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不穏な空気

旦那様の嬉しそうな顔に、みんな目が潤むのだった。

 何て平和な日々を送っていたのに、まさかの出来事が起こってしまった。



「カトレアですぅ。よろしくお願いしますわぁ」

 王城の女官として、次期商会長様の心を鷲掴んでおられるお胸バインのカトレアが現れたのだった。


 何で!?


「ミリアム様、いろいろ教えて下さいませねぇ」

 目が合うと親し気に微笑まれた。

「あら、ミリアムの知り合いですの?ではミリアムにお仕事を教えてもらうように致しましょう」

 下級女官長がとんでもない事を言い出した。


 その時パトリシアがすかさず手を挙げた。

「下級女官長様、発言よろしいでしょうか?」

「どうぞ、パトリシア」

「ありがとうございます。ミリアム様ですが、まだ女官になって半年も経っておりません。荷が重いかと思います」

 パトリシア!ありがとう!!


「そうね……ではスーザンに頼みましょう。同じ平民ですし、聞きやすいでしょう」

「はい、かしこまりました」

 スーザン、ごめんね、ありがとう!!後で、何かお菓子を差し入れするからね!


 カトレアは不快そうにちょっと顔を歪めたが、それは一瞬の事でスーザンの手を握ると明るい笑顔を向けた。

「スーザン、よろしくねぇ!」

「はい、よろしくお願い致します。カトレア様、少々言葉が崩れているように感じます。お気をつけください。ではまず、王城を案内致しますね」

「……はい」

 そう、今はお仕事の時間内で下級女官長の前だからね、言葉はきちんとしないとね。




 私はいつも通りパトリシアと担当の場所に向かった。

「パティ、本当にありがとう!!」

「どういたしまして。でも、何で彼女は女官になってるの?」

 私は首を横に振る。全く見当もつかない……。

「私はもう関わりたくないわ」

「うん、目的は分からないけど気をつけるに越した事はないわ。できるだけ私も一緒にいるようにするからね!」

「ありがとう。心強い」

 パトリシアには感謝しかない。


 ふと外を見ると灰色の雲が重く広がっていた。

 これから雨が降るのだろうか。


 何となく不穏な空気を感じた……。



 * * * * * 



 その存在を不気味に感じるものの、スーザンが女官の仕事を教えるのにつきっきりだし、私もパトリシアと共にいたので幸いまだ接触されていない。

 話を聞いたヴァングラスは心配して、帰りに加えて行きも迎えに来るようになり、安心して過ごせていたのだが……。





 しかし……嫌な事は続くものだ。

 以前の盗賊討伐が思ったより根が深かったようでヴァングラスも行かなくてはいけなくなってしまったのだ。


 明朝には出立する事になっている。ゆっくり挨拶ができるのは今だけだ。

 夕食を食べた後はいつもはみんなでのんびりするのだが、今日は私の部屋で二人で過ごさせてもらった。


「ミリー、本当に気をつけて……」

「ヴァン様こそ、どうかお怪我などなさらぬようお気をつけください」

 私は閉じた扇子を左手で持ち右手の甲を一回撫で、左の胸に当てた。

"心配です"

"寂しいです"


 ヴァン様は私をそっと抱きしめ、安心させるように背中を優しく撫でた。

 私もヴァングラスの背に手を回し、ヴァングラスの胸にピトリとくっつく。

 寂しくて心配で不安でたまらないのだ。


 ああ、このままヴァングラスの胸にすっぽり包まれていたい。

 もし、ヴァングラスが怪我をしたらと思うと、不安で泣きそうだ。

「ミリー、私は大丈夫だ。私の強さは知っているだろう?」

「はい……」

 ヴァングラスが私の目を覗き込むように言ったが、私の目からは今にも涙が溢れそうだ。


 そのままもっとヴァングラスの顔が近づいた。

 チュッと軽い音が響いた。


 え?


 今!!



 口のすぐ脇!ほっぺにチュッってした!!





 ヴァングラス達が出立するのを、パトリシアとラルフと2階の観覧席から見送りながら、ふと昨日のほっぺにチュッを思い出してしまった。

 ほっぺにチュッてヴァングラスの顔が!目が!鼻が!すごい近かった!

 それでそれで、ヴァングラスの唇は柔らかくて温かかった気がする。

 あと1センチずれてたらヴァングラスの唇が私の唇に……。

 キャー!!



 その時、後ろから嫌な感じの視線を感じた。

 振り向くと、そこには見覚えのある三人がいた。

 エランシオの取り巻きだった、トンイザクとチンラドとカンボックだ。


 あの笑撃の婚約破棄の時、私の地味ドレス姿をいたくお気に召し、お笑いになりやがった三人だ。

 私は密かにトンチンカンと心の中で呼んでいた。

 名は体を表すとはよく言った物だ。


 よし、気づかなかったことにしよう。


「パティ、仕事に戻りましょう。ラルフ様、ではまた」

 さあさあ、私は何も見なかった。


「おい、今、目が合っただろうが!?」

 うわ、声を掛けてきやがりました……。


 私は今気づいたという表情を作ってから、にこやかに微笑んだ。


「まあ、目が合っただなんて気のせいですわ。お久しぶりでございます。お元気そうでなによりですわ。では、仕事に向かいますので失礼いたします」


「待て待て」




いいね、ブックマーク、評価をありがとうございました。


なぜほっぺ?…それはヴァングラスが部屋のドアをちゃんと少し開けてミリーと二人で過ごしていたからです。そしてその隙間からミリーパパが心配して覗いていたようです。ほっぺならギリセーフ?

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[気になる点] 婚約破棄のエピローグで女官は侯爵以上の紹介状がないと難しいらしいってあったのにカトレアはどうやって女官に?
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