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エピローグ 後編

「幸せになって。それだけが私たちの願いだから…」

 結婚式当日、空は澄み渡る青空が広がった。


 お父さまとお母さまは準備の確認にヴァングラス邸にひと足早く行った。


 私も朝早くから準備に大忙しだ。

 ヴァングラスのお母さまが残してくださった花嫁衣裳は百合の花のように柔らかな白に、亡きお母さまがお好きだった薔薇の花々が銀糸で刺繍されていた。

 さらにお母さまを筆頭に侍女達とドレスのサイズを私に合わせたり、刺繍を加えたりして、さらに華やかに今の流行の形に仕上げてくれた。


 ヴェールはメイドのみんなで銀の絹糸で編んでくれた。

 ため息が出るほど、とても繊細で美しかった。


 純白の花嫁衣裳に身を包んだ私は、鏡の中の自分の姿に目をぱちくりした。

 白粉をはたかれた肌は新雪のようにきめ細かく白く、目元に差された紅も涼やかに普段の私とは別人のように嫋やかで楚々とした美しい花嫁姿だった。

 ルルの渾身のできだ。


 そして今、ルルが仕上げの紅を私の唇に差し化粧を仕上げると、ボロボロと泣いた。

「ミリアム様、おめでとうございます。私の夢が叶いました。お幸せそうな花嫁姿のミリアム様にお化粧をする事が夢でした……。本当に本当にお綺麗です」


「ありがとう、ルル。大好きよ。これからもよろしくね」

「はい。どこまでもついて行きます!」

 私はせっかくのお化粧を崩さないよう涙を(こら)えた。

 ルルは専属侍女として結婚後もヴァングラス邸について来てくれることになっている。



「姉さま、いえ、姉上、お手を。馬車までエスコートさせてください」

 ドアを開けるとリクトが待っていてくれた。

 いつの間にか身長が伸び、私と目線が同じになっていた。


「ええ、喜んで」

 私はリクトの腕にそっと手を添えた。

「姉上、本当に綺麗です」

「リクトも素敵よ」


 リクトも結婚式のために赤のフロックコートを着ていて、いつもより大人びて見えた。


「いつも前向きな姉上は私の憧れでした。どうか、お幸せに……」


 そして玄関ホールには執事のセバスチャン、侍女やメイド、シェフたちみんながずらりと並んでいた。

 私の姿を見るとみんなが拍手をして口々に褒めたり、お祝いの言葉をかけてくれた。


「お嬢様、お美しいです!」

「お幸せになってください!」

「綺麗です!」

「素敵です!お幸せに!」


「みんな、ありがとう!お父さまとお母さまとリクトをこれからもよろしくね……」


 嬉しくて涙が出そうだ。

 リクトが化粧を崩さないように、そっとハンカチで目元を拭い、ルルからヴェールを受け取って頭にかけてくれた。




 飾りつけられた馬車の前で花婿姿のヴァングラスがいた。

 濃紺の髪を後ろに流し、純白のフロックコートを着て威風堂々とした素敵な花婿姿だ。


「義兄上、姉上をよろしくお願いします」

「必ず幸せにすると誓うよ」


 リクトの手からヴァングラスの手に私の手が渡された。


 そのままリクトは前に停められた馬車に乗り込んで先に出発した。


 もうとうにヴァングラス邸に住んでいたというのに、今この瞬間、慣れ親しんだハウネスト家から本当に離れたのを感じ、胸に何とも言えない寂しさが広がった。


 私はハウネスト家を目に焼き付けるように見つめた後、静かにカーテシーをした。


「ミリー、行こう」

 私が頷くとヴァングラスが馬車にそっと乗せてくれた。


 ヴァングラスとしっかり手を繋ぎ、静かな時間が流れる。

 花嫁は花婿と式でヴェールを外してもらうまで話してはいけないことになっている。


 しかし、この無言の時間も心地良かった。


 思えば私にとって結婚式は嫌なイメージでしかなかった。

 なぜなら、ずっとエランシオと共に生きると誓わなければならない儀式だったからだ。

 あんなに結婚式を拒んだのも、その嫌なイメージが強く残っていたせいだったのかもしれない。


 静かな沈黙の中でヴァングラスと過ごした日々を思った。


 一目惚れしたら、すぐに失恋気分を味わったこと。

 初めてヴァン様と呼び、ミリーと呼ばれた時のこと。

