アザが痛くて泣きそうだけど幸せです
チョビ髭先生、ありがとう!
あの襲撃のあと私とルルはタウンハウスに帰ると、既に王城からお医者様が来ていて怪我の治療をすぐにしてもらう事ができた。
私は馬車から落ちた時に打った右側が酷いあざになっていたし、頬や右手の擦り傷は土が入り込んでいたので消毒がとんでもなく痛かった。
ルルは左足の捻挫が腫れ、あと左側のアザが酷いらしい。
あの時は私もルルも必死だったから痛みを感じなかったけど、今はとにかく痛い。
私もルルも痛み止めをもらった。
でも痛い…。
お父さまは涙目でオロオロしていて、結局お医者様に邪魔だと部屋から追い出されていた。
ヴァングラスは無事だった馬車で私たちを送った後は、報告のために一旦王城に戻ったが、その夜遅くに怪我の様子を聞きにタウンハウスに来てくれたそうだ。
痛み止めにはよく眠れるお薬も入っていたようで、私はぐっすり寝ていたので次の日の朝に聞いた。
そして言われた。
「今日からミリーはトルード辺境伯邸で預かってもらうことになった」
はい?
「お父さま、今聞き違いをしてしまったようです。ヴァン様のお屋敷に預かってもらうとか聞こえてしまいました。もう一度言って下さいますか?」
「いや、聞き違いではない。ミリーはこれからしばらくヴァングラス様にお世話になることになる」
「なぜですか?」
うれしいけど、なぜにそうなる?
「うむ。実はこれから私はすぐに領地に帰らなくてはならなくなった。橋が完成間近だから領主として確認しなくてはならないのだ」
なるほど。でも別に私はタウンハウスで過ごしても良くない?
「ルルは怪我が治るまで自宅療養になる。お前を世話する手も足りないし、何より襲撃を受けたのに私がいないタウンハウスで過ごさせるのは心配だ」
ルルは男爵家の次女だが、普段はタウンハウスに住み込みで私の専属侍女をしてくれている。
ルルも怪我が治るまでは自宅の方が安心だろう。
王城からもお医者さんが行ってくれるそうだ。
おや?でも私も一緒にお父さまと行けばよくない?
「私も一緒に領地に行ったら良いのではないでしょうか?」
「その怪我で馬車は辛いだろう。何より王城の医師に診てもらった方が安心だ」
確かに……領地まで3日はかかる。
私の右のお尻がもつとは思えない。
さぞかし痛かろう……。アザが広がりそうだ。
「ヴァングラス様がそれを聞いて、快くお前を引き受けてくださった。朝食を食べたら支度をしなさい」
「はい」
なんと!これからヴァン様のお屋敷で過ごすようです!
私の持っていく身の回りの物はもう準備ができているそうだ。
私は朝食を食べると、怪我に響かない簡易なドレスに着替えさせてもらった。
お化粧は怪我をしているのでできない。
右頬のガーゼと右手の包帯がなんとも痛々しい。
「お嬢様、トルード辺境伯がお迎えに見えました」
「はい」
動くとアザのある右側がすごく痛い。
メイドの手を借りてなんとかヨタヨタと客室に行く。
「ミリー」
ヴァングラスがすぐに手を貸してくれてソファーに座らせてくれた。
右側のお尻が痛いので、左側に体重をかけて座る。
「それでは、ディアス様。ミリアム嬢をお預かりします」
「ヴァングラス様、くれぐれも!どうぞよろしくお願いします」
お父様がヴァングラスの肩に手を置いたが、力が入っているのは気のせいだろうか?
何かの気持ちがこもっているようだ。
「はい、肝に銘じます」
何を肝に銘じているのだろうか?
「ミリー、領地の方を確認したらすぐに戻ってくるから。それまでくれぐれも無茶はしないように」
「はい、お父さま」
お父さまがおでこにキスをして頭を撫でた。
「それでは行こうか」
私がどっこいしょと立とうとすると、ヴァングラスはすかさずお姫様抱っこをした。
昨日に続いて2回目なので、ヒャアなんて声をあげずに済んだ。
馬車にもそのまま乗った。
あれ?
ヴァングラスのお膝に乗っている?
私が小首を傾げていると、ヴァングラスがニコリと笑った。
「アザが痛いだろう?」
なるほど。申し訳ないけれど私はそのまま膝に乗せてもらうことにした。
確かに楽だった。
私はゆったりヴァングラスにもたれた。
アザが痛くて泣きそうだけど、何だか幸せだ。
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