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どなたのお話ですか?

やっぱり専属侍女はお断りしよう。

 専属侍女を引き受けない事にして、すっきりした気分でヴァングラスに送ってもらってタウンハウスに帰ると、食事室では険悪な雰囲気のお父さまとお母さまが睨み合っていた。

 お母さまが落ち着くまでは、ヴァングラスとの夕食を諦めて正解だった。


「ただいま戻りました」

「おかえり、ミリー」

「おかえりなさい」


 とりあえず、険悪な二人の話は後から聞くとしてまずは着替えてしまおう。

 ルルに着替えさせてもらうと、私はお父さまとお母さまのいる食事室に行った。


「えーと、お母さまは分かって下さいましたか?」

「ええ、よく分かったわ。ディーが頑固でわからずやっていうことが」

 お母さまがツンとそっぽを向いて答えた。


「いい加減にしないか!」

 お父さまも珍しくカッカきているようだ。


「お母さま、私は本当にヴァン様に嫁ぐことを望んでいます」

「ミリー、言わなくても大丈夫。あなたは優しいから。でもあきらめないで。ディー、いくらトルード辺境伯と仲が良いからといってミリーに無理強いしないでください」

 だめだ、全く通じない……。


「だから、何度も言っただろう。私は無理強いなんかしていない」


「私は、第二王子殿下との婚約は仕方がなかった事とは言え、後悔しているのです。殿下はミリーに対する態度もひどいものでした。しかも、一生に一度の卒業記念パーティーにあんな地味ドレスを贈ってくるなんて!ミリーが可哀想で仕方がありませんでした。やっと…やっと、ミリーは自由になれたのに、今度は親子ほど離れた孫までいる方と結婚だなんてひどすぎます。好いた人がいるなら添わせてあげたいのです。ミリーが好いた人ならたとえ平民でも構いません。今度こそ、私はミリーを守りたいのです」

 お母さまは涙ながらに訴えた。


 エランシオとの婚約はどれだけお母さまに心配をかけていたのだろう。

 お母さまは今度こそ私を守りたいと強く思ってくれているようだ。

 その気持ちはありがたい。

 お母さまの強い愛を感じた。


 しかし……惜しい。

 どこぞの扇子言語に不自由な方の顔の配置のようだ。

 私の好いた人なら平民でも良いと言うのなら、年が離れていても孫ありでも構いませんが良かった……。


「お母さま、私の事を思うならヴァン様と結婚を認めてほしいです」

「ミリー、お母さまに任せて黙っていなさい」

 どうしよう、お母さまが一直線に反対方向へ爆進中だ。


 お父さまが諦めたようにため息をついた。

「とにかく橋の完成記念パーティーでミリーとトルード辺境伯との婚姻の発表は何と言われようと決定事項だ。そのつもりで準備を進めるように。これはハウネスト伯爵家当主としての命令だ」


 お父さまがとうとう強権を発動した。

 伯爵家当主としての発言は絶対だ。

 お母さまは渋々かしこまりましたと言ったあと、気分が優れないと自室に戻って行った。



 お父さまと目が合い、揃ってため息をついた。


「ずっとお母さまはあの調子だったのですか?」

「ああ、すまない。一日中どう話しても伝わらなかった」

 そう言ったお父さまの顔が今日一日でやつれた気がする。


「イーギス商会に随分ある事ない事を吹き込まれているようでなぁ……。ミリーはあのお見合いより前にゾルットと会った事はあるかい?」

「いいえ」

 あの微妙な配置の顔は多分会っていたら覚えているだろう。


「実はな、お前とゾルットはお見合いよりずっと前に出会っていてひと目で惹かれ合ったそうだ」

 ???

「どなたのお話ですか?」


「ソフィーの中のお前の話だ……」

 なんと!?