 二人で半分こして食べたこと。

 刺繍のハンカチを渡したこと……。

 数えたらキリがないほどの思い出がたくさんできた。


 そして、そんな思い出を二人で積み重ねていくうちに、気づいたらヴァングラスがそばにいる事が自然になっていた。


 ヴァングラスを好きになり、ヴァングラスからも同じ想いを返してもらい、それは奇跡のようだ。

 大好きなヴァングラスのそばで、これからずっとずっと私は生きていくのだ。


 素敵なおひとり様ライフを決めた日は、まさかこんな日を迎えるとは想像もしなかった。




 馬車が止まった。


 ヴァングラスが先に降り、手を差し伸べて優しく降ろしてくれた。


 ヴァングラスの腕に手を添えて結婚式場である夢の黄色いお花のお庭に歩く。

 夢のお庭に近づくにつれ、家族だけのはずなのにザワザワと大勢の話し声が聞こえた。


 不思議に思ってヴァングラスを見ると、彼はイタズラっぽく笑った。


 そこにはたくさんの人がいた。

 お父さま、お母さま、リクト、ヴァングラスによく似たお祖父さま、優しそうなお祖母さま。

 私が学園で仲良くしていた友人、ドレス姿のパトリシアはもちろんスーザンやカトレアや下級女官の仲間たち、そして近衞騎士団の正装をした騎士や見習い騎士達、トンチンカンもいた。


 そして、私たちが壇上に上がるとシンと静かになった。


 結婚の儀が始まる。


 ヴァングラスは私に跪き口上を述べる。

「私ヴァングラス・トルードはミリアム・ハウネストと共にこれからの人生を歩む事をここに誓う。愛しいミリアム・ハウネストは今ここに私の妻となった事を皆に告げる」


 私はヴァングラスの手を取り立たせ、続いて口上を述べる。

「私ミリアム・ハウネストはヴァングラス・トルードと共にこれからの人生を歩む事をここに誓います。愛しいヴァングラス・トルードは今ここに私の夫となった事を皆に告げます」


 彼がそっとヴェールを持ち上げた。

「ミリー、ありがとう。すごく…すごく綺麗だ。一緒に幸せになろう」

「ヴァン様、あなたと一緒なら私は間違いなく幸せです。一緒に幸せになりましょう」


 ヴァングラスの目が赤く潤んでいた。

 私はそっと彼の目尻を拭った。


 ヴァングラスが少しかがんで誓いのキスをした。

 ほんの少し彼の唇が震えていた。私の唇も震えていた。

 きっと嬉しくて愛しくて幸せなせいだ。


 ああ、本当にヴァングラスのお嫁さんになったんだ。


 二人でみんなの方へ向き深くお辞儀をし、顔を上げた瞬間……


 ワーと歓声があがり温かい笑顔と拍手に包まれた。


 女性陣は一糸乱れず右手で扇子を開くと、バッと腕を真っ直ぐ挙げてノリノリで扇子を振った。


 きっちり8秒。


 そして一斉に空高く扇子を放った。


 澄んだ青空に色とりどりの扇子が舞う。



" あなたのこれからに幸多くあらんことを!"



これにて完結です!

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

日々のいいね、たくさんのブックマーク、温かい評価に背中を押してもらって無事完結まで走り切れました。本当に心から感謝です。ありがとうございました!


☆書籍化のお知らせです


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挿絵(By みてみん)


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https://www.cmoa.jp/title/1101429724/


ぜひ、覗いてみてくださいませ ♪



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― 新着の感想 ―
大好きで何度読んでも好きなんですが タイトルが頭の中で【扇子言語】になってしまってて、ブクマから探すのに苦労しておりますの…
扇子言葉是非アニメで見たいのでアニメ化してくれないかなぁ
素敵なエンディングで感動しました。 それはともあれ・・・ジュリアナを思い出した私はアラ還www
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