最強のタッグ
互いが互いを高め合い、地味の頂点に立つようなエランシオ髪色のドレス。
とうとう卒業パーティーの日が来た。
朝からお風呂に入り、オイルを体に塗り、顔パック、マッサージ……と準備に大忙しだ。
ルルのどうにかしようとする熱い気合いをひしひしと感じる。
さあ、いよいよエランシオから贈られたドレスに袖を通す。
ルルは真剣だ。
近づいては離れ、離れては近づいてを繰り返し、1つ1つ確認しながら化粧をしていく。
そして……床に項垂れた。
「申し訳ございません。心配した通りになってしまいました。私の力不足です」
違うよ、私とこのドレスのタッグが強すぎるんだよ……。
「お母さまにも見てもらいましょう」
ルルに呼びに行ってもらった。
「ミリー、見に来たわよ。第二王子殿下から贈られたドレスはどう……」
卒業式の日は王太子の婚約破棄の一件で私のドレス姿まで気にされてなかったのだろう。
お母さまは私の姿を目に入れた瞬間、言葉が消えた……。
「……奥深い色合いのドレスね……」
「どうしたら良いでしょう?」
お母さまは私の姿をじっと見つめ、ルルにいくつかのアクセサリーと温室に咲いていた黄色の薔薇を持って来させた。
「私のエメラルドのネックレスはどうかしら?」
輝いていたはずのエメラルドのネックレスは、私がつけた瞬間、気配が消えた。
「翡翠のブレスレットもつけてみましょう」
翡翠のブレスレットはまるでカメレオンの如く見えなくなった。
「薔薇を模した黄色い髪飾りをつけるはずだったのでしょう?今度こそ大丈夫よ……?」
芳香まで見えそうだった艶やかな薔薇は、私の髪に飾られた途端、艶消しされたようになった。
私とドレスのタッグに誰も勝てない……。
「どうだ?準備はできたか?第二王子殿下から贈られたドレスはどう……」
様子を見に来たお父さまの言葉が消えた…。
お父さまもあの日の私のドレス姿は記憶に残っていなかったようだ。
「……奥深い色合いのドレスだな……」
「どうしたら良いでしょう?」
お父さまは上から下まで私を見つめた後、何かを思いついたように頷いた。
「卒業パーティーが始まる直前に目立たないように行こう」
はい……お父さま……。
私とドレスの完全勝利だった。
* * * * *
王城に着くと、さすがに開始直前を狙っただけあって誰もいなかった。
しかし、卒業パーティーの会場に続く廊下でコーネリアとエスコートをしている御令息に会った。
御令息は多分私より少し年上くらいだろうか。
柔らかそうな長い白金の髪をアメジストの飾り留めで結んだ、しなやかに引き締まった体躯の、左の目の下のホクロがセクシーなお兄さんだ。
確かコーネリアのお母さまはもう亡くなっているので、お忙しい宰相の代わりを任された方だろう。
「ご機嫌よう、ミリアム様」
「ご機嫌よう、コーネリア様」
私たちは同じクラスだった事もあり名前を呼び合えるくらいには仲が良い。
コーネリアは美しい銀糸の髪を複雑に編み込み、華奢な首から鎖骨が色っぽく、ドレスは紺色に白金の刺繍がしてあり、まさに月の女神のように美しかった。
心なしか、肌艶も以前より良く感じるのはストレスがなくなったからだろうか。
学園では、壇上で愛を語る暑いお方がピンクのご令嬢と共に至る所でおおらかにお過ごしであったから、それはストレスも溜まった事だろう。
とは言え、人前での婚約破棄はやはり貴族令嬢としては辛いものだ。
私はお節介かもと思いつつ、つい左手で扇子を開き胸に当てた。
コーネリアは小さく目を丸くしたが、何か小さく呟き、雪解けに咲く花のようにほわりと笑った。
"あなたは素敵"
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明日はとうとう卒業パーティーの場面です。
読んで下さるみなさんのお陰でここまで書き続けることが出来ました。
心から感謝です!ありがとうございます泣