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【8/1書籍①発売】異世界で、夫の愛は重いけど可愛い子どもをほのぼの楽しく育てたい  作者: サイ
第4章

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番外編3 エイダンの光の力

エイダンもうすぐ10歳の頃です

 この年の冬は寒く、まだ12月に入ったところだというのに、雪が積もって湖に氷が張った。

 子供たちが雪遊びをしたいというので、この日は家族そろって湖まで遊びに来た。

 寒いから大丈夫かと心配していたけれど、敷物の上に魔道具を置いてカバーをかけて、こたつのようなものを設置してある。ぬくぬくとそこに入りつつ子供たちを見守ることができるというわけだ。

 ライアスの腕の中でソフィアは温かそうに眠っている。

 シンシアはこたつもどきから、氷の上で楽しそうに遊ぶエイダンとマリーヴェルを見つめていた。

「ねえ、ライアス・・・エイダンの、あの瞳」

 もうすぐエイダンは10歳になる。これまでミルクティーのような淡い茶色だったのが、色は次第に黄色が強くなって、今では茶色というには輝きすぎている色になっていた。

 陽の光の下で、エイダンは氷の上で寝転がってマリーヴェルを持ち上げていた。背中で氷を滑って、きゃっきゃという甲高い笑い声が周囲に響いて、大人たちの顔を綻ばせている。

 太陽の光が上からも氷からも反射して照らされた瞳が特に輝いて見えて、シンシアはふと隣のライアスに視線を移した。

「金に・・・見えませんか」

 ライアスはじっとシンシアの瞳を見つめる。

「貴方の色とは随分違いますが・・・そうですね、金と、言えなくはないですね」

 シンシアとマリーヴェルの瞳は薄いライトゴールドだが、エイダンは光り輝く濃い色だ。

「こうしてみると、茶色と金色って似てるんですね」

 こんな風に色が変わっていくなんて。毎日見ているから気づかなかった。

「・・・まあ、瞳の色と魔力というのは絶対ではありませんが・・・」

 実際、土属性なのに黄色だったり、紫だったりの者もいる。黒はいないが、一定数の人の瞳の色は魔力とは一致していない。

 途中で属性が変わることは滅多にないし、二属性なのも珍しい。そもそも光の属性はそうそう生まれるものではない。

 まさか、という気持ちでライアスは答えたが、シンシアは浮かない顔のままだった。

「エイダンはきっと光の力を発現します」

「・・・・・・」

 ライアスは少し驚いたようだった。

 確信を持ってシンシアが呟いたから。

「なぜ、そう思うのですか」

「あ、えっと・・・勘です」

 シンシアの顔は晴れなかった。

 小説では、エイダンは15で光の力を発現する。そして魔王の討伐へ駆り出される。——なぜ、5年も早まったのだろうか。

「二属性というのは、なにか条件のようなものがあるんでしょうか」

「条件ですか?」

 言われてライアスは唯一知っている、二属性持ちの人物の顔を思い浮かべた。

「そうですね・・・知り合いに一人だけいますが、やはり魔力量は膨大ですね」

「瞳の色も変わるんでしょうか」

「どうでしょう。彼はオッドアイなので。幼少期どうだったかは、聞いたことがないですね。魔力測定の針は測定不能なほど振り切れているらしいです」

「エイダンはそこまでではないわね」

 八歳の測定時、通常よりはかなり多い方だったが、振り切れはしなかった。

「——魔力は、健全な精神によって育まれると言われています」

「健全な・・・」

「そうでなくても、魔力は通常、十歳くらいである程度落ち着くものですから」

 時期的には今くらいで固定されるものだ。

「そう・・・」

 確かに、シンシアも治癒の力を扱うのに十を過ぎてからぐっと扱いやすくなった。

 心とつながりが深いというのは、わかるような気がする。

 小説の中では虐げられたせいでその発現が遅れただけで、のびのびと育てられたエイダンが通常の時期として光も現れたという事だろうか。

「光の力はとても希少で、生まれづらいものと聞いていましたから。マリーもエイダンもというのは、考えていませんでした」

 シンシアが言ったことをライアスは考えてもいなかったようだ。確かに、今まで光の魔力は一代に一人の希少さだった。

「学園もあと半年くらいかというところで・・・魔力の授業もどんどん本格的になっていきますよね」

「そうですね。実技が増えてくるでしょう」

 今このタイミングでエイダンに光の力があることが知られたら——。シンシアは無邪気に遊ぶ子供たちを見た。

 マリーヴェルの魔力はまだ発現していないし、その兆しもない。

 ライアスも健在で、戦争もなく平和な日々。

 それでも、シンシアは光の魔力を有して生まれた自分が、城から出ることができず不自由に暮らしていたことを考える。結果的に幸せな結婚生活だが、何かあれば真っ先に価値ある商品として渡される存在。マリーヴェルでも、たったの2歳で、魔力があるかどうかもわからないのにさらわれた。

