ハウネスト伯爵家の家訓
残ったのは幸せいっぱいのアルトバルトとエランシオとポアラと、床の無数の折れた扇子。
"地獄に堕ちろや"
ハウネスト伯爵家のタウンハウスに馬車が着くと、執事のセバスチャンが出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、お嬢様。学園からそのまま王城に向かわれるご予定かと思っておりましたが、いかがなさいましたか?」
できる初老の執事セバスチャンは何かあったと感じているだろうが、おくびにも出さず穏やかに尋ねてくれた。
私は馬車の中でわざと崩した薔薇を模した明るい黄色の髪飾りを見せた。
「髪飾りが崩れてしまったの。幸い卒業式が予定より早く終わったので慌てて帰ってきたのよ」
王太子の婚約破棄なんて間違いなく極秘事項で周りに漏らせない。
体の脇で3分開きの扇子をバサバサ振る。
"緊急!大至急!"
それを見たセバスチャンはピクリと右眉を動かした。
「それは大変でございました。ああ、旦那様と奥様は王城に行く準備も終わりお茶をされていますが、先にご挨拶なさいますか?」
私はニコリと微笑んで頷いた。
* * * * *
「……と言うわけでして、王太子殿下と公爵令嬢コーネリア様は婚約破棄となりました」
普通の栗色の髪に、大きくも小さくもない普通の濃い焦茶の二重の目に、程々に通った普通の鼻筋の普通に中肉中背の、みんなが普通の容姿と言われて思い浮かべるであろう普通中の普通のお父さまは、ピョと謎の言葉を発して息をつめて固まった。
ちなみに私はお父さまの容姿にそっくりだったりする。
「えーと、ハウネスト家としてはどんな感じでいきましょう?」
お父さまの隣に座っていたお母さまが扇子でお父さまをつつく。
お母さまは淡い金の髪に優しい緑の瞳の可愛らしい容姿をしていて、弟のリクトはお母さまに似ている。
やっと息を吐いたお父さまは真面目な顔で私を見つめた。
「ミリー、我が家の家訓は覚えているな?」
私はハッとしてお父さまを見つめた。
「川の流れに身をまかせです」
お父さまは噛み締めるように大きく頷いた。
「そうだ……モダカが川の流れに逆らえるか……。もちろん否だ……我が家はモダカだ。流れには逆らわず、流れに身をまかせ、行き着くところでがんばればいいんだ」
モダカはメダカによく似ている魚で、メダカと違って川の流れに乗ってどこまでも流れて行っちゃう魚だ。
で、流されたところで適応して生きるタフな魚でもある。
願わくば、我が家もそうでありたい。
私たちはお互いの顔を見合わせゆっくりと頷き、深い笑みを浮かべた。
そう、モダカの如きハウネスト家が考えるだけ無駄なのである。
いいねとブックマークと評価をありがとうございます!
一昨日いいねに気づきハワワとなり、ブックマークに気づきアババと喜んでいました。
そして昨日、投稿するとこの"小説情報を見る"をポチッとすると、いいねとブックマークと評価が見られる事に気づきました。
不慣れですみません…。
それまでは自分を検索して出して小説情報をポチッとして見てました。
評価をくださった方、お礼が遅くなり申し訳ありません。
とてもうれしかったです。
本当に本当にありがとうございます!
⭐︎2024.3.14 メダカ→モダカに直しました。
何と!メダカは川の流れに逆らうお魚だったのです!
ご感想で教えていただきびっくりでした。
で、代わりのお魚を探したのですが見つからず、この世界オリジナルのモダカを作りました。
この作品にとって、メダカのエピソードは大事な要素で削る事ができず、苦肉の策ですが優しく受け止めていただけると嬉しいですm(_ _)m