近衞騎士団長ヴァングラス・トルード
本当何て迷惑な泣……。
王城には侍女のルルに一緒についてきてもらった。
今日は淡い黄色のフワリとしたドレスに、髪はサイドを編み込みクルクルと後ろにすっきり纏め、同じく淡い黄色のレースのリボンで飾ってもらった。
宝石はお母さまのをお借りしてサファイアのネックレスにした。
あの地味色ドレスより絶対かわいい!
ルルも今日は楽しそうに用意してくれていた。
さあ、いよいよ王城だ。
私は貴族令嬢のにこやかな笑みを浮かべ扇子を持ち、ルルもすっと表情をできる侍女風に引き締めた。
馬車が開くと、「な!?」の騎士様がいた。
そう、エランシオの笑撃に耐えた腹筋の素晴らしい騎士様だ。
年は20代半ばか後半くらいだろうか。
夜のような濃紺の短い髪に垂れ目がちなルビーのような紅い瞳、通った鼻筋、優しい印象の整った顔の騎士様だ。
背も高く、体も某前王太子と違って実戦のために鍛えられた筋肉がしなやかについている。
勝手なイメージだが重量でドスンというよりはスピード重視な感じがする。
正直に言おう……めっちゃ好み!
そんな素敵な騎士様は私と目が合うと爆笑した。
え?なぜ??
それはそれは涙が滲むほど笑ってらっしゃる、本当なぜ?
ルルに半分閉じた扇子を右手で2回振りどこか変?と聞いたが、ルルも首を横に振りハテナを浮かべていた。
ひとしきり笑ってやっと収まったようだ。
その間、私はハテナが止まらなかった。
「いや、失礼いたしました。こんなに可愛らしいお嬢さんがあの勇敢な扇子のお嬢さんかと思ったら……」
は!?あれの事ですか!?
「ち、違うのです!あれはたまたま扇子を突き出したら、たまたま第二王子殿下が突っ込んできて、たまたまあんな事になっただけなのです!わざとではないのです!」
と、私が言うとまた笑い出した。
そんなに笑い上戸なのに、よくあの笑撃に堪えたものだと感心してしまう。
しかし、笑っている騎士様を見て私もあれを思い出してしまい、床に蹲るほど笑ってしまったのだった。
ルルが心配そうに背中を撫でてくれた。
お互いやっと笑いが収まり、私は騎士様に手を貸してもらって立ち上がった。
大きく硬い手のひらがまた良き良き!
「本当に失礼いたしました。私は近衞騎士団長のヴァングラス・トルードと申します。茶会室までエスコートをさせていただきます」
キリッと自己紹介する騎士様に私も気持ちを切り替える。
「ハウネスト伯爵家が娘、ミリアムでございます。どうぞミリアムとお呼びくださいませ。本日はよろしくお願いいたします」
ドレスをつまみ、カーテシーをとる。
お辞儀の角度は騎士団長様なので60度、で、きっちり3秒。
騎士様はちょっとびっくりしたように私を見た。
あの爆笑姿の後だと、きちんとして見えるよね……。
「私の事もどうぞヴァングラスとお呼びください。
それでは参りましょう」
私は差し出されたヴァングラスの腕に手を添えてエスコートを受けた。
そのエスコートは、以前自称王太子にエスコートされたのと全く違った。
あれはいかに優雅に早歩きをするかって自分への挑戦のようだった。
ヴァングラスのエスコートは、しっくりくるというかすごく安心感がある。
私の歩く速さに合わせてくれるのは勿論のこと、筋肉質な頼もしい腕は安定感があり、さりげなく会話を振ってくれて、こう痒いところに手が届く的なエスコートだった。
比べるのも失礼だが、本当に素敵だ。
それは丁度、王城の庭に差し掛かったところだった。
ふと咲いている可愛らしい蓮華の花を見てヴァングラスは言った。
「孫の好きな花です」
はい?孫?
「お孫さんがいらっしゃるのですか?」
「はい、3才になります。花が好きな優しい男の子です」
しかも3才!?
「失礼ですが、ヴァングラス様のお年を聞いてよろしいでしょうか?」
「33才です。14才の時に息子が生まれているので、人より少しおじいちゃんと呼ばれたのが早いかもしれません」
33才!?うちのお父さまの4才だけ下!?
14才には父親!?私の今の年より下で!?
という事は息子さんは今19才!?私より年上!?
きっと奥様とは仲がおよろしいのでしょう。
何となく恋になる前に失恋した気分を味わったのだった……。
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あの婚約破棄の日、捕縛しに来たら、エランシオの鼻から扇子の笑撃を受け「な!?」で耐えた騎士様、覚えていらっしゃるでしょうか?
ヴァングラスは騎士達の先頭にいて、もろにその笑撃を受けた方だったりします。
※2024.4.18 ヴァングラスの顔の傷を無くしました。
よろしくお願いしますm(_ _)m





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