トンチンカンの頓珍漢
食に走ってしまった!
僕はエランシオ様があの地味な婚約者と婚約破棄をするのを止めなかったばかりに、長男なのに弟に後継ぎの座を奪われ、騎士団なんかに入るはめになった。
婚約者もさっさと婚約を白紙に戻してきた。
最後に元婚約者は真剣な表情で言った。
「いいですか?あなたは頓珍漢なのですよ。何事も一回お家の方に相談して行動する事。分かりました?」
「ああ、僕に未練があるって話だろ?今から婚約し直してやっても良いよ」
そう言ったら元婚約者は大きくため息をついて、去って行った。
父上に婚約破棄されたミリアムに責任持って謝れと言われた。彼女に許されるまで父上は許さないと。
よく分かった。
責任とってミリアムと婚約しよう。
そしたらミリアムに恐怖のどん底に叩き落とされ、父上には雷を落とされた。
今度は間違えないぞ。
黄緑色の髪の胸がでかい女がミリアムの話を持ってきた。
「ね、トンイザク様。ミリアム様はイーギス商会の次期商会長ゾルット様がお好きなのですわぁ。でも、お見合いで断られてヤケになってひと回りも上の後妻なんかになろうとしているのですわぁ。お可哀想でしょう?」
そうか、好きな男がいたから僕との婚約は断ったのか。ようやく納得できた。
「でも、ゾルット様は慈悲の心を持ってミリアム様を受け入れる事になさったのですわぁ。ミリアム様は貴族の体面も保てますし、好いたお方と結ばれて、幸せになれますわぁ」
確かに平民だろうと好きな男と結婚できればミリアムも喜ぶこと間違いない。
それを僕が手伝ったら?
きっと感謝されて、婚約破棄を止めなかった事も快く許してくれるに違いない。
そうしたら、父上も僕をまた嫡男に戻してくれるだろう。
「分かった。僕は何をすれば良いんだ?」
胸のでかいシップ臭のする女はニヤリと笑った。
「外堀から攻めるのですわぁ。周りの人達に、ミリアム様は本当は次期イーギス商会長ゾルット様がお好きだと噂を広めるのですわぁ。そうすれば近衞騎士団長はきっとミリアム様と距離をおとりになるはずですわぁ」
なるほど、それは良い考えだ。
近衞騎士団長とはちょうど盗賊討伐に出るところだったから実際会った事はないけど、調べたら年は33才でミリアムよりひと回りも上で、息子どころか孫までいる男みたいだ。
平民と言っても、年も近く金もあるゾルットの方が良いに決まっている。
うん、そうに違いない。
「私は女官の方に噂を広めるので、トンイザク様は騎士団の方で広めてくださいませぇ」
「了解した」
そうしてチンラダとカンボックにも言ってミリアムの噂を騎士団に広げようとした。
が、全くうまくいかない。
「なあ、だから!ハウネスト嬢は本当はイーギス商会の次期商会長が好きなんだよ!何だよ!?その目は!?」
「ああ、お前らが噂のトンチンカンかぁ」
みんながみんな何かを納得したような目で僕たちを見る。
「はいはい。お前らが元気なのは分かったから素振りあと1000回いけるな?はい、ファイト!」
何でだ!?
一向に噂は広まらないどころか、みんなが僕たちを見てヒソヒソ噂する。
何なんだ!?
「おい、お前!ハウネスト嬢はイーギス商会のゾルットが好きなんだ!お前も広めてやれよ!親子ほど離れた男の後妻なんて可哀想だと思わないのか!?」
確かこいつはラルフと言ったか?
ラルフは心底呆れたような顔をした。
「あのさ、トンチンカンは団長とハウネスト嬢が一緒のところ見た事ないんじゃないか?」
僕たちは三人で顔を見合わせて頷いた。
「三日後に盗賊討伐を終えられた団長が帰って来られるから見てみろ。それまで噂広めるな。さすがにお前らが気の毒だわ。今、お前らの頓珍漢な噂が騎士団内で笑いの種になってるぞ」
は?何で?僕たちの噂?トンチンカン?それはミリアムが言ったせいだろ?
「何で笑われてるんだよ!?」
「だから、団長とハウネスト嬢を見れば分かるよ。はい、元気そうだから50周ランニング〜。ファイト!」
何なんだよ〜!?
それから3日後、王城に帰還したヴァングラスを見た。
確かに年上だが25、6才くらいに見えた。思ったよりずっと若く見える。見目も整っている。
確かな強さに裏付けされた自信と余裕を感じさせる大人の男性って感じの人だった。
男から見てもかっこいい。
え?これがヴァングラス!?
そしてヴァングラスとミリアムの仲睦まじい様子を見て頭をガツンと殴られたような衝撃を受けた。
どこをどう見ても相思相愛の恋人同士じゃないか。
どこにゾルットが入る隙間が?
それを僕たちは、ミリアムは本当はゾルットが好きなんだとか言ってたのか!?
穴は!?穴はどこだ!?僕たちを埋めて隠してくれ!!
ふいに元婚約者の最後の言葉を思い出した。
「いいですか?あなたは頓珍漢なのですよ。何事も一回お家の方に相談して行動する事。分かりました?」
やっと彼女の言葉を理解できた気がする。
僕はもしかしたら、頓珍漢なのかもしれない。
彼女は最後の優しさとして忠告してくれたんだ。
これからはちゃんと父上に相談しようかな……。
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