「一度・・・確かめてみます」

 氷の上を滑る子供たちを、シンシアはじっと見つめていた。




 それから数日して、シンシアはエイダンの部屋を訪れた。

「エイダン、貴方、もしかして土属性じゃない力を感じてるんじゃない?」

「はい」

 あまりにもあっさりと返事をされてシンシアは少し止まる。

「——何で言わなかったの」

「土しか使わないから、まあいいかなって」

 軽い。

「使っては、ないの?」

「はい。あるのはわかりますが」

「じゃあ・・・ちょっと練習してみる?」

「うーん、いや、別にいいかな」

 あっさりと言われる。関心がなさそうだ。

「騎士には怪我が付き物なんだし・・・怪我をした時に使えた方がいいんじゃない?ちょっと母上と一緒に、やってみない?訓練」

 どうせなら、使えるようになっていた方がいいだろう。訓練しつつどの程度扱えるのかも見ておきたい。

 エイダンはシンシアを見つめて、それから少し考えるように上の方に目を向けた。

「・・・でも、母上、一人治すだけでぐったりしてますよね」

 それは、シンシアの魔力量があまり大きくないからだ。

「素晴らしい力だとは思いますが。——僕はもっと強くなりたいんです。父上のような騎士になりたい」

「それは知ってるけど・・・」

「だから、光はちょっと違うんですよね」

 そんな。光の魔力を、好みじゃないみたいな言い方をして。

 シンシアは軽くショックを受けた。

 エイダンは時々こだわりを見せることがある。思い描いた姿があって、そこへは一直線努力を重ねるし真面目に取り組むのだが。

「まあね・・・私も、光の魔力があるって知られるのは、どうかなって思うんだけど」

「どうかなって?」

「うん・・・貴重な力には、それぞれしがらみがついてくるというか」

 まだ十歳になろうというエイダンにこの話は難しいかと思ったが、エイダンはそれを聞いて少し考えているようだった。

「僕、不思議なんですけど。光の魔力って何でそんなに貴重だって言われてるんでしょうか。水の魔力だって治癒はできますし・・・結局魔力によるものだから万能でもないのに」

「そうねえ・・・歴史かしら。ほら、光の魔力が王族の祖先で、魔王を倒した勇者と言われているから」

「御伽話ですよね。だって光では、敵は倒せません」

「まあ、そうね」

 光の魔力は攻撃力はゼロだから。魔力をぶつけたって何にも起こらない。

 とにかく敵を倒せる、土の魔力が好きなんだな。それはひしひしと伝わってきた。

 世間の声に流されることなく、自分の好きなものを貫けるのは良いことだと思う。

「それに僕、これ以上騒がしくなるのは・・・」

 確かに、ただでさえ魔力量も多くて王位継承権も持つ公爵家の後継者ということで、学園でも息つく暇もないほど人が群がっているらしいというのは聞いている。贅沢な悩みといえばそれまでだが、これ以上脚光を浴びたくないと思うのも無理はない。おそらくその懸念は正しいだろう。