 お父さまの話によると、伯爵令嬢(え?私?)と次期商会長のゾルットはお見合いよりずっと前に、たまたま彼女がイーギス商会に買い物に来た時に出会い、ひと目でお互い惹かれ合ったそうな。

 しかし、伯爵令嬢は婚約者がいる身、ゾルットはしがない商人……惹かれ合うもお互いを想うだけの日々を送るしかなかった。

 望みのない恋と分かっていたが、ゾルットは諦めきれず、小さな希望を胸に商会を大きくしていった。

 父親であるイーギス商会長も息子の切ない恋心に胸を痛めながら見守っていた……。


 しかし、ここにきて奇跡が起こった!

 伯爵令嬢は婚約破棄となったのだ。

 イーギス商会長はなけなしの金をかき集めハウネスト伯爵家に寄付をし、息子のために伯爵家とツテを作り、とうとう息子と伯爵令嬢の見合いを取り付けた。


 お見合い当日、ゾルットは喜びが抑えられず伯爵令嬢の為に雇った侍女を紹介しようと連れていった。

 だが、それが誤解を生んでしまった。

 ハウネスト伯爵と伯爵令嬢はその侍女をゾルットの恋人と勘違いしてしまったのだ。

 怒り狂う伯爵にゾルットは話を聞いてもらうこともできず、伯爵家を追い出された。


 怒りのおさまらない伯爵は、その頃仲良くなったトルード辺境伯との縁談を娘に強く勧めた。

 トルード辺境伯とは親子ほども年が離れているうえに、息子どころか孫までいる。

 しかし、失意の中の伯爵令嬢は父親の強い勧めに逆らうことができず、その縁談を受け入れたのだった。


 その見合いから数日後、やはりゾルットが気になる伯爵令嬢はイーギス商会を訪れた……トルード辺境伯と共に。

 少しだけ、ゾルットを嫉妬させたいという気持ちもあったのだろう。

 ほんの些細な出来心だった。


 それは二人の関係を大きく拗らせる事となった。


 その日は運命のいたずらか、ゾルットは高熱を出し寝込んでいた。

 しかし、伯爵令嬢がイーギス商会に来ていると聞いてゾルットは病気の体を押して喜び勇んで会いに行った。

 ところが、伯爵令嬢の隣には見知らぬ男が!?

 ゾルットは高熱のせいもあり、嫉妬から伯爵令嬢を強く詰ってしまった……。


 すぐに商会長が気づきとりなしたが、目に涙をいっぱい溜めて伯爵令嬢は帰って行った。

 ゾルットも高熱にとうとう倒れ、従業員に運ばれて行った。


 目覚めて、すぐに後悔し落ち込むゾルット……。

 自身が誤解の元となった雇われた侍女はその姿に胸を痛め、伯爵令嬢に会うために王城の女官となって勤めることにした。


 そこで目にしたのは、親子ほどに離れた伯爵令嬢に執拗に迫るトルード辺境伯の姿だった。

 何とか接触を試みるも王城の女官の仕事は多忙なうえに、常に伯爵令嬢はトルード辺境伯に見張られていて話すことができなかった。


 だが、運命の女神は2人を見放していなかった。

 トルード辺境伯は盗賊討伐のため王城から離れることになったのだ。

 侍女はやっと伯爵令嬢と話ができた。

 しかし、時は既に遅し……。

 トルード辺境伯と伯爵令嬢の縁談は引き返せないところまで来ていた。

 涙ながらに伯爵令嬢は、私の事はお忘れくださいと侍女にゾルットへの伝言を託すのだった。


 伝言を聞いて、涙に暮れるゾルット。

 あまりに不憫な息子の姿に、イーギス商会長は一縷(いちる)の望みをかけて息子と共にハウネスト領に赴き、伯爵令嬢の母親に助けを求めるのだった。


 続く




 …………て、誰の話よ!?私!?







いいね、ブックマーク、評価をありがとうございました。

お話もだんだん完結に近づいてきました。

もちろん、イーギス親子にはざまぁが待っております ♪


☆「俳人、歌人になろう2023」に参加してます。良かったら覗いていただけると嬉しいです(o^^o)

この作品を書いていて感じた時々を俳句にしてます ♪

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― 新着の感想 ―
壮大な勘違いストーリーが展開されてて笑える(≧▽≦)
[一言] お母様、恋愛小説の読みすぎなのでは…?
[一言] …………┐(´д`)┌
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