ヴァングラスとデート 後編
2人でアーンをしあってサンドパンを食べました。
ヴァングラス果敢に攻めます。
アーンをした効果なのか、自然な動作で私はヴァングラスに手を繋がれた。
これはアーンした私がいよいよお孫さんに見えたのだろうか……?
でも、私の手がすっぽりおさまってしまう大きな手が何とも心地良すぎる。
何でしょう……この安心感。
私たちはそのまま手を繋いで、お店に入った。
お店の中は様々な文房具や小物、髪飾りなどが置かれていて目に楽しい。
「ヴァン様はワダスティルくんにプレゼントですか?」
「そう。でも、先にリクトくんのプレゼントを選ぼう」
「いえいえ、先にワダスティルくんのを選びましょう」
「いや、リクトくんのを先に……」
結局、お互い引かないのでどちらが先には置いといて、いろいろ商品を見て決める事になった。
「ワダスティルくんはお花が好きなんですよね」
「うん。リクトくんは学園の2年生だよね」
「はい」
2人であーでもない こーでもないといろいろな商品を見ていくのは思いのほか楽しい。
お店の中は外より狭いので、自然とヴァングラスとの距離も近い。
お互いの体温を感じられるこの距離に心拍数が半端なく上がるものの、すごくすごくうれしくて心がふわんとなる。
「リクトくんにこの万年筆はどうかな?」
「素敵です。リクトが好きそうなデザインです。ワダスティルくんはこのクレヨンはどうでしょう?」
「いいね、花の色から作られたクレヨンなんだね」
リクトとワダスティルくんのプレゼントはお互いが選んだ物に決まった。
2人で良い買い物ができたねと顔を見合わせてニコリとして、私は先にお会計を済ませた。
ヴァングラスがお会計をしていると、お店が混んできたようだ。
従業員がチラチラと私を見る。
私はヴァングラスに声をかけて、お店の外で待つ事にした。
それが出没したのは店の外に出た時だった。
「あなたは本当にいい加減にしてください」
"二度とその顔見せるな"
残念ながら扇子言語に難がある次期商会長様は調べなかったようだ。
目の前にいた……。
「ミリアム嬢、こんな事はやめてください。わざわざ私の気を惹くために男の人と店に来たのですか?迷惑です。こんな事をしても、私はカトレア以外目に入りません。お忘れくださいと言ったはずです」
多分私は今 死魚目になっているだろう。
そうか、このお店はイーギス商会のお店だったのか……。
私も本当迷惑だよ。
どうぞカトレア以外、目にしないでくれ。
私の事は目に入れないで欲しい。
大丈夫、今の今までその存在は地面のアリよりも認識されてなかったから。
そしてこれからも覚える気は皆無だ。
それにしてもここは往来だ。
伯爵家令嬢としてこれはまずい。
貴族は面子を保ってなんぼだ。
「まあ、次期イーギス商会長、私あなたに名を呼ぶ許可をした覚えがないのですが、私が忘れているだけでしょうか?」
私は左手で扇子を開き下から上へスナップをきれきれにバサバサあおる。
"不快〜、不快〜、超不快〜"
「い、いえ、失礼いたしました。ハウネスト嬢」
不満気な謝罪に、私は顔に微笑を貼り付け、左手で持った扇子をゆっくり右に45度傾けた。
"絶許"
ちょうどヴァングラスが店から出て来た。
この様子に何事か察したのだろう。
私の側に来ようとしてくれたが、私は目で止める。
これはハウネスト伯爵家の面子の問題だからね。
相変わらず、扇子言語に難ありの次期商会長様は私が微笑んだのを見て許されたと思ったご様子だ。
いや、許さないよ?
不敬な態度は2回目な上に、貴族令嬢の面子を潰すような発言を往来でされたんだからね?
「私びっくりしてしまいましたわ。ただ頼まれてお見合いをしただけの赤の他人の方が、知り合いのように急に声をかけてくるのですもの。ごめんなさいね、名前も知らない方。私がこの店に来た事がご不満だったのかしら?安心なさって。二度と……」
貴族令嬢がお前の店なんか二度と来ねぇ発言したら、その店にはもう他の貴族は来なくなるだろう。
まさに言い終わるその直前……
「申し訳ありませんー!!」
何かが美しいスライディング土下座した。
つるりとした頭頂部がキラリと光る。
「お嬢様、本当に申し訳ございません。倅は今高熱で頭がおかしいのです。どうか、どうか、この先の短い私に免じてお許しくださいー!!」
お父上の商会長様が登場したようだ。
見るに、次期商会長様はお母上様似らしい。
小太りで年はまだ50代くらいの商会長様はまだまだ先はありそうだが?
「父上!?」
そうこうしているうちに体格の良い従業員が次期商会長様を抱えて消えた。
商会長様はビシーッと土下座を続ける。
何となく土下座に慣れている雰囲気を感じるのは気のせいか……?
うーん、多額の寄付の件もあるし、ここまで派手に謝罪されると許さざるをえないか。
「あら体調がお悪いならしょうがありませんわね。どうぞ、お大事になさって」
私は鷹揚に頷いて、右手で持った扇子を半分開いて水平に上部分を商会長に向けた。
"次はない"
商会長様は大袈裟にありがとうございますーと叫びながらお店に帰って行った。
何となく狸を感じさせる商会長様だ。
「ミリー、行こうか」
「はい、ヴァン様」
ヴァングラスは優しく私の手を取る。
私はやっと体の力が抜けたような気がした。
本当何でしょう、この安心感……。
その後は手を繋いでブラブラと街をお散歩した。
ヴァングラスは手を繋いでもエスコートがうまい。
人混みを歩いても私は全く歩きにくさを感じないのだ。
前から人が来るとぶつからないよう、すっとヴァングラスが私の前に出たり、さりげなく場所を変えたりとしてくれる。
ヴァングラスと一緒ならきっと目をつぶっても安心して歩けそうだ。
特に目的もなく、ただブラブラ街中を歩くだけなのにヴァングラスと一緒だとずっと楽しい。
歩きながらおしゃべりしても楽しいし、ふと沈黙が流れてもそれすらも心地良いのだ。
目が合うと微笑み合って、同じ物を指差しては笑ったり驚いたり……こんなに楽しい時間があるなんて知らなかった。
しかし、楽しい時間はあっという間だ。
「もうすぐ暗くなってしまうね」
「はい。残念です」
もっとヴァングラスといたかった。
私と同じようにヴァングラスも思ってくれてたらうれしい……。
「ミリー、これを」
タウンハウスに着いて、ヴァングラスは私に小さな包みを渡した。
あのお店のとは違う包みだ。
私は小首を傾げる。
「開けても良いですか?」
「もちろん」
そっと包みを開けると、金色にヴァングラスの瞳の紅とよく似た小さなルビーが三つ並んだ髪留めが出てきた。
シンプルなので女官のお仕事する時にも使えそうだ。
「素敵です!ありがとうございます!明日から毎日付けます!」
私は大事に胸に髪飾りを抱きしめる。
「良かった」
ヴァングラスはそっと私の頬に触れた。
しばらく私とヴァングラスの視線が絡み合う。
「ゴホン、ゴホン」
慌てて距離をとる。
お父さまだ……。
ヴァングラスはひとつ咳払いをしてから、お父さまと私に挨拶して帰って行った。
その夜はベッドで髪留めを見てはキャーとなり、あの時お父さまが来なかった先を想像してはキャーとなり……、寝返りコロコロして寝たのだった。
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