王太子アルトバルト 前編
卒業式で婚約者コーネリアと円満(アルトバルト主観)に婚約破棄でき、愛しのポアラにプロポーズを受け入れられ、幸せいっぱいのアルトバルト。
アルトバルトはポアラと熱い抱擁を交わし別れた後、コーネリアとの婚約を破棄したことを伝えるべく意気揚々と王城に戻った。
卒業式では真心を込めてポアラへの熱い想いを皆の前で告げ、皆は温かい眼差しで自分を見つめ真摯にその想いに耳を傾けてくれた。
そして婚約者であったコーネリアは始めは哀しげであったが、最後には笑顔で婚約破棄を受け入れ、ポアラとの幸せを祈ってくれたのだ。
疎遠であった異母弟のエランシオも、わざわざ壇上にまで上がって祝ってくれた。
幼い頃、心は言葉にして伝えることが大切だと母上に言われた。
真にその通りであった。
この世界は心を扇子で表し伝えるという悪しき風習がある。
心優しき我が母は、扇子言語は決して使わず、言いづらいであろう事もきちんと言葉で伝えた。
素晴らしい事だ。
人前で言われ恥をかかされた者もいるが、それは本人が悪いのだ。
私は決して悪しき扇子言語は覚えずにきたが、今日の事でやはり正しかった事が証明された。
「父上!」
私は勢い良く執務室を訪れた。
中には宰相であるコーネリアの父ピアネス・レシャールカもいた。
きっとコーネリアが手を回してくれたのだろう。
「父上、この度、公爵令嬢コーネリア・レシャールカ嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢ポアラ・ヘルケトラ嬢と婚約する事に致しました」
私は喜びの心そのままに伝えた。
しかし返ってきたのは重い沈黙だった。
「父上……いかがなさいましたか?」
父上はそれでも答えず、宰相に目をやった。
「アルトバルト様、お尋ね致します。卒業式の場で皆の前でヘルケトラ嬢に想いをお伝えになったとお聞きしましたが、それを見たご令嬢方の扇子はどのように動いておられましたか?」
扇子……?
「確か……こう皆一斉に右手で扇子を開いて左斜め45度に倒していたような……そうだ、ピンと伸びた右中指が美しく感じられた。祝福の扇子ポーズであったか?」
宰相はニコリと笑んだ。
「"てめえ、何言ってんだ"で、ございますよ」
は?
理解の追いつかない私を無視して、宰相は笑んだまま続けた。
「次に、婚約破棄を受け我が娘はこう扇子を動かしたそうですね。扇子を閉じて右斜め30度右小指を立て、その後閉じた扇子を首に当てた。ご記憶に残っておられますか?」
私はかくかくと頷いた。
この時になって、ようやく私は宰相が笑んでいるのに目が怒りに満ちている事に気づいた。
そういえば、いつもは王太子殿下と呼ばれるのに、今日は何故か名で呼ばれた……?
「意味はお分かりに?」
私はブンブンと首を横に振った。
何だ?私は何かを間違えたのか?
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