序
ご覧いただきありがとうございます。
見慣れない番号からかかってきた電話。
軽い気持ちで通話ボタンを押したら、2週間前に受けた人間ドックのセンターだった。
「検査結果を、必ず、そのままにしないでくださいね」
念を押され、再検査するように言われて。最近は人間ドックも随分と手厚いんだなあ、なんて思って。
「——ステージⅢです」
クリニックからさらに紹介された大病院の医師が言った。
殴られたような衝撃だった。
「え・・・先生、私、死ぬかもしれないんですか」
必死で聞いた。
難しい話は色々聞いたけど、そんなのは横に置いといて。
知りたいのはそれだけだった。
「子供が3人いるんです。下の子はまだ3歳なんです。まだ死ぬわけにいかないんです」
——最善を尽くします。
その言葉通り、医師は最善を尽くしてくれた。
私は4度の手術を繰り返し、5年の闘病の後、体はぼろぼろになって死の淵に立った。
「ごめん、ね、ごめん。元気な奥さんじゃなくて、ごめんね」
病院のベッド。もう起き上がれなくなってだいぶ経つ。
あとに残す家族が心配で、夫に涙ながらに言った。
声が出てるのかも怪しい、指一本動かせない。荒い呼吸の中、謝るしかできなかった。
すっかり痩せた夫。そっちも病人みたいな顔をしてる。
「大丈夫だよ。安心してよ。俺がちゃんとするから」
「ごめんね。子供達、いっぱい、あまやかして・・・優しく、怒らないで・・・」
我慢ばかりしてる子供達の顔が浮かんだ。
あれもこれもしてやりたかった。
痛くても、苦しくても、なんでも耐えられた。あの子達と一緒にいられるなら・・・。
段々と目が開かなくなる。
ああ、とうとう終わりなんだ。
「よく頑張ったよ。つらかったよね。痛かったよね。ゆっくり休んでいいからね」
夫の声が響いた。
休んでいいの・・・もう・・・。