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【電子書籍化】王太子が公爵令嬢に婚約破棄するのを他人事で見ていたら後日まさかのとばっちりを受けました  作者: 雅せんす


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カトレアとスーザン

僕は頓珍漢なのかもしれない…。

 今日ヴァングラスが帰ってくる。

 彼が盗賊討伐に出てから半月ほど経っていた。

 女官になってから、こんなに離れていたのは初めてだ。

 毎日無事を祈っていた。

 ドキドキとヴァングラスの姿が現れるのを待つ。


 いた!

 私は走り出していた。

 貴族令嬢として人前で走るなんてした事がない。

 でも、今だけ目をつぶってほしい。


「ヴァン様!!」

「ミリー!!」

 訓練場のど真ん中、私はヴァングラスに抱きついた。

 ヴァングラスもきつく私を抱きしめた。

 しばらく言葉も出ない。

 ああ、良かった。

 ヴァングラスだ。

 ヴァングラスが帰ってきた。


 ダパァと涙が出た。

「お帰りなさいませ」

「ただいま」

 ヴァングラスは優しく笑いながら私の涙を親指で拭う。


「お怪我はありませんか?」

「全然」

「少し、お痩せになりました?」

「少し痩せたかも。ミリーも少し痩せた?」

「ごめんなさい……それはないかもです」


 寂しくて心配だったのと、その他諸々で食に走ってしまった……何なら太ったかもしれない。

 クスクス笑ってヴァングラスはまた抱きしめた。

 その安心する胸にやっと私はへにゃりと笑った。





 * * * * * 





 1番目の血が繋がったお父さんは、顔だけは良く貧乏なくせに嘘ばかりついた。

 借りた金はちゃんと返すよ、お前を一番愛してるよ、あの女はただの友人だよ……お母さんはいつも嘘つき!とお父さんに怒っていた。

 明日お姫様みたいな服を買ってくるよ、今度遊んであげるから、美味しいお菓子をもらってくるよ……全部嘘。

 最後に、大好きだよ、すぐ帰って来るよと言ったのにとうとう帰って来なかった。

 私が5才の時だった。

 お母さんがお父さんは女を作って出て行ったと言った。

 お父さんなんて大嫌い。嘘つきは大嫌い。


 2番目のお父さんは、普通の農民。食べるには困らないし、お手伝いすると褒めてくれたからまあまあ好きだった。

 でも、お母さんは手が汚くなるのが嫌だったみたいで、妹を産んで数年したら別れた。

 私が10才の時だった。

 妹はお父さんのところに残った。


 3番目のお父さんは、イーギス商会のまあまあ上の方の従業員でお母さんが働かなくてもいいくらいに裕福だった。

 でも奥さんがいるらしくお母さんは愛人だそうだ。

 お母さんは綺麗な服を着て、ちょっと高価な宝石をつけて毎日ニコニコしている。

 見た目がウシガエルに似ているから私はあまり好きではないが、お母さん的には一番良いらしい。


 ゾルットとはお父さんに商会に連れて行かれた時に出会った。

 私が16才の時だった。

 彼は私に一目惚れしたようだ。

 まあ、私というよりは私の大きな胸?

 まだ恋人なだけなのに触ってくるからあまりいい気はしない。

 彼の自分本位なキスも本当は苦手だ。


 かろうじて貞操は守っているが、ゾルットはそれが不満なようで別れてもいいのかと迫ってくる。

 ギラついた目が怖くて気持ち悪い。

 しょうがないからお母さんを真似て、私はゾルットに媚を売る。


 ゾルットのお父さんに結婚を反対されて宙ぶらりんの二年間……。

 本当は分かっている。

 ゾルットは最初から私を愛人にするつもりなのだ。

 彼は結婚するならお貴族様って思っている。


 ゾルットはミリアムと結婚する気だ。

 彼女は婚約破棄された傷ありの伯爵令嬢である。

 そのうえ見た目も地味だから、平民とは言え、お金持ちで美貌?のゾルットを逃す訳にはいかないそうだ。


 だから、彼は私という存在を使ってお貴族様相手にマウントを取る。

 今のうちにどちらが上か分からせるのだそうだ。

 ()らして焦らして(あせ)らせて、しょうがないから結婚してやるって装って、結婚したら自分に従順に従うようにするらしい。


 私にはよく分からない……。


 でもゾルットはお金持ちだ。幸せのためだ。だから、今日も私は我慢する。


 女の幸せは男次第……お母さんの口癖だ。




 王城の女官になってひと月。

 私は地獄の日々の中、やっとミリアムと二人になれた。

 本当お馬鹿さんなお貴族様、プライドなんてさっさと捨ててゾルットに娶ってもらえばいいのに。

 どうせ婚約破棄された身では碌な結婚もできないんでしょ?

