お茶会の補佐の補佐
さすが歴戦の猛将ヴァングラス、ミリアムが落とされる日は近そうだ。
早く帰りたい時に限って、なかなか帰れないなんて事はよくある事だ。
午後はヴァングラスとのお出掛け、早く帰るぞと意気込んでお掃除していたのに、女官長様に呼ばれて上級女官の補佐の中級女官の補佐をする事になってしまった。
補佐の補佐って何!?
とりあえず手が足りないところで、女官長様は私と目が合ったのだろう。
コーネリアのお茶会のお手伝いだ。
早く帰りたい気持ちはしまい込んで、気合を入れる。
コーネリアとご令嬢方が五名ほど、オホホ、ウフフとやる脇で私は黒子のつもりで上級女官がお茶を淹れる補佐をする。
こういうのはタイミングと予想が大事って習った気がする。
お茶会全体と補佐に付いている上級女官に気を配りながら、補佐をしていると、なぜかご令嬢方の会話が不穏な方へと流れていった。
「コーネリア様は古い茶器は早々に忘れ、新しい茶器ばかり大切にされるのですね」
場がひんやりする。
何を喩えているかは明白だ。
他国に嫁いだ2つ年上の元公爵令嬢ナタリーだったか。
確か、アルトバルトと はとこ同士で仲が良かった方だった気がする。
あの婚約破棄を知らないのだろう。
周りのご令嬢方はさすが高位の方々、顔色を変えず薄っすらと微笑んでいる。
しかし、右手で一部開きの扇子をナタリーに向けピルピルと振るのを見るとその内心がよく見える。
"やめときなよ〜"
こういう時に頼りになりそうな女官長様はちょうど外している。
一緒にいる上級女官さんと目が合う。
どうしましょう?
女官が口を出す訳もいかないし……。
いや、冷静に考えてみよう。
私に何ができるか?
私より遥かに優秀なコーネリアを私が助ける?
いやいや、コーネリアならご自分で切り抜けられるだろう。
逆にコーネリアに無理な事が私に可能か?
無理でしょう。
私ができる事……大丈夫と信じて心で応援する事だ!
ふと、コーネリアと目が合ったので信じております!と念を込めて見つめておいた。
上級女官さんは場の空気を変えるべく、新しい香りのお茶を淹れ始めた。
はい、全力で補佐いたします!
私は私ができる事をいたします!
コーネリアはおっとりと笑み、閉じた扇子でパンと右手のひらを叩いた。
"その喧嘩買った"
「古き茶器には古き茶器の趣きがございます。ただ、私は新しき茶器のまろやかな優しい味わいを愛しく思っておりますの。そうそう、ナタリー様の旦那様は古き茶器を大切になさるお方でしたわね。きっと今頃は古き茶器で芳しい香りを楽しんでいることでしょう」
コーネリアは今頃あんたのダンナは昔馴染みの愛人とよろしくやってるんじゃねとお返し遊ばされた。
「もしや、我が国から送られた新しき茶器はお気に召されなかったのかしら?角の尖りがお気にさわられたのでしょうか?残念ですわ〜」
そしてコロコロと軽やかにお笑い遊ばした。
あんたカリカリうるさいから嫌われるのかね〜、残念!笑
「わ、私、体調が優れませんので失礼いたしますわ」
そう言って肩をいからせたナタリーは足音も荒く退出して行った。
その後は和やかにお茶会が進み、無事お開きになったのだった。
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お茶会の補佐の補佐はヴァングラスがミリアムパパにじっくりご挨拶をするために、宰相経由でお願いした事です。
宰相もちょうど良いと引き受けました。





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