ヴァングラスとデート 前編
ミリアムの人生初のデートです!
何とか急なお茶会のお手伝いも終えて、いそいそとタウンハウスに帰ると、中からお父さまの楽しそうな笑い声が聞こえた。
どなたかお客さまが来ているのだろうか?
急いで用意しないとヴァングラスが来てしまう。
私はルルに女官用のお仕着せから、薄い水色に小さな花の模様のくるぶし丈のワンピースに着替えさせてもらった。
裾のレースが可愛らしい。
髪は下ろして癖っ毛の毛先を内側にくるりと整えてもらう。
今日は街にお買い物だから、ちゃんと心得ているルルは貴族貴族してない街娘風にしてくれた。
もちろん扇子も持つ。貴族淑女の嗜みだ。
お化粧も直してもらったので、いつヴァングラスが来ても大丈夫だ。
「ルル、お父さまにお客さまが来ているようだけどご挨拶した方が良いかしら?」
「ご挨拶も何も、旦那様とお話しされているのはトルード辺境伯です。少し早く着いてしまったそうです。ミリアム様を急がせては申し訳ないとお知らせしないようにおっしゃられました。お優しい方ですね」
ルルがニコニコと言った。
ヴァングラスがもう来ていると!?
私が慌て客室に行くと、ちょうどお父さまとヴァングラスが握手をしているところだった。
随分仲良くなった様子だ。
「ヴァン様、お待たせしてしまい、申し訳ありません」
「いえ、こちらこそ少し早く着いてしまい、急がせてしまって申し訳ありません。髪を下ろした姿もとても可愛らしいですね」
ナチュラルに誉めてくれるヴァングラスにもの凄く心がむずむずする。
お孫さんを褒めるのと同じ感覚なのだろうが、好き!と意識した私にはトスッと刺さる。
「あ、ありがとうございます」
私は俯いて赤くなった顔を隠す。
何だかお父さまとルルがニヨニヨしているのを感じる……。
「では、ディアス様。お嬢さんをお借りします」
「ヴァングラス様、娘をよろしくお願いします」
お父さまがニコニコ言った。
「じゃあ、ルル付き添いお願いね」
いつものようにルルに頼む。
「ヴァングラス様がいるのだから、ルルの付き添いは不要だろう?」
「ミリアム嬢、私と2人では不安ですか?」
ヴァングラスと2人……?
2人でお出かけ……?
それってまるでデートみたい……?
ボボボッと赤くなった顔を私は扇子を開いて隠し、右の人差し指でトトンと扇子を叩いた。
"嬉しいです"
* * * * *
ヴァングラスの手を借り馬車から降りると、すかさず腕を差し出されエスコートを受ける。
馬車の中では二人きりでドキドキしたが、紳士的な距離で隣に座り、お孫さんの話をしているうちにあっという間に街に着いてしまった。
ちなみにお孫さんはワダスティルというお名前で、お父上にそっくりで、そのお父上であるヴァングラスの息子ヒューゴはヴァングラスにそっくりだそうで、ワダスティルはミニヴァングラスなのだそうだ。
何それ、見てみたい!
「まずは何か食べようか」
「はい、お腹ペコペコです」
「サンドパンを買ってそこの噴水前のベンチで食べるのはどうかな?」
今日は天気が良く風も心地よい。
「良いですね!」
私たちは早速サンドパンを買いに行く。
ヴァングラスはタンドリーチキンとレタスのサンドパン、私はハムとトマトのサンドパンにした。
2人で並んでベンチに座ると、私はいつものように半分にして差し出した。
「ヴァン様、はい、どうぞ」
キョトンとするヴァングラスを見て間違ったことに気づいた。
「すみません!間違えました!つい いつもの癖で……」
焦る私の前でヴァングラスもサンドパンを半分にしてニコニコと差し出してきた。
「はい、どうぞ。あ、でも、両手が塞がってしまってるね」
何と、ヴァングラスが私が差し出していたサンドパンにパクリとした。
「うん、美味しい」
ニコリと良い笑顔だ。
これはアーンというやつでは?
いや、両手が塞がってるからしょうがないのか……?
多分、私は半分頭がパニクッていたのだろう。
ヴァングラスの差し出すサンドパンにアーンをして、最後まで交互にアーンで食べたのだった。
食べ終わって正気に戻った私は、アリになって巣穴に籠りたいくらいキャ〜となった……。
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