ろな瞳のまま、躊躇いもなく王の口の中に手を入れる。

 異様な光景だった。

 会場の給仕の者も騎士等も、突然の王の奇行に呆気に取られている。晩餐会上で、無作法どころではない。もはや暴挙だ。

 無表情を装っていた給仕の者達はさすがだろう。王国騎士らは、うへえ、という顔をしていた。

「とれましたわ陛下」

 王妃の手はべっとりと唾液にまみれている。奥歯から黒くて丸い小さな玉のような物を取り出したようだ。おそらく、噛むことで出て来るのだろう。

「ありがとう——君。捨てておいてくれるかい」

 ヴェリント王が虚ろな目のまま、王国騎士へ声をかける。すかさずヴェリントの兵士が受け取ろうと一歩踏み出した。

「わたくしが——」

「いえ、客人にそのようなことはさせられません。——おい」

 ライアスが有無を言わせぬ口調でそれを遮り、会場に控える騎士に指示をした。

 指で合図をしている。王国騎士団だけで使われている、調べろ、の合図だ。騎士等ははっとして、王妃からその丸薬のようなものを布で受け取った。

 とりあえず、少しほっとしてエイダンは肩の力が抜けた。

 とにかく毒は取り除いた。このまま、アルロの力が跳ね返されるまで操作する作戦だ。跳ね返された後戦闘になったとしてもいいように心構えだけはしておこうと思う。

 ヴェリント側の兵士は五人。エイダンはその者達が変な動きをしないか見張りつつ、オルティメティを見て頷いて見せた。

 オルティメティが気を取り直し、乾杯の挨拶をして、晩餐会は異様な雰囲気のまま進められた。



 和気あいあいとしていたのはソフィアとアレックスだけだった。

 アレックスはソフィアと談笑しながら、挨拶もきちんとできて、ご機嫌で過ごしている。

 操作されていても記憶には残るから、ヴェリント王家には一応、アレックスの勇姿を見せることができた。

「——アルロ、大丈夫?」

 前菜が終わってもまだ国王夫妻が虚ろな瞳なのを見て、エイダンはそっとアルロに声を掛けた。

 アルロは前菜をぺろりと食べ終わっていた。

「はい。どうやら魔力は多くないようです。抵抗がほとんど感じられません」

 闇の魔力を使いながらも、アルロ自身はマナー良く食事を食べる余裕まであるらしい。

「この感じだと、全員でも行けるかもしれません」

 ヴェリント側はやや混乱しながらも特に目立った動きはない。肝心の国王夫妻が何事もなく食べているから、動きようがないのかもしれない。

「すごいじゃん」

「でも、喋らせるって言うのは・・・難しかったです。違和感がありましたよね」

 考えてみれば、人間を使って操作の練習はしたことがなかった。

「そうだね。棒読みだったね」

「そちらの方は、アルロっておっしゃるのね」

 声をかけてきたのは向かいに座っているヴェリントの姫だった。両親の様子がおかしいというのに、ヴェリントの姫はエイダンとアルロに興味津々だった。しきりに話しかけてくる。

「ペンシルニアに後見に立たれるなんて、とっても優秀なのね。——ねえ、留学とか、興味ないかしら」

「ないわね」

 アルロが返事をするまでもなく、マリーヴェルがバッサリと切り捨てる。

「あ・・・貴方に聞いていないわ」

「アルロは私の侍従でもあるから、話したければ私の許可がいるの」

「——じゃあ、アルロと話したいわ」

「駄目よ」

「まあ・・・!」

 ヴェリントの姫は怒りを隠そうともせず、マリーヴェルを睨みつけた。マリーヴェルは全く気にならないようだった。

 次に運ばれてきたスープを優雅に飲んでいる。

「アルロの行動を制限して、貴方は良い主人とは言えないわ。アルロが可哀想」

「仰っている意味が分からないわね。アルロは私が主人で喜んでるわ。ね。アルロ」

「はい、姫様」

「まあ・・・!」

 姫の持っていたカトラリーがぎぎ、と不快な音を立てる。

「貴方、失礼じゃなくって?私の方が年上なのに」

「ペンシルニアで学べる以上のものがヴェリントにあるって言うの?留学ってそういう事よね。具体的に何を学びに行けばいいのか、説明していただけるのならアルロも考えると思うわ」

「そ・・・れは、色々よ」

「話にならないわ」

 ふん、とマリーヴェルは鼻で笑って、この話は終わりになった。

 アルロは今忙しいのだから。これ以上煩わせるものですか、という気持ちだった。

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― 新着の感想 ―
アルロの能力が飛躍的に上がってる? スゴ過ぎるし、無敵なのでは!? マリーのお口の戦いも無敵笑
絶大なる信頼!これが1番のペンシルニアの強み!それぞれが信頼しあっているからこその連携と失敗を恐れぬ作戦!アルロがこれで一歩前進出来ますように!
ep150ありがとうございます!&おめでとうございます!(^o^) 丁寧な子供たちの成長物語ホントに毎日楽しく癒されてます。 エイダン、マリーヴェル、ソフィーたちやアルロ、アレックスの成長も楽しみです…
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