初めてミリーと会った時かな?
私は気づかぬうちにヴァングラスとの縁談を逃していたようだ。
「……というわけなのですが、ヴァン様は専属侍女のお話どう思いますか?」
早速午後の休憩時間にヴァングラスに相談した。
「とても栄誉なお話だけどミリーはどう?」
「うーん、正直なところ私が専属侍女だなんてピンとこないです。専属侍女なんてエリート中のエリートなのに、こんな普通な私がだなんて……」
「ミリーはかなり優秀だと思うよ?ダウズも差配の仕事が完璧だと褒めていたよ」
ダウズは褒め上手だからなぁ。
「卒業と同時に公爵夫人になる予定だったので、公爵夫人としての教育は終えているので差配は何とかなっただけです」
公爵夫人教育だと思ったら、まさかの上級女官並みの教育だったしな……。
道理で厳しいと思ったよ
思わず遠い目をしてしまう。
「そういえば、宰相様からヴァン様によろしく伝えるよう言づかりました。承諾書は今日中に届くそうです。本当はお茶会の時にヴァン様との縁談をお話しくださる予定だったと聞きました。全く気づきませんでした」
「ああ、ピアネスは友人なんだ。いつまでも再婚しない私を心配してミリーとの縁談を持ってきたんだ。でも、ミリーには就職宣言されてしまったからね。ピアネスには自分で口説き落とすって言ったんだ」
口説き落とす!?私は真っ赤になった。
「ヴァン様はいつから私の事をその…こ、好ましく思ってくださってたのですか?」
ヴァングラスは私の赤くなった頬を優しく撫で目を覗き込んだ。
「初めてミリーと会った時かな?」
「陛下のお茶会にエスコートをしてくださった時ですか?」
「いや、もっと前。第二王子殿下の鼻に扇子を突き立てて、大笑いしてたミリーを見た時だと思う」
へ?そんな前?というかそんな姿を見て?
「何でそんな変な姿を好ましく思ったのですか!?忘れてください!」
ポフポフとヴァングラスの胸を叩く。
あれは黒歴史というやつだ。
「第二王子殿下に婚約破棄を受けたうえに、暴力を振るわれそうになったのに、勇敢にも扇子を突き立てて大笑いしているなんて、どんな豪胆な女性なんだろうってずっと気になっていたんだ」
それだけ聞くとすごい勇猛果敢な女性に聞こえる。
「ですからあれはわざとではなく、ほんの偶然、神様のいたずらです」
私はツンとそっぽを向く。
「ごめん、ごめん。でもすごく気になっていて、今までどんな縁談を勧められても全く会う気にならなかったのに、初めて会ってみたいと思ったんだ。実際会ったミリーは可愛らしいし、面白いし、かっこいいしであっという間に好きになっていたよ」
そんな言葉に私は嬉し恥ずかしで耳まで赤くして俯いた。
「私は、初めてヴァン様にエスコートをしていただいた時に一目惚れをしておりました……」
小さく告げるとヴァングラスは驚いた顔をして、顔を片手で覆って横を向いた。
その耳は私と同じように赤い。
「私が就職宣言しなかったらすぐに結婚していたでしょうか?」
「もしかしたらすぐに結婚していたかもしれないね。でも、就職宣言のお陰でミリーと恋愛ができたから良かったと思ってるよ。
段々距離が縮まって嬉しく思ったり、デートをして楽しかったり、なかなか想いが伝わらなくてヤキモキしたり、王城で二人でこうやって過ごしたり、すぐに結婚していたらできなかった事がたくさんできた」
「はい、私もそう思います」
ヴァングラスとコツンとおでこを合わせて微笑み合った。
「それで、専属侍女だけどミリーがやってみたかったらやってみると良いよ。辺境伯当主の伴侶だったら無理だったけど、もう近衞騎士団長だけだし、王都の屋敷の差配だけならミリーなら大丈夫だと思う。
お茶会の主催も前当主の妻ならそこまで頻繁に開かなくても平気だしね。専属侍女になるならないは別にして、ミリーは結婚した後、女官の仕事はどうしたい?」
女官の仕事は楽しいし、好きだと思う。
そう思った時、気づいた。
女官を続ければこうやって王城で会えるけど、辞めてしまったらこういう時間がなくなってしまう!?
女官を続けた方がヴァングラスの側に長くいられるではないか!?
「女官のお仕事は続けたいです。だって辞めてしまったら、ヴァン様と過ごす時間が減ってしまいます」
こんな不純な動機で続けて良いのだろうか?
いや、そもそも女官を始めたのだって素敵なおひとり様ライフのためだったのだ。
素敵なおひとり様ライフが愛しいヴァングラスライフに変わっただけで大差ない。
真面目にお仕事するし大丈夫!
「うん、私もいっぱい一緒にいたい」
ヴァングラスが私の手をとり、チュッと指先にくちづけた。
やっぱり、お仕事はやめられない。
こんな幸せな時間は減らせない。
専属侍女はどうしよう?
もし、私が夢のおひとり様ライフを目指していたのならすぐさま頷いていただろう。
でも……
「私はヴァン様の赤ちゃんを早く産みたいです……」
そう、赤ちゃんを産み育てる事を考えると、どうしても専属侍女は難しい。
女官は人数が多いから融通がきくのだが、専属侍女になってすぐに妊娠したので辞めますとなるのは流石に無責任だ。
専属侍女になるなら、しばらくは赤ちゃんを諦めるしかない。
「ヴァン様にはちゃんと後継ぎがいらっしゃるので、私が絶対産まなくてはならないって事はないのは分かっています。むしろ、産まない方が余計な問題が起きないかもしれません。でも、私はヴァン様の赤ちゃんを産みたいです」
ヴァングラスはそれはそれは嬉しそうに笑った。
「私もミリーとの赤ちゃんが欲しい。出来ればたくさん」
「はい!私もたくさん欲しいです」
やっぱり専属侍女はお断りしよう!
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