家訓を胸に
ハウネスト家の家訓…川の流れに身をまかせ。
「ミリアム様、申し訳ございません」
部屋に戻ると弟のリクトと、土下座する専属侍女のルルの姿があった……。
淡い金の髪に優しい緑の瞳のお母さまによく似た可愛らしい容姿のリクトは11才で、来月から学園の2年生になる。
ルルは私の小さい頃からの専属侍女で、私の瞳より薄い焦茶色の瞳に紫の髪をきっちり三つ編みにした、5つ年上の味のある侍女だ。
「髪飾りが崩れてしまったと聞きました。大変申し訳ございませんでした。私の心配した通りになってしまいました。あんな繊細な作りの髪飾りなのですからやはりあと2つ3つは予備としてお持ちいただくべきでした。何よりミリアム様のご準備を学園の寮で終えた後はこちらに戻りましたがそれはやはり失敗でございました。そのまま私が待機していれば良かったのです。私の心配した通りになってしまいました。わざわざミリアム様のお手をわずら……」
「ルル、ストップ。
ごめんなさい。髪飾りは私がわざと崩したのよ」
私は慌ててルルを立たせた。
「姉さま、卒業式で何かあったのですか?」
王太子の婚約破棄なんて極秘事項だけど、リクトとルルは信頼できる。
私は卒業式で起こったことを2人にも話した。
「私心配なのですが、もしやミリアム様のご婚約者の第二王子殿下が王太子になるのでしょうか?」
「それはないと思うわ」
私と第二王子エランシオの婚約は、エランシオが王太子にならないために宰相によって直々に結ばされたものだ。
エランシオのお母上様は王宮の女官に上がり、当時、隣国ドミニエンド皇国との戦後処理でバタバタしていたどさくさに紛れて、王妃マリアから数ヶ月遅れてエランシオを身籠り、気づいたら男爵令嬢ながら側室におさまっていた。
そして、常に上を目指す努力家なお母上様は、出産後すぐ精力的にエランシオを王太子にするべく動き出したのだった。
もちろんそれは宰相に潰される事になる。
王妃の息子であるアルトバルトには、自身の娘のコーネリアを婚約者にして後ろ楯を固め、王太子の地位を盤石とし、エランシオには王宮に全く影響力のない、程々の爵位の、程々の領地の、後ろ盾になり得ない娘を婚約者に選び、結婚後は領地を与え王族の身分は返上し公爵になる事とし、王位継承権は持たせないようにしたのだ。
王宮なんて、毎年開かれる夜会にしか出ない影響力皆無のお父さま、王子の婚約者として低すぎると文句もつけづらいハウネスト伯爵家、すごく豊かではないけどすごく貧しい訳でもない領地、極めつきに、ごく普通の私を見た宰相はすぐさまエランシオとの婚約を整えたのだった。
もちろん、私たちはモダカの家訓を胸に御意一択だ。
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