妖精さんがいた
何となく恋になる前に失恋したような気分を味わったのだった…。
ヴァングラスに驚きのお孫さんがいたと分かった後は、お孫さんのお話で盛り上がり茶会室まで楽しくエスコートしてもらった。
今からリクトに孫ができるのが楽しみだ。
さあ、いよいよ茶会室に着いた。
ルルは茶会室の隣の待機部屋で待機となる。
ヴァングラスのお陰でのんびりリラックスしていた気持ちを引き締める。
そしてエスコートされ茶会室に入ると…そこに妖精さんがいた。
何を言ってるの?と思うだろう。
でもいるのである。
顎のラインで揃えた淡い水色の艶々サラサラの髪に、憂いを帯びたアクアマリンの瞳、桜の花びらのような唇の儚げな妖精さんが立っているのだ。
え?隣に宰相様!?
あ、隈がひどい…。宰相様も大変だったんだろうな…。
などと思いつつ、私は反射でカーテシーをとった。
お辞儀の角度は最高位の90度、ひたすら声がかかるまでそのままで。
「楽にせよ」
お声がかかり頭を上げると妖精さんが無表情に宰相様を見た。
「ハウネスト嬢、陛下のお茶会にようこそいらっしゃいました。どうぞ、お座りください」
丁寧な口調で宰相様が椅子を勧めてくださった。
「ご尊顔を拝し恭悦でございます。ハウネスト伯爵家が娘ミリアムにございます。このたびはお招きありがとうございます」
私はお礼を述べて簡易のカーテシーをとり、ヴァングラスが引いてくださった椅子に優雅に見えるように体幹を意識して座った。
ヴァングラスは、壁際に立つ騎士の隣に並びこのまま護衛の任につくようだ。
宰相様がヴァングラスを見て、何故かニヤッと笑った…?
妖精さんに驚いて部屋の中をよく見ていなかったが、テーマは妖精の花園ですかって感じで花が溢れている。
テーブルには可愛らしい花の形のクッキーから色とりどりのフルーツのタルト、他にも砂糖花びらを散らしたケーキや葉っぱの形のマドレーヌ、そしてその真ん中にはまさに主役といった真珠色の薔薇のオブジェが飾られていた。
薔薇には光を含んだようなキラキラと透明感のある赤や黄、オレンジの色が朝露のように付いていた。
思わず惚けてしまう程美しかった。
宰相様が妖精さんを見た。
「国王バラドクス・ソルリディアである。このたびは愚息エランシオの失礼を謝罪する」
何と!?この妖精さんは王様!?
滅多に人前に出ないし、いたとしても遠くからしか見た事がないので全く分からなかった…。
私にとっては、この距離で王様と会うのは妖精と同じくらいの遭遇率だ。
全く仕事をしないのも、妖精さんだから良いのかもと妙に説得力がある。
「謝罪を受け入れます」
扇子言語のやらかし案件の定形の謝罪が終わると宰相様が部屋にいる女官に目をやり、女官はささっとお茶を淹れてくれた。
さすが王宮の女官、優雅でそれでいて手際が良い。
目の前に置かれた紅茶からふわりと芳しい香りが立つ。
心なしか妖精さんがテーブル中央の真珠色の薔薇をチラチラと見てソワソワしてる。
「ハウネスト嬢、好きな菓子を自由に食べるが良い」
宰相様が、えって顔をなさった。
確か、やらかし案件の流れは、謝罪の後はお茶を飲み飲み、誠意(慰謝料)についてのお話し合いだったような…。
私がテーブルのお菓子が気になっているのに気づいて、妖精さんが気を遣ってくれたのだろうか?
「ありがとうございます。どれも素晴らしい菓子で目移りしてしまいますわ。まずは陛下のお勧めをいただきとうございます」
お茶会マナーの、まずは主催さんのお勧めからだね。
「これを」
手ずから妖精さんが真珠色の薔薇を手折って渡してくれた。
え!この薔薇は菓子なの!?
何とびっくり、チョコの匂いがする!
「ありがとうございます」
畏れ多くも妖精さんから手渡されチョコの薔薇を前に思案する。
これはどうやって食べれば良いのだろう?
家なら遠慮なく齧るけど、この場ではアウト?
皿に載せてナイフとフォーク?チョコを?何かピッと飛びそう……。
「遠慮せず齧って食べて良い」
察し良く妖精さんが教えてくれた。
それでは遠慮なく……パリッ。
私は目をカッと見開いた。
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妖精さんは事前に宰相様にカンペをもらいましたが、新作ショコラを前に段取りは気にしないよになったようです…。





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