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【8/1書籍①発売】異世界で、夫の愛は重いけど可愛い子どもをほのぼの楽しく育てたい  作者: サイ
第5章

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2.王国騎士団

 その日の午後、敷地の紅葉が美しく色づいているのを見て、子供達はピクニックに出かけた。

 屋敷と繋がっている公園だ。

 湖があり、小さな林があり、開けた草原もある。

 自然を残したままの場所だ。

 腰ほどの背丈の木々が、オレンジ色に辺りを染めている。遠くには真っ赤に色づいた紅葉が湖面に映り、鮮やかな景色を作り出していた。

 エイダンもアルロもいるし敷地内なので特に護衛も連れず四人だけ。

 敷布を広げた上に座って新鮮な空気を吸いつつ、それぞれ思い思いに過ごす。

 お茶を飲んだり、お菓子を食べたり。

 エイダンとアルロは、先程までどちらがより高い所の紅葉を取れるかで競って跳んでいた。そのうち取った葉っぱの美しさまで判定基準になり、更に勝負は白熱した。今は二人とも疲れ果てて寝転んでいる。

 マリーヴェルとソフィアは髪を結い合って遊びながら、二人が取ってきた紅葉を髪に編み込んでいた。

「っいた、いたいわ」

「はーい、いたくないー」

 ソフィアはまだそこまで器用ではないので、マリーヴェルの髪を三つ編みにするだけでグイグイと引っ張られる。

「痛いから言ってるの!もう、凝らなくていいから、早く代わって」

「はいはい、わかったよ」

 ソフィアは不満そうに言いながらマリーヴェルの髪を三つ編みにするだけで留めて終わった。紅葉と木の実を差し込んでいく。

「はーい、おわり」

「じゃあ交代ね」

 マリーヴェルがソフィアの背後に回り、金の髪を編み込んでいく。

 ソフィアの髪は最近、肩より下まで伸びている。マリーヴェルは器用にまとめていった。

「——はい、できた」

「はやぁい」

 ソフィアがそっと触ると、きっちりと結い上げられた髪と飾りが手に触れる。

「すごい。パーティーに行く時の、お母様みたい!ねえ——」

 エイダンらに見てもらおうとソフィは振り返った。

「あれ。寝ちゃってる・・・」

 エイダンとアルロは仲良く並んで寝ていた。

「ねえ——」

「しっ・・・」

 マリーヴェルはソフィアの口元を押さえた。

「寝かせてあげましょ」

「ええー、つまんなぁい」

「いいじゃない。気持ちいい風が吹いてるんだから一緒に寝ましょうよ」

 マリーヴェルもごろりと横になった。ソフィアも渋々横になる。

「うわあ、空がたかーい」

「ほんと。秋って感じ」

 少し風が涼しいかと思っていたら、ソフィアが荷物の中から毛布を出してくる。

 エイダンとアルロに掛けてあげても、二人とも目を覚まさなかった。

「すごい、ねてるね」

「ええ。二人して、珍しいわね」

 エイダンについては別に心配することもないが、アルロが疲れているようだと心配になる。

「せっかくかみの毛したのに、くずれちゃうよ」

「お兄様に額を乗せて寝れば?」

 適当に言っただけだったが、ソフィアは本当にエイダンの腕の中に潜り込み、エイダンの上半身に頭を乗せるようにして居場所を探していた。やがて落ち着いて、暇だなーと呟きながらじっとしている。

 マリーヴェルも久しぶりのゆったりとした心地良い時間に、アルロの貴重な寝顔を堪能しようと横に寝転んだ。

 まつ毛が黒いと、目を閉じたらこんなふうなんだ・・・。

 肌が白いから、黒い髪がよく映えるんだ。

 寝てても綺麗な顔。

 絵に残しておきたい、と思いながらマリーヴェルはずっとアルロを見ていた。



「うわっ、寝てた」

 エイダンの声にパチリと目を覚ます。

 目の前にアルロの顔があって、お互い同時に目覚め、間近で目が合う。

 アルロが慌てて体を起こした。マリーヴェルも起き上がって辺りを見渡す。もう空が赤く染まっていた。

 アルロの顔も少し赤いように思えた。マリーヴェルも、ずっと顔を見てるつもりだったのに寝てしまうなんて。

 大丈夫だっただろうか。よだれとか、色々気になってしまう。

「ソフィー、起きて」

 エイダンがソフィアを揺するが、ソフィアは起きなかった。

「遅くなっちゃった。今何時?」

「16時です」

 アルロの返答に、エイダンは慌ててソフィアを抱き上げた。

 一時間くらい寝ていたらしい。

「まずい。タンと約束してたのに」

 エイダンが片手でソフィアを抱き上げつつ荷物を片付けはじめた。

「あ、やっておきます」

「え、いいの?ありがとう。じゃあ先に帰ってるね。アルロ、大丈夫?」

「はい」

「ごめん、片付けも!じゃあまた明日」

 エイダンはそう言って慌ててソフィアを抱いたまま帰って行ってしまった。

 アルロが手際よく毛布を畳んでいく。マリーヴェルもそれを手伝った。

 図らずも、二人っきりになってしまえた。マリーヴェルは得したような気分だった。

 屋敷が目と鼻の先とはいえ、マリーヴェルを任せて先に帰ったのは、それくらいエイダンがアルロのことを信頼しているからだ。

 実際、アルロの剣術は上達しているし、本格的に教育も始まって、屋敷の中でもアルロの位置はペンシルニアが後見に立つ将来有望な若者、となっていた。

 いつもは厳重な警備かエイダンと一緒かだったから、マリーヴェルが外でアルロと二人きりになるというのも、実は初めてかもしれない。

 荷物を片手に抱えて、アルロはマリーヴェルに右手を差し出した。

「姫様、暗くなってきましたので手を」

 マリーヴェルは大喜びで手を繋いだ。

 いつもよりゆっくりめに歩いたが、アルロは急かすこともなく、マリーヴェルに合わせてゆっくり歩いてくれた。




 ペンシルニア一家の夕食の時間は、それぞれ食事が終わると大体いつも子供達が先にダイニングを出て行く。ライアスとシンシアはその後ゆっくりお茶を飲んでから部屋へ帰っていくのだが、この日はエイダンが残っていた。