 ただ、光の魔力があるというのに、そのまま放ってはおけなかった。

「貴方が、ものすごく騎士の仕事に憧れていて、身体強化できる土の魔力が大好きなのもわかったわ」

「はい」

「でも、持っている力の使い方は知っておいた方がいいと思うの。だから、基本だけはちょっと教えさせて」

「まあ、はい。母上がそう言うなら」

 気は進まないが、という様子だ。

 エイダンが納得してくれたので、この日から数日かけてシンシアはエイダンに治癒術のやり方を教えた。

 エイダンは、とにかく勘がいい。土の具現も難なくやっていた時から魔力操作に長けていたが、要点を伝えるとスラスラとできてしまった。

「——エイダン、貴方天才かもしれないわ」

「ははは、親の欲目じゃないですか」

 そう言ってエイダンは笑ったが、久しぶりに母親から褒められるのもまんざらではなさそうだった。

 そうこうしているうちに、エイダンは傷の治療もあっという間にマスターして、訓練は終わった。




 数日後、ペンシルニアの騎士訓練所。

 訓練は魔力ありでの訓練の日だった。

 通常の訓練と違って威力も段違いに増すため、怪我をすることも多い。

 実戦形式で、時折それぞれ魔力を使いながら対戦して打ち合う。色々と危険もあるので団長副団長、更にはライアスも加わっての訓練となる。

「——坊ちゃんの相手、俺ですかい」

「そうみたい。よろしく」

 エイダンのこの日の相手はゲオルグだった。

 ゲオルグは同じく土魔力の使い手だ。

 かなりの実力者で、百戦錬磨の騎士らしく、いろんな手を使ってくる。思いもよらない手を打たれて苦戦を強いられる、エイダンにとっては苦手な相手だ。

 今日もエイダンの苦手な場所をついてくるし、持久力がないのをわかっていて引き延ばしてくる。

 何度も剣を打ち合わせて、早くも息が切れてきた。

 ジリジリとかわされると、エイダンの悪い癖が出てくる。

 さっさとケリをつけたくなって、大ぶりに剣を掲げた。

「隙あり!」

 ゲオルグがエイダンの脇に剣を突き出してくる。

 身体強化し素早さを凝縮したような動きに、交わしきれない、そう思い、エイダンは咄嗟に魔力で土の壁を——作ろうと思ったのに、間違えて光で魔力を練ってしまった。

 あたりを眩しい光が包み、驚いたゲオルグの額にエイダンの剣が素早く斬りつけた。咄嗟にそれを腕で受け止めて、軽く切り傷を作る。

「そこまで!」

 ライアスの制止の声がして、二人は距離をとって止まった。

「ぼっちゃ・・・今の」

「あぁっ、ついやっちゃった」

 だから嫌だったんだよ、とエイダンが呟く。

「切り替え間違っちゃう」

 スイッチを切り替えるように、光と土を使い分けるはずが、咄嗟の時に使いやすい方をつい出してしまう。

 もっと慣れていけば間違うことはないだろうが、ここ数日は光を練り上げることを続けていたせいで、間違えてしまった。

「そんなもんですか。って・・・坊ちゃん、光も使えたんですね」

「そう・・・なんだけど、それは置いといて」

 エイダンはゲオルグの腕から流れる血を見た。

「ごめんね、なんか不意打ちみたいにしちゃって」

「いや、新鮮でした。眩しくて」

「本当・・・眩しいだけなんだよね」

 はあ、とエイダンが悩まし気なため息をついた。

 もう少し戦闘に活かせるのなら、もう少しこの光の力も役に立つのに、と。

 ただ、眩しいだけ。

 自分の理想からはかけ離れた戦い方に、納得がいかないらしい。ゲオルグは苦笑した。

「貴重な光の力をそんな風に言うのは、坊ちゃんくらいなもんですよ」

「僕は騎士になりたいんだ」

「いいじゃないですか、治療もできる騎士になれば」

 ゲオルグがエイダンに付けられた切り傷を目の前にかざした。

「俺の傷、治してくださいよ、治療騎士様」

 揶揄われていると思ったのか、エイダンはムッとした顔をした。

「ぜっっっったい、しない!」

 どうやら「治療騎士」という名前がかなり気に入らないようだ。

「僕は!かっこいい騎士になるんだから」

 ふん、と吐き捨ててエイダンは訓練所を出て行ってしまった。

「あれま・・・怒っちまった」

 それでもまだ九歳の、可愛い後ろ姿につい笑みが溢れる。ゲオルグはついついエイダンを揶揄いがちだった。やりすぎると拗ねてしまうので、この治療騎士という言葉は禁句になりそうだ。

「光の発現、おめでとうございます」

 傍らのライアスに言えば、ライアスは腕を組んだまま周囲を見回した。

 少なからず騎士らは光の魔力に驚いているようだった。それでも貴重な魔力の発現に、さらなるペンシルニアの繁栄を思い喜ばしい雰囲気になっている。

「——エイダンが光の魔力持ちなのは、特に公表しないつもりだ」

 ライアスの重い口調に周囲は顔を見合わせた。

「そんなに警戒しなくても、エイダン様は十分ご自分の身が守れると思いますが」

 ダンカーが不思議そうに尋ねた。ライアスの言葉を騎士らはじっと聞いていた。ライアスが言うなというなら、誰一人口外しないだろう。

「力を持ちすぎる」

「ペンシルニアが、ですか」

「何事にも、バランスというものがあるからな」

 王家と、ペンシルニア。それから、エイダンとマリーヴェル。

「いずれ、その力がエイダンの力になるかもしれない。しかしそれとは逆に、思いもよらない結果に引きずられることもあるかもしれない」

「・・・なるほど」

 光の力というのは、九歳の子供には大きすぎる荷物になるのだろうか。

 その場にいた全員が、子供たちの屈託のない笑顔を思い出した。

 ペンシルニアが待ち望んだ光の魔力ではあるが、それ以前にこの一家に影を落とすことのないよう守りたいというのが第一にある。

 この日以降もエイダンが光の力を見せることはあったが、それに触れるものはいなかった。見てみぬふりをしつつ、成長を見守る——ライアスとシンシアの意向が反映され、エイダンが光の魔力持ちであると公表されることはなかった。

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― 新着の感想 ―
エイダンの光の力発現にまつわる、緻密で、丁寧な心理描写を伴うエピソードがあまりに素晴らしく、何回も読み返して感動しています♥️
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