専属侍女の打診
いったいどなたが専属侍女に選ばれるのでしょう?
「私ですか?」
思わず自分を指差し聞き返してしまった……。
いったい誰がコーネリアの専属侍女になるのだろう?とパトリシアと話していたら、女官長に呼ばれた。
そして呼ばれた先はコーネリアの離宮でそこには宰相様とコーネリアがいたのだった。
「ミリアム・ハウネスト伯爵令嬢、あなたに未来の王太子妃の専属侍女をお願いしたいと思っていますが、いかがでしょう?」
宰相様に言われたのである。
そして、冒頭の私ですか?に繋がる。
いやいや、なぜ私?
私は下級女官だ。
上級女官から選ばれる筈じゃないのか?
「私は下級女官でございます。専属侍女は上級女官の中から優れた者が選ばれるのではないのでしょうか?」
「そうね、ミリアム、上級女官から選ばれることが殆どね。でも必ずそうしなくてはならないという決まりがあるわけではないの」
以前訓練場で会った時は友人としてだったが、今は未来の王太子妃と女官として向き合っているので、コーネリアの口調が違った。
「私はこれといって優れているとは言えません。正直、命懸けでコーネリア様を守ろうと言う気概もございません」
かなりぶっちゃけて言ってしまったが、大丈夫だろうか?
「ミリアムのそういうところを、私は気に入っているわ。あなたなら信頼できる。私と女官長は専属侍女の候補の方々のお茶会での働きはもちろん、何かトラブルがあった時にどう動くかをチェックしていたの」
ヴァングラスとのデートの午前中にお茶会の補佐の補佐に加わった時のことを思い出す。
「以前、私のお茶会に女官として務めたことを覚えているかしら?」
「はい」
ナタリーがコーネリアに喧嘩をふっかけて、返り討ちにされたお茶会だ。
「あの時、ナタリー様がお茶会の雰囲気を壊したでしょう?その時、あなたとセシリア以外の候補の女官は我関せずだったわ」
「セシリア様は香りの違うお茶を淹れて場の空気を変えようとなさっていましたが、私はお手伝いをするだけで何も出来ませんでした」
そう、目が合った時、信頼してますと念を送っただけだ。
「あなたは私と目が合うと全幅の信頼を寄せる目をしたわ。あなたはできると背中を押してもらった気持ちだった。何をして欲しいわけではないの。あなたの大丈夫、信頼してますの目が必要なの。
それに、王太子妃としては駄目なのだけれど、私のために命を懸けられるのはちょっと重く感じてしまって……。はっきりとミリアムのように命は懸けられませんと言ってもらえる方が気が楽なのよ」
どうしよう、それなら大丈夫そうだが、上級女官でもない私に専属侍女なんてできるのだろうか。
「お言葉、大変光栄でございます。しかし、下級女官の私は上級女官の幅広い知識も教養も不足しております」
礼儀作法は多分公爵夫人レベルなら大丈夫なはず。
「それですが……」
コーネリアがなぜか歯切れ悪く言って、お父上である宰相様を見た。
「こんな事もあろうかとハウネスト嬢には上級女官と同等の教育をなされてきました」
はい?こんな事もあろうかと?
「もともと学園を卒業と同時に公爵夫人になる予定でしたし、習って損をするわけでもないので私が教育係を用意しました」
確かに難しいことを習うなとは思っていた。
でもそれは公爵夫人に必要な知識と教養だと思っていた。
え?違うの?
『ミリアム、公爵夫人は確かに高い知識や教養が必要だけれど、あなたが身に付けた教養や知識はさらに上をいっていたのよ』
『え、そうだったのですか?』
コーネリアがユガンタ語で話すのに合わせて私もユガンタ語で返す。
『ミリアムはいくつの言葉を話せる?』
『私が話せるのは母国語以外は三か国語だけです。でも日常会話ぐらいです』
今度はドミニエンド語だ。
話せると言ってもそこまで流暢には話せない。
まぁ何とか会話ができるかな位だ。
『それで充分なのよ。上級女官でもユガンタ語くらいね。ミリアムはお茶の淹れ方や知識も豊富でしょう?公爵夫人にそこまでの知識は必要ないのよ』
『そうなのですか?』
今度はフリアナ語だ。
なんと、知らないうちに専属侍女ができるほどの知識と教養が身に付いていたようだ。
「なんといいましても、第二王子殿下がご婚約者でしたので、万が一を考えまして高い知識と教養を身に付けていれば、何があっても安心かと思いまして」
宰相様がにこやかに言う。
ありがたいと思うべきか、そんな男を婚約者に押し付けてと怒るべきか迷うところだ。
「分かりました。ただ、私の一存では決められないので父とトルード辺境伯と相談しても良いでしょうか?」
「トルード辺境伯も?」
コーネリアが不思議そうに首を傾げた。
「まだ内輪の事ですがトルード辺境伯との婚姻のお話が進んでおります」
「本当ですか!?」
なぜか宰相様のテンションが上がった。
「はい。先日、プロポーズをしていただきお受けいたしました」
「そうですか!そうですか!だから当主を息子に譲る手続きをしていたのですね!分かりました!すぐ承諾書を送ります!」
宰相様がとても嬉しそうな顔をしている。
「本当は陛下のお茶会の日にトルード辺境伯との縁談を用意していたのですよ」
へ?
「しかし、ハウネスト嬢は就職をご希望だったので諦めたのですよ」
なんと?
私は気づかぬうちにヴァングラスとの縁談を逃していたようだ……。
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