 孫もいる近衞騎士団長の後妻?可哀想。

 お金持ちだし、ゾルットの方が若いし良いじゃない。

 私も愛人だけど結ばれるし、みんな幸せになれるのに本当お馬鹿さん。




 私はこの頃やっと休憩時間は自由になったから、近衞騎士団で使えそうな男を探した。

 噂を流してゾルットと結婚するしかなくするのだ。

 見つけたのは侯爵家の男だ。


 ミリアムと揉めたみたいだしちょうど良さそうだ。

 ほら、すぐに乗ってきた。

 これで騎士団の方は大丈夫だろう。


 私は女官達に噂を広めよう。




 が、全くうまくいかない。


「あのぉ、ミリアム様は本当は次期イーギス商会長ゾルット様がお好きみたいなんですぅ。でも、無理矢理 近衞騎士団長に迫られて困ってるみたいですぅ。助けてあげられませんかぁ?」

 女官達が休憩室でおしゃべりしているところにお菓子を差し入れながら噂を流す。


「え?何言ってるの?確かに騎士団長様、果敢に落としにかかってたけど、あれは無理矢理って言わないで努力って感じだったでしょう?いや、ミリアム様の流し技は匠の域だったわぁ」

 そしてケラケラ笑われて流された。



 別の日も……。

「あれは泣けた!え?見てないの!?私たまたま訓練場に見学に行ってた時なんだけど、ミリアム様が団長様にハンカチを渡したのよ!!そしたら団長様こうミリアム様を抱きしめて幸せそうに笑ったのよ!努力は報われるのよ!あ、思い出しても泣ける!」

 周りでも女官達が涙ぐむ。

 意味が分からない!



 何で噂が広まらないの!?

 私はカリカリと親指の爪を噛む。


 それをスーザンはじっと見つめていた。



「カトレア様、明日近衞騎士団長様が帰還されるそうです。一緒に訓練場に見に行きませんか?」

 珍しい事もあるものだ。

 仕事以外のことをスーザンに誘われた。

「はい、お供します」

 何なのだろう?




 訓練場のど真ん中、ミリアムが走っている姿を見て仰天した。

 え?お貴族様も走ったりするの?

 違う、それほどミリアムは騎士団長に会いたかったのだ。


 そして2人は固く抱き合った。

 恥ずかしげもなく、みんなの前で抱き合うの?

 違う、それほどミリアムと騎士団長は愛し合っているのだ。


 以前ミリアムが百聞は一見にしかずと言っていた。

 その通りだった。

 どれだけ想い合っているかが良くわかった。


 誰も噂を信じない訳だ……。



「私は愛人でも良いからゾルット様と結ばれたいんです。だってお金持ちなんですもの。女の幸せは男次第なんです」

 誰に言うでもなくポツリと出た。


「……私は親同士の約束で、女にだらしなくて私を馬鹿にしてくる幼馴染と結婚する予定でした……」

 スーザンは訓練場に目を向けたまま話し始めた。

 私はじっとスーザンの横顔を見つめる。


「ミリアム様が女官として勤め始めたばかりの頃、婚約者もいなくて可哀想って意地悪を言ったことがあります。だって、婚約破棄されて辛いはずなのに、辛くなくてはおかしいのに、生き生きとしているんですもの。

私はあんな幼馴染とはいえ結婚できる。でもミリアム様は結婚できないかもしれない。私より可哀想じゃなきゃおかしいのに……。なのに私より楽しそうなんておかしいでしょう?そうしたらミリアム様、何と答えたと思います?」

 私は分からなくて首を横に振った。

 スーザンが私に目を向けた。


「もしあのまま結婚していたら?ってそれはひどい結婚生活を語るのよ!?まるで私の未来みたい。それから素敵なおひとり様ライフ!!自分で働いてお金を貯めて、素敵な家を建てて、好きな黄色い花を植えて、弟の子どもや孫と遊んで楽しく過ごすんですって。たまに、旅行に出掛けて美味しいもの食べてって……」

 スーザンの目からポロリと涙が出て、そして大きな口を開けて大笑いした。

 初めて見たスーザンの笑顔だった。


「速攻あいつに結婚しない宣言してやったわ!」


 スーザンがそっと手を握る。

「ねえ、カトレア。幸せは男次第じゃなくて自分次第じゃない?男なんかに頼らなくても幸せになれる選択肢もあるのよ?そのためにビシビシ女官の仕事を仕込んでいるのだから」


 私はスーザンの温かな手を感じながら、足元の地面がグラグラと揺れる気がしたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] スーザンだったのか(இωஇ`。) カトレア、あとちょっとかな……自分で乗り越えて自分の幸せを掴み取って(๑و•̀ω•́)و
[良い点] スーザン!あなただったのか!ミリアムの言葉に真理を悟ったのですね…よかったね…(意地悪言ったのは本人に通じてないのと、カトレアへのかなり大変そうな指導で手打ちだと思います。)
[一言] 金を持っててある程度自由に使わせてくれる男が相手なら間違っては無さそう
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