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何かブワ〜ときてしまっている!?

"二度とその(つら)見せるな"


扇子言語に不自由な次期商会長様が、その意味を調べて理解するのを祈るばかりである。

 結局あの後、お父さまは速やかにあの2人をタウンハウスから追い出し、プンスコ怒ってイーギス商会長宛に抗議の手紙を出したらしい。

 本来なら貴族への不敬罪に問うても良いところだが、多額の寄付に免じたらしい。

 お父さまからひたすら謝られた。




 そして、一夜明けて沸々と怒りが込み上がった私は、午前中は王城の廊下をザシザシとモップで磨きまくった。

 そんな荒ぶる私から昨日の死魚目のお見合い話を聞いて、パトリシアもモップでザシザシと磨きまくったので、私たちが掃除した廊下はピカピカだ。

 たまたま通りかかった女官長様にお褒めの言葉をいただいてしまったほどだ。

 お陰で気分爽快だ。



 午後の休憩時間にパトリシアに誘われて騎士の訓練場に見学に行くことにした。

 パトリシアは私の気分転換にと誘ってくれたのだろう。

 騎士の訓練場には婚約者のラルフの応援に行くパトリシアに付き合って何回か観に来ている。

 普段と違う鋭い目つきで模擬剣をふるうヴァングラスは、いつも相手をガンガン攻めあっという間に倒してしまって、とにかく強くてかっこいい。


 今日も訓練場の2階の高さにある観覧席にはたくさんご令嬢方が来ていた。

 女官の中には、侯爵以上の高位の爵位の方とツテのある裕福な平民や、貴族でも次女以下で婚約者がいない子女がいる。

 彼女たちは見習い騎士や騎士を狙って熱い視線を送っていた。

 貴族でも家を継げない次男以下や、平民男子でも騎士爵が取れるので、彼女たちの絶好の獲物であろう。

 見習い騎士であっても、モテモテである。

 もちろん私は相手にされる訳はない。


 婚約者や夫の応援に来ている貴族女性もまあまあ来ていた。

 そんな中に珍しい方を見つけた。

 訓練場を見ると新王太子殿下がいたので、コーネリアも見学に来ているのだろう。

 2人は仲が良いとすこぶる評判である。


「コーネリア様、お久しぶりでございます」

「まあ、ミリアム様、ご機嫌よう」

 コーネリアは柔らかく微笑んだ。

 以前より雰囲気が和らいでいるように感じる。

 やっぱり、某前王太子はストレスだったんだろうな……。

 私も某自称王太子と別れてストレスフリーになったから分かります。


「王太子殿下の訓練の応援ですか?」

「ええ、ドルリチェ様が剣を持つところを初めて観ましたわ」

 そう言って王太子殿下を見つめるコーネリアの頬がポポッと赤くなり、そそっと扇子で顔を隠す。


「あら?もしかして、ミリアム様は女官をされているの?」

 コーネリアは私の女官姿に気づくと目を丸くした。

「はい!宰相様に推薦状を書いていただきました」


 そんな私にコーネリアは不思議そうに首を傾げた。

「お父さまはミリアム様にどなたかと縁談をご用意するとおっしゃっていた気がするのですが……?」

「私は婚約破棄をされた身ですし、しっかり手に職を持ちたいと思いましてお願いしたのです」

「そうでしたのね」

 コーネリア様はふと考える仕草をされたがニコリと頷かれた。


「ミリー!」

 観覧席の下からヴァングラスがうれしそうに手を振っていた。

 隣でラルフもパトリシアに手を振っていた。

「ヴァン様!」

 私もニコニコ手を振り返した。


「それではコーネリア様、失礼いたします」

 私はコーネリア様に挨拶すると、パトリシアと一緒に下に降りて訓練場の端の休憩スペースでヴァングラスたちと合流した。


「明日はお約束を午後からにずらしていただいて、申し訳ありません」

「いや、大丈夫だけど何かあったのかい?」

「実は昨日お見合いがありまして、午後からお休みを取ったんです。その代わり明日の午前中は仕事になってしまいまして……」

 ヴァングラスは、鞘に納めようとしていた模擬剣をガシャリと落とした。


「大丈夫ですか?」

 私は慌てて剣を拾いヴァングラスに渡した。

 こういううっかりな姿を見れると可愛らしく感じてしまう。と、思っていたらヴァングラスに両肩をがしりと握られた。


「お、お見合いをしたのか!?」

「え、はい。ですが、お父さまが御恩があるので受けただけのお見合いですので、すぐお断りしました。お相手の方も別にお好きな方がおりましたし」

 そう、隣におりましたしね……。


 ヴァングラスは安心したように息を吐いた後、ルビー色の瞳がじっと私を見つめてきた。

 こんな至近距離でヴァングラスの顔を見るのは初めてだ。

 優しげな垂れ目がちの綺麗なルビー色の瞳には熱があるように感じ、男らしい頬や柔らかそうな唇に目が離せなくなる。

 両肩を握られたままなので、吐息が前髪にかかってドキリとした。

 ヴァングラスの仄かに香る汗の匂いや手の熱を感じるとクラクラしてしまう。

 クワ〜と顔が赤くなるのを感じる。

 恥ずかしい!違うんです!男の人をこんな至近距離なんて慣れてないからなんです!


 誰にともなく言い訳をしてしまうが、もうごまかせないだろう。

 初めて会った時からめっちゃ好みだし、しゃべると楽しいし、一緒にいると温かい気持ちになるし、筋肉素敵だし、優しいし、大人だし、かっこいいし、奥様いらっしゃらないって聞いてしまったし……何かこう今、抑えてた気持ちがブワ〜ときてしまってる!?


「ごほん」

 とすぐ隣から咳払いが聞こえ、ハッとしてヴァングラスから離れる。

「失礼した」

「いえいえ」

 ヴァングラスは右に視線を逸らして言うのに対して、私は左に視線を逸らして答えた。

 まだ顔が熱い……。

 パトリシアとラルフがニヤニヤしてる。


「ええと、ミリーのお父上はいつまでこちらに?」

「明後日までこちらのお仕事を終わらせて領地に帰る予定のようです」

「なるほど……。明日だけど、ミリーをタウンハウスに迎えに行っても大丈夫かな?お父上にも出掛ける前にご挨拶しておきたいんだがどうだろう?」

 あ、挨拶!?

 いやいや、違う違う。私と出掛けますの挨拶だ。

「はい、大丈夫です。父に伝えておきます」


 どうしよう!明日が楽しみで寝られないかもしれない!













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