お母さま…?
……誰の話よ!?私!?
お母さまの中の私と思えない伯爵令嬢とゾルットの物語にびっくりした……。
しかし、お父さまが伯爵家当主の強権を発動したので、いくらお母さまが不満に思っていても従うしかないだろう。
実際のヴァングラスを見れば、そのうちお母さまも思い込み一直線から戻ってくるに違いない。
びっくり物語に気を取られて忘れそうになったが、専属侍女の件をお父さまに伝えるとピョと驚いていた。
ヴァングラスと2人でよく相談して決めた事なら、お父さまは反対しないそうだ。
専属侍女の件は次の日に女官長様に返事をした。
女官長様は残念そうだったが、ヴァングラスとの婚姻を伝えると納得してくれた。
* * * * *
「お母さま、今日はお休みなのでパーティーの手配のお手伝いをします」
「そう?ありがとう。だったら、招待状を書いてくれるかしら?」
意外なことに、お母さまは吹っ切れたように機嫌が良くなっていた。
橋の完成記念パーティー兼婚姻発表の準備も着々と進めている。
良かった、お父さまに強権を発動されたことで諦めもついたのだろう。
「はい、お母さま」
私はお母さまの隣に机を用意してもらい、早速招待状を書き始める。
黙々と書いていたが、ふと、視線を感じて顔を上げるとお母さまがじっと私を見つめていた。
「お母さま?どうしました?」
「大きくなったなと思って……」
お母さまは柔らかく微笑んだ。
「第二王子殿下と婚約が結ばれたのはミリーがまだ4才の時だったわね。急に宰相様に呼ばれたと思ったら婚約の打診でディーとポカンとしてしまったわ」
私も何となくだが覚えている。
立派な王城に連れて行かれたと思ったら、いきなり意地悪そうな暗い緑の髪の男の子と遊んで来いと言われたのだ。
どれだけ遊びを提案しても、薄く笑ってそれは面白そうですねと口だけで遊ぼうともせず、その目からはお前なんかと遊んで何が楽しいの?って伝わってきた。
こいつと遊ぶのは無理!と思った。
本当会った時からエランシオはエランシオだった。
「第二王子殿下との婚約だからもちろん断る事なんてできなくて……光栄と思わなくてはいけないのに目の前が真っ暗になった気分だったわ……。ご側室様も同席されたけど、性格に難ありな親子に見えたからね……」
思い出した、化粧ばっちりの香水のきついご側室様もいらっしゃった。
二人とも私を褒めてくれるのだが、その目は私を小馬鹿にしているよ〜って言っていて、目は口ほどに物を言うをここまでできるなんてすごい器用だなと思ったんだった。
「婚約中も嫌な気持ちになる事が多かったわ」
そうそう、別にひどい態度をとるわけでもないのにひどいと思わせる事ができるなんて、器用を通り越して天才かと思った。
嫌な天才もいたもんだ。
奴は常に探るような目で私の一挙一動を見てた。
そしてある日言われた。
「お前は普通だ」
いや、天才のおっしゃる事は難解すぎる。
私はとりあえず頷いておいた。
「挙句の果てにあの地味ドレス。第二王子殿下はある意味ミリーの事をよく分かってたわよね……嫌な方向に」
確かに長年私を見つめ続けた天才の集大成のようなドレスだった。
あそこまで私をトップオブザ地味に押し上げるチョイスはなかなか一朝一夕の仲ではできないだろう。
「婚約破棄できて本当に良かったですよね……」
「ええ」
二人でしみじみ頷き合った。
お母さまは私の両手を握った。
「いっぱい嫌な思いも悔しい思いもしたわよね。守ってあげられなくてごめんなさい」
「お母さま、私は気にしてません」
いちいち気にするのが馬鹿らしくなって早々に流し始めたから大丈夫。
だいたい、はいはい!と合いの手を入れる要領になった。
奴の器は東方の国のお猪口サイズだから、いちいち人目を気にしてそこまでひどいこともしてこなかったしね。
「今度こそ……今度こそ、あなたが幸せになれるように頑張るから」
ギューギューと握られた手が痛い。
「いい?パーティーでは自分の幸せだけを考えるのよ……絶対よ」
お母さま……?
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