 食べ終わってはいるのに残っているから、何か話があるのだろうかと思い、シンシアは待った。

「王国騎士団に入ろうと思うんです」

 エイダンは世間話の延長のように、唐突にそう言った。

 ライアスは少し予想していたようだったが、シンシアは思ってもいなかった。驚いてティーカップがカチャリと音を立てる。

「——何に、入るですって?」

「王国騎士団。父上が団長の」

「騎士団は、15歳からじゃないの・・・?」

 入団となると通常は15くらいで従騎士として先輩騎士の元で訓練、その他様々なことを学び、18でようやく一人前の騎士となる。

「15まで待っていたら、僕は忙しくなると思うから」

 今のエイダンは後継者教育が早めに終わったものの、実務を任せるにはまだ若い。もう少し遊んでいなさいという事で、ペンシルニアの仕事は見学に毛が生えた程度。今が一番余裕がある時期と言えなくはない。

「あとほら、ティティ叔父上に会う度に誘われるくらいだから、別に15まで待たなくていいかなって」

 確かにオルティメティは挨拶代わりのように、いつ入るんだ、と聞いてくる。

 もうすぐ14になるとはいえ・・・体も大きくなっているとはいえ。

 シンシアはさほど驚いた様子でもないライアスを見た。

「貴方は、知っていたの?」

「最近よく王国騎士団について聞いてくるなとは、思ってました」

「エイダン、貴方って本当に・・・ゆっくりするってことがないのね」

「貴方の息子ですからね」

 ライアスが何食わぬ顔でそう言った。

 そんなに働き者のつもりはないんだけれど。前世からの習慣だろうか。じっとしていると落ち着かないのは。

 まあ、確かにペンシルニア騎士団で既に実力もあるエイダンが、王国騎士団でも難なくやっていけるだろうことは想像できるけれど。

「でも、心配だわ。周りは年上ばかりで・・・」

「母上。ペンシルニアでも僕が一番年下です」

「ペンシルニアじゃダメなの?」

 エイダンはある程度シンシアがすぐには賛成しないことを予想していたのだろう。苦笑を浮かべながらも説明した。

「ほら、今回、僕——ワイバーンを倒した時、ギリギリだったから。もっと父上のように強くなりたくて」

「王国騎士団よりペンシルニアの方が強いと思うけど・・・」

 個々の力も、全体の力もペンシルニアが上だ。毎年開かれる武術大会も、上位数名はいつもペンシルニアで占められている。

「別の騎士団で経験を積むというのは、間違いなくエイダンの力にはなるだろう。——それに、鍛えられるのは剣術だけではありませんし」

 色々な人と出会い、切磋琢磨することも。

 ライアスの言いたいことはわかる。

 シンシアは少し考え込んだ。

 特に反対する理由はないのだ。通常より少し早いくらいというだけで、ペンシルニアの者なら王国騎士団にもいずれは籍を置かねばならない。

「そう——そうよね。ただ・・・すごく寂しいわ」

「母上。王宮はここから馬車で15分でしょ?朝出かけて夜帰ってくるだけだよ」

「でも、夜勤とかあるのよ。子供は、夜は寝ないと」

 シンシアは心底心配そうな顔でエイダンを見つめた。少し前に身長も越されてしまったが、まだ自分の中では小さな子供だと思っていたのに。

「身内と違って、他の家門の貴族はクセの強い人も多いじゃない?エイダン、素直なところがあるから・・・」

「母上」

 エイダンが困ったような顔になって、シンシアがハッとした。

「ごめんなさい。わかっているの。言ってみただけ。あー・・・こういうこと言うとダメなのよね」

 思春期の男子にしてはいけない事だ。

 でも、どうしても心配の方が先に立ってしまって、口をついて出てしまった。

「あなたならどこへ行ってもやっていけるわ」

「母上・・・若干棒読みですね」

 エイダンの鋭い指摘に、シンシアはあたふたと動揺した。

 その様子を見てエイダンがおかしそうに笑う。

 そんな風に余裕な様子を見たら、もう、力が抜けるような。心配しているのはシンシアただ一人らしい。

 シンシアは両手を挙げた。

「ちょっと、突然だったんだもの・・・わかってるのよ、エイダンは強いし、もうすっかり大きくなったって。ただね、どうしてもね・・・」

「父上はどう思いますか」

「いいんじゃないか。少し早い気はするが、何か、解決したいことがあるんだろう」

 エイダンは話すかどうか、少し迷ってから口を開いた。

「その・・・心を鍛えたくて」

「あなた十分強いと思うけど」

 真面目すぎて融通が効かないところはあるが、順調に強くなって敵なしでここまできているから、結構自分に自信はあるし、シンシアから見ても十分強いと思っていた。

「その・・・何というか」

 エイダンが困ったように頬を掻いた。

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