王太子殿下のお幸せをお祈り申し上げます
床にはポツンと折れたコーネリアの扇子が落ちていた。
"地獄に堕ちろや"
婚約破棄現場である学園の講堂は、学園長を始め30人近くの教師陣と、卒業生50人程の生徒たちがいるはずなのに水を打ったようにしんと静まりかえっていた。
心なしか空気がひんやりしている。
床に落ちているコーネリアの折れた扇子から何か黒いモノが出ているように感じるのは幻だろうか……。
「兄上!おめでとうございます!」
そんな沈黙を破ったのは側室腹の第二王子エランシオだった。
残念な事に私、伯爵令嬢ミリアム・ハウネストの婚約者殿である。
性格を表すようにねじれている暗い緑の髪はゆるく編み後ろに束ね、上昇志向のお強いアグレッシブなお母上様とよく似た蒼い瞳、薄い唇は常に微笑んでいるが頬の表情筋は全く働いていない我が婚約者エランシオは、アルトバルトと数ヶ月違いの異母弟であり、またタイプの違う美形であった。
この張り詰めた空気をモノともせず、いつの間にか壇上に上がり珍しく心からの笑みを浮かべアルトバルトと握手をしていた。
今が動くチャンスである。
この卒業式の後はタウンハウスに帰る事なく、そのまま王城で卒業パーティーとなる。
両親たちとは王城で合流する感じだ。
でもまさかの王太子とコーネリア様とのいきなりの婚約破棄。
コーネリアの父ピアネス・レシャールカはソルリディア王国の宰相であり、己の心に真っ直ぐな国王バラドクスに代わって実質この国を取り仕切っている御仁である。
だからこその王太子とコーネリア様の婚約だったのにまさかの婚約破棄……。
卒業パーティーの前に、この婚約破棄を伝えて今後のハウネスト家の方向性を確認しておかないと卒業パーティーで動きようがない。
私だけでなく女子生徒は一斉に立ち上がりカーテシーをとった。
「王太子殿下のお幸せをお祈り申し上げます!」
卒業式でやるはずだった呼びかけ(発案ポアラ、実行アルトバルト) のように声を揃え、私たちはにこやかな笑顔と共に速やかにその場を去る。
先生方や男子生徒たちもハッとしたようにバラバラとあとに続いた。
講堂に残ったのは壇上の幸せいっぱいのアルトバルトとエランシオとポアラの3人と、床に散らばる無数の折れた扇子……。
" 地獄に堕ちろや"
びっくりしました!
いいねとブックマークをありがとうございます。
とても嬉しかったです。
嬉しすぎて鳥肌たちました!
本当に本当にありがとうございます泣