イーギス商会長
イーギス商会長のお話です。
やっとだ……やっとここまできた。
もう少しで手に入るんだ。
その女は、たまに商売に行く街の娼館の高級娼婦だった。
青空のような青い艶々の髪に形良い眉、一重の目は憂いを帯びた切れ長で深緑色の瞳の美人だ。
でかい胸に細い腰が絶品で俺のお気に入りだった。
俺はその街に商売に行くたびにその女を買った。
いくら金を注ぎ込んだかわからない。
いくら抱いても女はニコリともせず、いい声で鳴くくせに、いつも冷めた目で俺を見ていた。
それをあいつが脇から掻っ攫おうとしたんだ。
南方の国の商会の浅黒い肌の若い男だ。
そいつも俺の気に入りの女にえらく入れ込んで毎晩独占した。
そして、あっという間に身請け話をまとめやがったんだ。
俺のなのに!ふざけるな!
だから俺は娼館から女を攫ってやった。
金は奴より払ってやったんだから文句はないだろ。
俺は女を王都の家に閉じ込めた。
女はあいつの名を呼び、助けてなんて言う。
お前は俺の物なのに愚かな女め!
何度も殴り、その体に誰の物なのか分からせてやった。
女は殴られて腫れた顔で泣きながら微かに笑った。
初めて女の笑い顔を見た。
俺は殴るのをやめて、その綺麗な顔にしばらく呆けた。
「最初から分かってたじゃないか……。あの人にこんな穢れた私じゃ釣り合うわけがなかったんだ。私なんかにはあんたでお似合いさね。これで良かったのさ」
そうだ!お前に似合いなのは俺だ!
女はそれからすぐに子を産んだ。
男の子だ。
「私のパーツがあんたの顔の配置になるとこうなるのかぁ。そうかぁ……」
何とも微妙な顔で産んだ赤子を見て女は呟いた。
女の綺麗な顔そのまんま俺の顔と混ざったような美貌の息子はゾルットと名付けた。
女は周囲の反対を押し切って妻にしてやった。
幸せだった。
女はよく空を見ていたが、ゾルットの事は可愛がっていた。
閉じ込めなくてもいなくなる事はなかった。
ゾルットが1才の時だ。
「アイラ!」
誰だ!俺の妻を気安く呼ぶ奴は!?
あの浅黒い肌の男がいた。
「シーダ様……」
呆然と立つ女を浅黒い肌の男は抱きしめた。
女は始め、その腕から逃れようともがいていたが、男に何かを耳元で囁かれるとその背に腕を回してしがみつき大声で泣いた。
「やっとだ……やっと見つけた。もう離すものか!」
「な、何をしているんだ!俺の物だ!」
浅黒い肌の男の側に立っていた貴族が俺を軽蔑しきった目で見た。
「シーダが先に身請けしたのを卑怯にも攫った男がほざくな。ラッド商会はサビエダ伯爵家が後見についている」
騒ぎを聞きつけた両親が慌てて俺の体を地面に押し付けて跪いた。
「サビエダ伯爵様。愚息が申し訳ありません。どうかどうかお許しを……」
強い力で無様に地面に額を擦り付けさせられる。
「やめろ!俺のだ!俺の物だ!」
暴れる俺を父親が殴りつけた。
気絶するまで何度も何度も。
気づいた時には女はいなかった。
後から聞いたが、女はゾルットも連れて行こうとしたらしいが両親がそれだけはと止めたらしい。
あれは俺の物なのに!妻にもしてやったのに!
貴族の後ろ盾があれば、こんなにもあっさりと人の物を奪えるものなのか!?
貴族だ!俺は何とか貴族をバックにつけようとした。
みんな見下した目で俺を見るだけで頷く貴族はいなかった。
頭の中は貴族の事だけだ。
そうだ!ゾルットの美貌なら貴族の令嬢と婚姻できる!
ゾルットにも貴族令嬢と結婚するんだと何度も言い聞かせた。
だが、男爵令嬢ですら平民との婚姻は厭うた。
これだけのゾルットの美貌でも難しいのか!?
諦めかけた時、見つけたのが婚約破棄された傷ありの貴族令嬢だ。
しかも、伯爵令嬢だ。
こいつさえ手に入ればあの女を取り戻せる。
傷ありで貴族との結婚は難しいのだから、金持ちで美貌のゾルットなら、喉から手が出るほど欲しいはずだ。
だがどうにも上手くいかない。
せっかく大金を積んで、高位貴族に王城の女官の紹介状を書いてもらってゾルットの愛人を送り込んだというのに、そちらも全く役に立たない。
貴族だから平民相手にプライドが邪魔しているのか?
ゾルットもあの貴族令嬢は俺の事が好きなくせに無駄なプライドが邪魔して素直になれないようだと言っていた。
だったら、プライドなんか気にできないほど追い詰めてやればいい。
俺は届いた手紙にニヤリと笑った。
あと少しだ。
ハウネスト伯爵家の橋の完成記念パーティーであの伯爵令嬢はゾルットを選ぶ!
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イーギス商会長は本気でゾルットはすごい美貌だと思ってます。
カトレアはどうやって女官になったの?とご指摘をいただきましたので、こちらのお話に少し加筆しましたm(_ _)m





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